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専門家に聞いてみた!

篠田謙一さん 国立科学博物館

Q: 地雷廃絶の活動を始めたきっかけは?

(内海)一番のきっかけは、NGOの障害者支援プログラムでカンボジアに行ったことです。ICBLがカンボジアで活動が始まって軌道に乗り始めたころ、ちょうど私もカンボジアにいたんですね。私が行った90年代中ごろは、地雷被害者の数は世界で最もひどい国のひとつでした。カンボジアで障害者が集まると、手足のない人たちが多いというのが本当に衝撃的でした。それは、今でもとてもよく覚えています。つまり障害者支援には、地雷の問題は切っても切れないのです。

 途上国の障害者支援というと、かわいそうな障害者の人に車椅子あげますとか、毛布あげますとか、彼らのニーズを全然調べず、「お恵み」みたいに配るようなチャリティープログラムが多い。カンボジアでも、そういうプログラムが多いことに憤りを感じていたんですね。それでは全然問題の解決にならないから。でもICBLの取り組みはそうではなくて、そもそも彼らを助けるためには、地雷をやめなきゃいけないし、そのためには条約をつくるという考えでした。それでJCBLに関わるようになりました。

(林)僕の場合は、核兵器の問題を勉強していた時に、軍縮と市民、あるいはNGOの活動に興味を持ったんですね。そこから周りを見ていくと、地雷というのがひとつ大きなテーマとしてあった。僕が大学生のころ、オタワ条約は既にあって、その成立にNGOが大きく関わったということはよく言われていました。こんなおもしろい事例があるのかということで、じゃあ、直接に関わってみようと考えたのです。

Q: ICBLの活動はどこがユニーク?

(内海) ICBLの活動が地雷を禁止する条約を作る原動力になるのですが、その活動の出発点が一般人の犠牲者が多いという問題意識だったんです。ですから条約を作るときも、犠牲者をいかに救うか、あるいは無くすかというテーマがずっと中心にありました。そうして作られたオタワ条約には軍縮の条約としては大変珍しく、国際協力として犠牲者支援をやっていきましょうという文言が締約国の義務の中に書かれているんです。それは画期的なことでした。

(林)条約の前文に、NGOのICBLという言葉が出てくるんですよ。クラスター爆弾の場合はCMC(クラスター兵器連合)というNGOの名前が刻まれている。彼らの功績であるというような一文が入っていて、これは条約の中で非常に画期的なことで、少なくとも他の軍縮条約には絶対にありません。

Q: 犠牲者支援の現場は?

(内海)国の支援、ODAの支援は地雷除去が主体で、多くのお金も人もたくさん費やされました。でも犠牲者支援は、少ししかお金がなくて。でも必要だから、その活動をNGOが担っていたんです。規模は圧倒的にNGOのほうが小さいので、限られた人たちにしか支援が届かなくて、多くの犠牲者の生活はあまり変わってないという問題が今も続いています。

 犠牲者支援をさらに細分すると、少ないリソースがさらに医療支援に集中しています。事故に遭った直後に、手足とか、目とか耳とか、身体の一部をなくした人が、その部分から感染症にならないための手術をします。手術後、ある程度経過を見てリハビリをして、いろんな補助具を使って生活できるようにする。これはもちろんとても重要です。でも人生はそこで終わりじゃないのです。事故があってから、リハビリが終わるまで、どんなに長くても4年ぐらいと言われています。地雷によって同じ生活ができなくなってしまった人が、もう1回社会で、子供だったら学校に行く、社会人だったら何らかの働く場があるということは、自尊心を保つためにとても重要です。そのための支援が必要なのですが、残念ながらほとんどありません。

 例えば心理的なケアとか、新たな仕事につくための技能訓練とか。さらに広げて考えれば、彼らが不自由なく暮らせるために社会をバリアフリーにするということもある。話がだんだん大きくなっていって、ひとつのNGOが抱え込めるような問題では全然ありません。

 ただ、こうした問題意識はクラスター爆弾の禁止条約(オスロ条約)の時には生きて、締約国は国として犠牲者支援に取り組まなくちゃいけないということになりました。でも今は、そういう考えが広まり、認められ、文章になった段階で実際には全然まだ足りていません。

Q: これからの展望は

(内海)97年に地雷禁止条約ができて、その後、2006年に障害者の権利条約ができました。そのおかげもあって08年のクラスター爆弾禁止条約では犠牲者支援の条項が大変充実した条約になりました。私たちの責任において、この条約を使って障害者の問題全般の解決を進めていかなければなりません。きっと進んでいくだろうと思います。少なくとも後戻りはない。

 女性の権利も、50年ぐらいで驚くほど変わりましたよね。私は将来、途上国で障害を持った子供が障害のない子供と同じように一緒に学校に行くようになって「昔は障害者は学校に行けなかったんだって」というような時代が来るということを夢見ているんです。

Q: 若い人たちに期待することは?

(内海)地雷問題は、国づくりとか、教育とか、あるいは農業とか、国際協力とか、ありとあらゆる政策に影響するんですね。地雷問題だけ解決ということはあり得ないんです。いろいろなことに興味をもって、地雷問題の背景にある問題についてもぜひ考えてもらいたいと思います。

(林)地雷問題を解決したのが市民の力だったというのは、やっぱりすごく大きなことだと思うんですね。一人ひとりは小さくても、集団になれば何かしらできるというのは、この事例が一番顕著に示していると思うので、そこはぜひ学んでほしいですね。地雷問題があるんだという知識以上に、その解決への道筋を実現したのは市民であるということを。

Q: 地球ってどんな星?

(林)地雷みたいにいろんな問題が地球上にあると思うんです。それは人間が発展していく中で生み出したと思うんですけれども、それが徐々に解決されていると思うんです。だから、善と悪が渾然一体となって、まだら模様になっていて、今は善の方が広がっているというイメージです。

(内海)ICBLってすごく緩やかなネットワークなので、いろんなイデオロギーの人がいるし、宗教もいろいろ。敵対している国の人たちや条約に入っていない国の人もいて、そういう人たちが地雷ということだけでつながっているんですね。すごい緩やかだけど、地雷ということに関しては確固たるネットワーク。こんなことってできるんだなという感じ。社会を変えようと思ったら、一人の声から仲間を募って力を合わせればここまでできる。だから、人間の力で変わることができる星なんだと思います。

NGOではいろいろな経験ができます。ぜひ興味のあるNGOに参加してほしい
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