2010年06月08日
ボルネオからの報告(2) ー トランスロケーション
ボルネオからの報告第二弾です。
サバ州野生生物局と現地NPOのBCT(ボルネオ保全トラスト)が行なっている重要な保護活動に、野生動物の移動(トランスロケーション)という仕事があります。今回オランウータンのトランスロケーションの一部始終を取材することができました。
キナバタンガン川の下流域に、オイルパーム(油椰子)のプランテーションに囲まれて取り残された小さな森があります。広さは80haですから、900メートル四方くらいの大きさ。ここに現在、5〜10頭のオランウータンが暮らしています。
分断されて孤立した狭い森でオランウータンが生きていくことはできません。食べ物が枯渇して餓死してしまう可能性があるだけでなく、他のオランウータンと出会うことができないため繁殖のチャンスもないからです。
このオランウータンを一頭ずつ救出して広い森に移します。
1日目、「トラッカー(追跡者)」と呼ばれる4名のレンジャーたちと森に入りました。森の湿度は80-90%、虫に刺されたり、ヒルに吸われないように完全防備体制。ちょっと歩くだけで、全身から汗が流れます。
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レンジャーたちは、様々な痕跡を頼りにオランウータンを探します。地上を歩いた痕跡、アンモニア臭(おしっこの匂い)、食べた葉っぱの状態(この森には実のなる木がほとんどないので、主に葉っぱを食べています)など。特に重要なのが巣の跡。オランウータンは木の上に葉っぱで寝床を作りますが、高い頻度で場所を変えます。木の葉が青い色をしていれば最近作った新しい巣なので、近くにいる可能性があります。

オランウータンの巣(撮影:ボルネオ自然トラスト坪内俊憲さん)
1回目、2時間。2回目、2時間。昼食をはさんで3回目、3時間。合計7時間かけて森の中を彷徨うも、この日はオランウータンの影すら見つけられず。レンジャーも僕たちも、へとへとに疲れ果てて帰路につきました。レンジャーが一日で発見できないことは少ないらしく、プロ意識の強い彼らは、かなり落ち込んでました。
翌日は、もっと朝早い時間から探すことになり、6時集合。僕らは、前日の7時間の探索を思いだし、悲壮な覚悟をして臨んだのですが、この日はあっさり探索30分ほどで発見(ほっ)。

見つかったのは、7-8歳の若いオスのオランウータン。レンジャーたちは、麻酔銃の準備が整うまで、発見したオランウータンを見失わないように追跡、もしくはうまく誘導していきます(撮影:坪内俊憲)

麻酔を打ち込むのは、その道30年の熟練したレンジャーのエリスさん。木の上にいるオランウータンの大きさから体重を予測して、麻酔の量を決めます。麻酔の量が少なすぎると捕獲できないし、多すぎると死んでしまう可能性があるため慎重に準備。

動き回るオランウータンに狙いを定める。このあと、一発でお尻に注射針を命中させました。さすが!

麻酔が効いて動けなくなり、運び出されたオランウータン君

なんで檻の中にいるのか、たぶんよくわかっていないオランウータン君
救出されたオランウータンは、セピロックにあるオランウータンのリハビリセンターまで移送し、健康チェックを行ないます。問題なければ、人間に慣れてしまわないように3日以内に森に放します。

リハビリセンターで診察
そして3日後、12万ヘクタールの広大な森、タビンに移送してリリース。ケージの扉を開けると、あっというまに森に還って行きました。オランウータン君からしてみれば夢の中の出来事だったかもしれません。

森に還って行くオランウータン

あっという間に木に登り、自然の中へ(撮影:坪内俊憲)
今回、レンジャーたちの仕事の一部始終に付き合ってみたけれど、高いプロの技術と集中力が要求され、体力的にもキツイ仕事です。それでも年間、一人のレンジャーで40頭くらいレスキューしているとか。オランウータンだけでなく、ボルネオゾウや、ボルネオサイ、マレーベアなどもレスキューの対象です。
当然のことですが、野生動物は人間には全く慣れていません。彼らを追跡し、捕獲し、安全な場所に移す、(時には救出しない判断をする)のは並大抵の仕事ではありません。ひとたび森を離れると、レンジャーたちは人間味があってスバラシイ男たちでした。以前地球リポートで書いたように、人間の消費活動のせいで、ボルネオの野生動物は絶滅の危機にあります。ギリギリのところで食い止めようと、野生動物たちを必死になって保護しているのも同じ人間です。いったい人間は何をやっているのやら。。
(上田壮一)


