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研究者に聞いてみた!

 今回のアースリウムで紹介している温暖化予測シミュレーションの計算を実際に行い、温暖化研究の最前線で活躍している国立環境研究所の江守正多(えもりせいた)さんを訪ねて、お話をうかがいました。

江守正多さん

●研究をはじめたきっかけは?

 私がまだ学生だった1990年頃に地球温暖化が話題になり、本などを読んで勉強しているうちに、「本当に温暖化しているのかどうかを知るためには、自分でちゃんと勉強して実際に専門家になってみないとわからないだろうな」と考えたんです。それで学生の時から国立環境研究所に出入りするようになりました。その頃、ちょうどコンピュータで温暖化を予測する研究プロジェクトがスタートしたばかりで、先輩研究者の手伝いをしているうちに、本格的な研究の道に進むことになりました。

●温暖化予測研究の魅力とは?

 天気予報の場合には、予測の結果があっていたかどうか、毎日のように「こたえあわせ」ができるのですが、温暖化の予測シミュレーションの場合には、本当に予測が正しかったかどうかは100年たってみないとわかりません。科学の狭い定義で言うと、あっているかどうかチェックできないのだから、科学とは言えないのではないか?という素朴な疑問があるわけです。けれども、予測研究が科学であるかどうかをまじめに突き詰めていくと、やはり科学として非常に魅力のある面白い分野だなということがわかってきます。

 シミュレーションをすると何かしら答えが出てきますが、それ自体は科学とは言えません。でも、その答えに対して「なぜ?なぜ?」と問いが生まれて、現実の世界の現象と照らし合わせたり、過去のデータを調べたりしているうちに、地球のメカニズムに対する考え方が正しいとか正しくないということがわかってきます。そのプロセスの中に科学的な達成感があると感じます。また、そのプロセスを通じて予測の精度を高めていくこともできるわけです。

 また社会的な面でもやりがいがある分野です。温暖化の問題は多くの人が興味を持っていますから、私とは違う分野の専門家、政策を考える人、企業、時には一般の人まで、いろんな立場の人が「温暖化しているのは本当ですか?」と聞いてきます。それらの質問にきちんと答えられるようにならなければならない、という点で強い責任感を感じながら研究をしています。

●なぜ100年後のことが予測できるの?

 ボールを上に向かって投げるとします。どのぐらいのスピードで投げたかということがわかれば、何秒後に落ちてくるかを計算で予測することができますよね? ボールの動きが物理の法則に従っているからなんですけど、基本的にはそれと同じです。ボールではなく、空気のかたまりに物理の法則をあてはめて計算するわけです。今日の地球をひとつの出発点にして計算すると、ちょっと先の地球の状態を知ることができます。そのちょっと先の地球を次の出発点にして、さらに先の地球を予測する、ということを繰り返して、未来のことを予測しています。もちろん100年後のある日の天気は予測できないのですが、たとえば、2080年〜2090年の東京の平均気温が、今とどれくらい違うかというようなことは予測することができます。

 計算結果から2100年の地球がどんな世界になるかと言えば、海よりも陸上で気温が上がる。高緯度の方が気温が上がる。夏よりも冬の方が気温が上昇する。南極のまわりの海や北部北大西洋では、温度上昇が低い。熱帯太平洋や高緯度では雨が増えるところ多くなり、亜熱帯では逆に雨が減るところが多くなる。というようなことは、だいたいどのシミュレーションでも一致していて、理論でも説明ができるので、自信を持って言えると思います。

●今後の研究予定は?

 気候の物理的なメカニズムだけでなく、生態系の影響や大気の化学反応までを含んだ地球システム全体をモデル化して、植生の変化を予測したり、グリーンランドの氷がどのように溶けていくかを計算したりしてみるということを考えています。この「地球システムモデル」はほぼ完成していて、2007年度には本格的な計算をしてみようと考えています。

 また、今回の温暖化予測の計算よりもさらに高い精度で、20年〜30年ぐらい先の予測計算をする予定です。計算結果は例えば「ある強さの台風が来る確率は30年後に○○%になります」など、確率的な答えを出そうと考えています。どのように気候が変わるかを具体的に知ることで、たとえば堤防を作ったり、農業で言えば品種を変えたりするなど、社会的にリアルな対策を考える上で、より確実な予測が必要になってきているからです。

●温暖化を止めるためにはどうすればいいでしょう?

 一人ひとりができること、政府ができること、企業ができること、それぞれありますが、一人ひとりができることは決して小さくないと思っています。電気を消したり、エアコンの温度を調節したりするというようなことからでも、たくさんの人が行動をすれば大きな影響を与えることができます。

 シミュレーションによる予測にはどうしても不確実性があります。不確実な予測に基づいているのに、国民全体が同じ方向を向かなければならないと言われることに違和感を覚える人もいると思います。それはむしろ健全な感性なのですが、それにも関わらず、今はみんなが協力しなければ二酸化炭素の削減は実現できないという局面にいるわけです。ですから、どこまでが正しく、何が不確実なのかということを、いろんな人の意見を聞いたり、いろんな情報を調べたりして知って正しく理解して、そして行動して欲しいと思います。

●江守さんにとって「地球ってどんな星?」

 一言で言うと「変わりつつある星」です。
 地球はどっしりとしていて、それほど大きな変化はしないと思いがちですが、そんなことはなく、人間の産業活動のせいで、徐々にではあるけれども確実に変化しつつあります。じわじわっとした変化だからこそ不気味なんですね。いま二酸化炭素の排出を止めたとしても、慣性が働くために気温は100年くらい上がり続けますし、海面の上昇については1000年は止まらないと言われています。そういう変化だということを、みんながもっとはっきりと認識してもらえたらと思います。

一人ひとりができること
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