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専門家に聞いてみた!

 live earthや今回のアースリウムに地球全体の雲画像を提供いただいている、(財)日本気象協会を訪ねてお話をうかがいました。

林英美さんと後藤あずみさん

●気象衛星はどのように役立っていますか?

林: 30年以上前に気象衛星が地球の外から初めて写真を撮影しましたが、地球の外から見て、雲がどのように広がっていて、どのように動いているかがわかるようになったのは画期的なことでした。ひとつの気象衛星ではカバーできる範囲が限られているため、今ではいくつかの衛星により、地球全体の雲の様子を把握できるようになっています。地球をとりまく大気がどのように動いているかがわかるようになりました。

後藤:世界気象機関(WMO)が、データ形式の標準化など国際間の調整を行っているため、世界中のほぼすべての地域のデータが同じような品質で提供され、自由に使うことができるようになっています。アメリカの「ゴーズ」という衛星が故障した時には、ヨーロッパの衛星を代わりに使ったり、「ひまわり」の寿命が尽きかけた時には「ゴーズ」が観測を引き継いだり、お互いに助け合いながら観測しています。衛星による観測が始まる前は、台風も富士山の頂上にあったレーダーが届く範囲でしか、その様子を知ることができなかったので、かなり近づいてくるまでわかりませんでした。それが、衛星からの観測では、台風が生まれそうな時点から監視できる。これは大きな違いです。

林:1951年以降、台風の記録は整っているのですが、衛星が無かった頃は、おそらく見逃していた台風も多かったかもしれません。当時は漁船が突然、小さな台風に遭遇するというようなことがあったんです。今は、そういうことはあり得なくなりましたね。

後藤:いま、天気予報は数値予報(コンピュータによる予測)が中心です。その精度を決めるのは、コンピュータ上の予測モデルの精度と、最初に与える初期値(現在の気象の状態)の質と量です。モデルの精度に関しては、ほぼ限界近くまで上がってきているので、初期値の精度をいかに上げるかということが重要になっています。地上観測ではどうしても観測点に偏りがあるなどの限界があるので、地球をくまなく観測できる衛星からのデータは、この点でもすごく貢献しています。

●雲の動きから何がわかるの?

林:天気を予報する際には、5km〜10kmくらいの高さの空気が立体的にどのように流れているかを知ることが重要なのですが、雲の動きを追いかけることによって、その流れを知ることができます。唯一、空気の動きを見る方法が雲なんですよね。雲を見れば、雲が出ているあたりの空気がどのように動いているかというのはほぼわかる。逆に雲がないと、なかなか動きをつかむのは難しい。

 ところで、みなさん雲が動いていると考えがちですが、実はそうではないんですよ。たとえば今、九州にある雨雲が、そのまま動いて関東まで来るわけではないんです。雨雲自体はせいぜい2〜3時間で消えてしまう。雨を降らせやすい空気の状態(位相)が動いているということなんです。つまり雲が動いているのではなくて、空気の動きというのがあって、その動きの中で雲が生まれたり消えたりしている。というイメージなんです。

●気象の仕事の魅力は?

後藤:気象衛星の画像は、様々な分野で無くてはならないものになっているので、安定して質の高い情報を提供する仕事はやりがいがあります。世界全体で運用されているということも魅力のひとつで、私と同じように気象衛星データを扱っている海外の人たちと交流できることも面白い。別の国の人だけれど同じような問題を抱えていたり・・(笑) 自分の子どもには、私の仕事は天気予報の元を作ることだよ、というようなことを話しています。先日「ひまわり」に不具合が生じたときも、「大変だ!」とまるで「ひまわり」が落ちてきたかのように大騒ぎつつも(笑)協力してくれました。

林:私は小学校の低学年の時から天気予報の仕事をしたいと思っていました。夏休みの宿題の延長で「雲日記」というのをつけていたんです。その後、天気図を毎日書くようになって・・・その天気図が毎回姿を変えていくことがすごいと思っていました。天気図というのはキレイなんです。自然がつくり出すものというのは全部美しいはずだと思うんです。その自然が毎日毎日移り変わっていく様子に取り憑かれてしまったんですね。今は天気図だけでなくて、衛星写真によって雲の流れとしても見ることができる。自分が好きなことを仕事としてこられたというのは、本当に幸せで素晴らしい人生だと思います。

●未来の天気予報への夢は?

林:プライベート予報とでも言うのでしょうか、天気予報をもっと一人ひとりに向けて発信できたらと考えています。例えば台風なんかでも、ひどい被害に遭う方というのは、「初めての経験」という場合がほとんどで、たいていの方が、「まさか自分が・・・」と思っているんですね。そういう人に、どうやって詳しい状況が的確に伝わるようにするか、というのが私の今の課題です。とはいえ、本当に細かい予測というのは難しい。もしも天気予報が100%あたるようになったら、社会の仕組みを変えなければならなくなりますね。行楽地は晴れた日にしか人はやってこなくなっちゃいますし、交通渋滞なども変わるでしょうね。そうなると大変なことになってしまう。だからカンペキには当たらない方がいいんですよ(笑) でも、今よりもうちょっと予測の精度が上がるくらいが一番いいのかなと思っています。

●雲の画像からどんなことを読み取って欲しいですか?

後藤:地球は生きていてつながっている、ということを知って欲しい。外国と聞くと、全然違う世界のような気もするけれど、そうではなくてつながっている。どこかで起こった現象は、何らかの形で他の場所にも影響として表れます。いくつもの国に分かれていても、地球を包む大気はぐるりと1枚につながっているという感覚を育むことはとても大事だと思います。

林:今の子ども達は実体験が少なくなっていると思います。疑似体験でも良いから、とにかく興味を持ちさえすれば、表に出て雲を眺めてみるきっかけになるかもしれない。例えば東京と福岡とか、全国の子ども同士がネットを通じてお天気のやりとりができたりすると面白いと思います。「いま、ここは激しい雨が降っているよ」とかね。ちびっ子気象予報士なんていうBLOGができるといいですね。

後藤:そうそう。実際に、雹(ヒョウ)などの局地的な現象は、そういうことでしか捕まえられないことも多いし。

林:全ての小・中学生が世界の雲の画像を見て、そして大人になったらスゴイですよね。そこに的確な解説があったら、もっと良いですね。毎朝、学校で衛星の画像を見せて「ほらここを見てごらん、これが夏の高気圧だよ」なんてことを体験しながら子どもが育ったら、それはものすごい価値がある。教育テレビで毎朝一回放送したらいいかもしれないですね。

●後藤さん、林さんにとって「地球ってどんな星?」

林:「ものすごくちっぽけな星」でしょうか。こんなに宇宙が大きくて、地球はこんなにちっちゃい。さらに自分はもっと小さな存在です。そんな中でくよくよしていてもしょうがない。精一杯一生懸命生きようよ!と思います。いろんなことを乗り越える原動力ですね。

後藤:30〜40億年も前から、生命あるもの全てを生み育て、養っているすごい星。生きていける環境から、食べ物、エネルギーまで、全て惜しみなく提供してくれている母なる星というイメージがありますね。

林:昔は、そういう大事なことっておじいちゃん、おばあちゃんが教えてくれたんだよね。雲の画像を通じて、ぜひ世界がつながっていることを体験してもらいたいですね。そうすれば、地球を大事にしようという気持ちが生まれてくるのではないでしょうか。

一人ひとりができること
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