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専門家に聞いてみた!

玉村美保子さん

●世界食糧計画(WFP)はどんな仕事をしている組織ですか?

 1日に1食しか食べられない子供達が世界中にたくさんいます。例えば、いまソマリアで紛争が起きて、難民が増えています。そういった人たちへのライフサポートとして、緊急食糧援助を行っています。
 具体的には、WFPが世界中から食糧を調達して現地に届けます。各国事務所は、実際に食糧が現地のコミュニティに届いているかどうかを見届けるのが仕事です。食糧を積んだトラック(フード・コンボイ)が現地まで運び、家族の代表の人たちに来てもらって、その場で直接渡します。そうして年間に、1億人前後の人たちに援助しています。時には略奪なども起こるので、大変な仕事です。危険な場所では、フード・コンボイを政府軍が護衛しながら届けることもあります。
 紛争や大規模な自然災害などの緊急事態の場合、メディアにも大きく取り上げられ、国際社会が動いて、大きな支援が集まります。しかし、インドの奥地や、ブータンの山の中で暮らしている子どもたちなど、長いあいだ、ずっと貧困で苦しんでいる人たちへの支援はなかなか行き届きません。こうした人たちだけでも世界に8億5千万人以上もいます。WFPは緊急援助だけでなく、普段から(恒常的に)飢餓状態にある人たちへの支援も行っています。

●緊急援助以外の飢餓に対して関心を持ってもらうための工夫はされているのですか?

 ただ単に食糧を援助するのではなく、学校給食という形での支援を行っています。実は、日本でも第二次大戦が終わった後、すぐに学校給食が始まりました。どんなに貧しくても、とりあえず学校にさえ行けば給食を食べることができた。学校給食の原点として、100年以上前に、山形の学校で貧困地域の子ども達におにぎりを出すという試みがありました。このように、100年前に日本の農村部で行われていた給食が、いまアフリカで提供している学校給食と意味合いがとても似ているのです。国によっては、朝ごはんに給食を出すところもあります。学校に来て、まず食事することで空腹から逃れられ、勉強に集中することができる。そんな考え方で取り組んでいる国もあります。給食は自分たちも食べたことがあるわけですから、比較的わかりやすい活動として知っていただけることが多いようです。

学校給食
給食を出すと子どもたちが学校に来るようになる(ケニアの学校で)。
PHOTO:WFP

●最近の変化は?

 昔は、活動の80%が恒常的な飢餓に対する支援でした。学校給食だけでなく、農村開発を行うことで長期的に飢餓を無くしていく活動などです。それが、90年代に入って逆転してしまいました。いまでは、ほとんどが緊急支援です。
 特に地球温暖化が原因と思われる気候変動は、年々激しくなっていると感じます。雨が降るときに降らなかったり、本来は雨が降らない時期にたくさん降ったり。最近の飢餓の原因の60%は自然災害です。飢餓の問題イコール環境問題と言っても良いのではないか、と考えるようになってきています。さらに、自然災害が起きる地域で、同時に紛争が起きていることも最近の特徴です。
 例えば、2006年8月にソマリアの国境近くを訪れましたが、ものすごい干ばつが起きていました。あたりは、干ばつによって死んだ家畜の死骸だらけ。水も全くありません。食べていくことができなくなった遊牧民が避難して路頭に迷っていました。すぐ隣では紛争が起きていて、難民がどんどん出てくる。しかし街は、難民を受け入れる余裕すらありません。WFPは、難民と遊牧民のどちらにも支援しなければならないのです。
 さらに驚いたのは、8月には干ばつだったのに、9月には今度は洪水が発生しました。ヘリコプターや飛行機で、上空から緊急食糧援助をしなければなりませんでした。干ばつが続きすぎて、大地がコンクリートのように固くなって、雨が染みこまずに洪水になったのです。完全な悪循環ですよね。こういうことが、アフリカのいたるところで起こっています。過去10年以上、毎年のようにアフリカに行っているのですが、どんどん変わってきています。砂漠化も進んでいます。あと10年たったら、街には人がいなくなってしまうのではないか?と心配しています。

●どうすれば解決できるのか?

 まずは、対症療法的にやらざるを得ない。問題が発生したところに緊急援助をするわけです。しかし、対症療法だけではダメです。根本的な解決のためには、環境問題を解決するしかないのではないか、と思っています。実はWFPは、40年以上にわたって世界中で植林していて、国連の中で、最も木を植えている組織なんです。植林以外にも、長期的な食糧の増産能力を高めるために、灌漑事業を行ったりしています。
 たとえばアフガニスタンは、かつてはとても美しい場所だったのですが、干ばつが繰り返し起きて、今では見る影もありません。さらに紛争が重なっています。紛争があると、社会インフラが整わなくなって、自然の手入れができなくなったり、難民が流出したりして、環境も悪化していきます。いままた治安が悪化しつつあるのですが、首都カブールの近郊で、現地の人たちにも手伝ってもらいながら植林を続けています。

●玉村さんにとって地球ってどんな星?

 あまり悲観的にはなりたくないのですが、「格差が拡がっている星」と言えるのではないでしょうか。普通の世界地図は、あまり現実を語っていないような気がします。WFPには、国の中で、どの地域が困っているかを詳しく地図に描く部署があるんです。そこで作られた地図を見ていると、貧富の格差、地域格差がはっきり見て取れます。グローバルには、国と国の格差があるし、国の中でも地域による格差がある。富める人と貧しい人の差があまりにも激しい気がします。
 たとえば、この飢餓マップで、みどりのところに住んでいる人はお金持ちの国です。そういう国の人たちの行動で、貧しい国の人たちが被害を受けている、と言っても良いのではないでしょうか。
 自分たちで現地に行って何かするのは難しいけれど、環境問題であれ、飢餓の問題であれ、グローバルな問題に関心を持つことが大事だと思います。そして、関心を持ったら、そのことを友達や家族に伝えたり、話しあったりすることが、結果的に政府にも影響を与えるのだと思います。

グローバルな問題に関心を持ち、それを人に伝えよう!
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