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専門家に聞いてみた!

一般社団法人コンサベーション・インターナショナル・ジャパン 代表理事 日比保史さん
Q: コンサベーション・インターナショナルとはどのような団体ですか?

A:ワシントンD.Cに本部がある国際NGOです。世界31カ国に事務所があり50カ国以上で活動しています。主に、貧困や生物多様性問題の最前線となっている途上国での活動に力を入れています。スターバックスなど企業とのパートナーシップを積極的に行ったり、国家予算を環境保全に割り当てることを条件に途上国の借金を帳消しにする「環境債務スワップ」という手法を編み出すなど、ユニークな活動で成果をあげてきました。実は、2010年に団体のミッション・ステートメントを変更しました。以前は「自然を守る」ことが最終的な目標だったのですが、新しいステートメントは自然を守ることによって「Human well being= 人間の幸せ」の実現を目標とするようになりました。これは大きな転換でした。 途上国の貧困を減らし、人類全体の生活の質を向上させるためには、自然が守られていなければならないということなのです。

Q: 日本事務所はどのような活動をしていますか?

A:これまでと同じ経済のあり方では、生物多様性保全にお金が回ることがありません。そこで、新しいお金の流れを作り出す仕事をしています。たとえば、ODAの使い方を日本政府に提案する。特に日本は世界銀行、アジア開発銀行や国連機関のスポンサーでもあるので、政府を通じて生物多様性に対する考え方を提案することもあります。たとえば、気候変動枠組み条約の締約国として、代表団を送って交渉しますが、CIJのスタッフが気候変動という観点から森林保全に取り組む専門家として代表団の一員となって交渉に参加するといったことまで行います。
 また、民間企業からの資金も重要です。企業の社会貢献活動として、寄付を通じて環境保全活動を促進することも大事な仕事です。また、寄付だけでなく、ビジネスのあり方自体を変えていく提案もします。サプライチェーンと言いますが、製品の原料を採って、加工し、運び、製品を作り、売って、廃棄して・・・という製品のライフサイクル全体を見て、自然環境にどのような影響があるかを評価し、その影響まで意識した経営のあり方を呼びかけています。 また、普及啓発や教育活動も大事な仕事です。メディアや大学などと連携して生物多様性の重要性を理解してもらう活動を仕掛けています。

Q: 実際のプロジェクトで大切にしていることは何ですか?

A:実は生物多様性問題は貧困問題と言っても過言ではありません。経済的に厳しい状態になると、人は背に腹は代えられず、自然からの恵みをお金に換えようと、違法であっても木を切ったり、狩猟を行ったりします。そのため、生物多様性の保全活動は、その地域で暮らす人たちの経済も視野にいれる必要があります。
 たとえば、森には水源を守ったり、洪水を抑えたり、と言った様々な機能がありますが、その機能を取り戻すことだけを目標に、再生に70年とか80年かかるような木を植えるだけでは問題の解決にはなりません。地域の人たちが生計を立てられる手段を同時に考えなければなりません。例えば実がなる木を植えて食料をまかなったり、お金に換えることができるようにアグロフォレストリーを取り入れたり、適切な技術支援を行ったり、パトロールをしたり、意識を高める活動を行ったり、あらゆる手段を検討する必要があります。また地域の基金を作って、生計をサポートしたり、森林再生に使ったりするような仕組みを作ることも大切です。プロジェクトが終わったら元の木阿弥では意味がありません。仕組みを作って残していくことが大切なのです。

Q: 生物多様性の保全を仕事にしたいと思う人はどのような勉強をすれば良いのでしょうか?

A:二つあると思います。一つはサイエンティストとして専門家になる道です。そのためには、生物学を勉強する必要があります。博士号を取得して、ようやくその入口に立つことができます。その上で、さらに専門分野を確立していくという道です。
 実は生物多様性というのは、とても幅が広い分野です。人間の暮らしは健康な生態系から与えられる無数の恵みによって支えられています。人が生物として生きていくための基本的な要素である、食べ物、水、土壌、空気など。さらには経済的、文化的な恵みまでを考えると、およそ生物多様性と関わらない社会の分野は存在しません。どこでどのような仕事をしていても何らか関わっているのです。そういう意味では、まず社会の仕組みをしっかり知って、身につけることが大事だと思います。コミュニケーション能力や、計画を立てて実行していく能力、また企業がどのようなことを考えてビジネスをしているかをしっかり理解していないと、生態系保全の重要性を伝えることはできません。生物多様性保全の仕事は何十年もかかる一生を賭けた仕事だと考え、まずは一般企業に入って、社会の一角を担うことが入口であっても良いと思っています。

Q: 日比さんにとって地球はどんな星?

A:小さい頃は天文少年でした。小学校の頃に、望遠鏡を手作りしてみたり、中学の時に天文学者のカール・セーガンが来日した時には講演を聞きに行ったりしていました。カール・セーガンの著書『コスモス』に地球外の知的生物の章があって、木星だったらこんな生きものがいるとかが描かれていました。でも私たちが知る限り、未だにこの広い宇宙で他に知的生物がいる星は見つかっていません。それが奇跡なのか、たまたま他に見つかっていないのかはわからないのですが、でも、この地球がかけがえのない星であることは確かです。そして、たまたま知性を持った人間としてこの星に生まれた以上は、この生命システムを守っていくのは自分の使命なんだろうと考えるようになりました。だから、私にとって地球は「宇宙広しと言えども、他には無い星」だと思います。

幅広く捉えれば、生物多様性と関わっていない社会分野はありません。
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