2013.09.24 Tweet

from 奈良 vol. 64 学びはもっと楽しく、ラディカルに。ワークショップの第一人者が考える「ラーニング3.0」

いま企業や学校、病院から自治体まで、あらゆる場で研修や交流を目的としたワークショップが盛んに行われています。身体表現や工作を行う子ども向けのワークショップも花盛りです。学びが個人的なインプットの行為から、同じ興味をもつ人たちが集まってコミュニケーションをとりながら新しい学びの文化を創造する活動へと、形を変えていることの現れといえそうです。

日本にワークショップという言葉がまだなかった1970年代から、学び・ワークショップの研究を続けてきたのが、同志社女子大学現代社会学部教授の上田信行さんです。「プレイフル・ラーニング」という言葉を掲げ、学びのオルタナティブを模索し続けてきました。

学びは一人で向き合うもの(learning1.0)から、他者との関わりで育まれるもの(learning2.0)へと進化し、今さらに次の段階(learning3.0)に進もうとしている、と上田さんは考えています。

学びの未来を探りに、奈良・吉野のネオミュージアムに上田さんを訪ねました。
(Text by Atsuko Koizumi)

目次へ移動 セサミストリートとの出会い

ネオミュージアムは上田さんが自ら建てた実験的アトリエです。緑あふれる建物からは吉野川が一望でき、風が心地よく吹いてきます。この場所で、これまでに多くの人々が出会い、新しい学びに触発されていきました。

064-002.jpg 奈良・吉野にあるネオミュージアム。ウェルカムボードで来訪者をもてなすのが上田流

064-015.jpg ネオミュージアムの窓からの風景

上田さんが学びに取り組むきっかけとなったのは、大学3年生のとき、日本で放映が始まったばかりの幼児向けテレビ番組 『セサミストリート』 に出会ったこと。パペットと一緒に歌を歌いながらアルファベットや数字を覚えるのだって!? 当時の学習といえば、先生が子どもたちに教える一方通行型が常識でした。そして、できるだけたくさんの知識を頭に詰め込むことがほめられる時代。 「教育は楽しくていいんだ!」と衝撃を受けました。

実際、『セサミストリート』は楽しく学ぶことの効果を証明しています。それまでアメリカでは幼児の教育にほとんど関心が払われていませんでしたが、 1000人以上を対象にした調査で、『セサミストリート』を見ている子どもは見ていない子どもに比べ、文字や数字の認識力が高いという結果が出ている といいます。

アメリカンフォークのバンドを組み、エンターテインメント業界やテレビの仕事に興味を持っていた上田さんは、「これこそやりたかったこと」だとアメリカへの留学を決意。セントラルミシガン大学大学院で視聴覚教育を学びますが、実はこのときは英語にも苦労し、楽しい学びとはほど遠い留学生活だったそうです。

けれども休暇中に、ニューヨークにある『セサミストリート』の制作現場を見学する機会に恵まれます。『セサミストリート』を制作していたのは、非営利団体のチルドレンズ・テレビジョン・ワークショップ(CTW、現セサミ・ワークショップ)。現場はまさにワークショップでした。大人たちがワイワイと楽しそうに、コミュニケーションをとりながら、番組をつくっていました。とはいえ、決してお気楽にやっているわけではありません。実に真剣に向き合っていたのです。 実験を重ねながら、真剣に楽しむ――そんな彼らの姿が、上田さんのプレイフル・ラーニングの原点となります。

064-003.jpg 『セサミストリート』との出会いはまったく新しい学びの体験だったという

初心を思い出した上田さんは、セントラルミシガン大学大学院を卒業後、ハーバード大学教育学大学院に入学し、『セサミストリート』を研究するジェラルド・レッサー教授のもとで学びます。さらに6年後の2度目のハーバード留学で、才能は生まれつきのものではなく発達する(Talent is developed, not given.)と説いた心理学者のキャロル・ドゥエックや、子ども向けプログラミング言語LOGOを開発したマサチューセッツ工科大学(MIT)のシーモア・パパート教授に出会います。

パパート教授の哲学は、上田さんに大きな影響を与えます。LOGOは、子どもたちがコンピュータ上のキャラクター(亀)に教えることによって学ぶことができるプログラミング環境。たとえば「四角」を描くときは、「向いている方向へ100進む」「右へ90度回転する」、それを4回繰り返すと教えます。思った通りに動かないとき(バグ)は、その理由を考えながら修正(デバッグ)します。

「バグは決して失敗ではないんです。違う方向に進んだら、直せばいいんです。答えが正しいかどうかではなく、いかにフィックスするか、とパパートは言います。僕たちは、今まで学校でそういう考え方を教えてもらえなかった」

自分で考え、試し、修正する。このプロセスを繰り返すことで、「四角とは何か」という手続き的知識を獲得するというわけです。

 さらに上田さんがパパート教授に教わったのが、「考えることを考える」。

You can't think about thinking without thinking about thinking about something.

「『何かについて具体的に考えることについて考えることなしに、思考について考えることはできない』。なんだか禅問答みたいですが、僕はこの『考える』を『学ぶ』に置き換えています。 『学ぶことを学ぶ』 。学ぶというと、テストで100点をとるとか、いい学校に入るとか、ゴールがあってそのために勉強すると考えられていましたが、そうではなく、学ぶことそのものが目的になる。学ぶことで、自分が成長することが成果になるのです」

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