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言語の多様性

 両親が使っていて、生まれた赤ちゃんが最初に覚える言葉を「母語(ぼご)」と呼びます。地球上にはいま、6000〜7000もの母語があるとされています。世界の国の数は2009年時点で194ですから、ひとつの国で多くの言語が使われており、言語が国を分けているのではないということがよくわかります。

 言語と一口でいっても、調べてみるととても複雑です。たとえバリエーションがあっても、方言としてひとつの言語の中に組み込まれる場合もあれば、方言のように似ている言葉であっても、国が違うために別の言語とされることもあります。
 たとえば、北欧のスカンジナビア諸国は、ノルウェーはノルウェー語、スウェーデンはスウェーデン語、デンマークはデンマーク語を母国語とし、それぞれ独立した言語と位置づけられています。しかし実際には、この3つの国では、どの国の言葉を話しても大体通じてしまい、日本人の感覚からすれば方言といってもいいくらいの違いだそうです。ほかにもイタリアで育った人は、ポルトガル語とスペイン語はだいたいわかるといいます。

 中国やインドのように、ひとつの国家でたくさんの言語が使われている国もあります。たとえば、多民族国家であるインドでは、400以上の言語が日常生活で使われており、隣の州の人どうしが意志の疎通ができないくらい違う言語を話しています。これだけ言葉が通じない国民が、ひとつの国としてまとまるのは大変なことです。そのためこうした国は、国民が共通に使える「公用語」を決めています。インドではヒンディー語が公用語に定められています。

 多くの民族が同居している国では、複数の公用語が定められることもあります。たとえば、カナダでは英語とフランス語、ベルギーではフランス語、オランダ語、ドイツ語の3つ、シンガポールは英語、中国語、マレー語、タミル語の4つが公用語に定められています。旧植民地国家も複数の公用語を持つ国が多くあります。イギリスに支配されていたケニアはスワヒリ語と英語、フィリピンはタガログ語と英語、というように。
 ちなみに、国連で使われている公用語は英語、ロシア語、中国語、フランス語、アラビア語、スペイン語の6つ。ドイツ語、イタリア語、日本語は入っていません。これは第二次世界大戦で勝った国が作った国際連合ならではの選ばれ方です。

 インターネットの普及によって急速に使う人が増えているのが英語です。現在、人類全体の3人にひとり、約20億人が英語を話せるといいます。母語や公用語に加え、世界とのコミュニケーション・ツールとして英語を使う人が増えているのです。

 一方、ピジンと呼ばれる言語があります。外部の人と商売を成立させるため、とりあえず「その場しのぎの間に合わせ」のためにつくられた言語のことで、寿命も100年以内のものが多く、生まれては消えていく言語です。そのピジンが発達して、あるコミュニティの母語になるとクレオールと呼ばれます。また、エスペラント語のように人工的に作られた言語もあります。「手話」も言語といえるでしょう。

 このように、言語は政治や文化、民族、歴史といった、人間の営みと切り離して考えることはできない複雑で多様な世界なのです。

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