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Topics: [地球リポート] #43 持続可能な水素経済を目指すハワイ州の取り組み @アメリカ (2008.12.18)
 
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#24   拡大するソーシャルアクト〜アクションの仕掛人たち

ヒートアイランド対策のひとつとして打ち水をしようと呼びかける「打ち水大作戦」、ゴミのポイ捨てを減らすために街を掃除する「green bird」、夏至と冬至の夜の2時間、電気を消そうと呼びかける「1000000人のキャンドルナイト」など、誰もが気軽に参加できる社会運動、ソーシャルアクトが注目されています。その目的や手法はさまざまですが、共通するのは、ポジティブなメッセージの発信と、その伝え方の上手さ。参加型の楽しさで、多くの人を巻き込んでいく活動の広げ方。背景には、広告業界でのキャリアを持つ人たちの活躍があります。彼らがどのようにして活動をはじめたのか、そこで考えていること、大切にしていることを聞きました。


CONTENTS

◆ 無関心から関心へ。心のスイッチを入れるゴミ拾い
  ーハセベケンさん
  ◇ 規則じゃなくてモラル。その空気をつくる
  ◇ 2割2割6割。キーワードは、できるかぎり
  ◇ 企業、行政、市民。壁を超えて掛け合わせる

◆ 社会実験を社会運動に。「打ち水大作戦」の挑戦
  ー池田正昭さん
  ◇ メディアを巻き込んでの期待感の演出
  ◇ キャンペーンではなく、ムーブメントを
  ◇ 水から森へ。必然から広がる持続可能な社会への試み

◆アクションを誘発するデザイン
  ー福井崇人さん
  ◇ 伝えることに参加する、という参加型広告の仕掛け
  ◇テーマは明解に、伝え方はシンプルに
  ◇ リアリティとコミュニケーション

◆ ソーシャルアクトの種は足下にある


無関心から関心へ。心のスイッチを入れるゴミ拾い

ハセベケンさん
1972年生まれ。広告代理店、博報堂を経て、2003年「green bird」を設立。同年4月に渋谷区議に立候補しトップ当選をはたす。“街の美化”と“新しい地域コミュニティづくり”をテーマに、「green bird」の代表として、渋谷区議会議員として、自らの出身地である渋谷をフィールドに活躍中。著書に『シブヤミライ手帖(木楽舎)』がある。



規則じゃなくてモラル。その空気をつくる

東京渋谷の原宿・表参道を拠点に活動するgreen bird」は、いわば街のお掃除隊。週2回、ボランティアと共に表参道往復約2キロの「朝そうじ」を行っています。活動の目的はゴミのポイ捨てを減らすこと。

「きっかけは表参道の商店街が行っていたゴミ拾いに参加したこと。それがけっこう面白くて。自発的にパブリックな場所を掃除するって楽しいし充実感もある。でも掃除道具をしまう頃になると、またゴミが落ちている。これはゴミのポイ捨てをする人が減らないと、いたちごっこだな、問題の根っこ断たないと解決しないな、と思ったんです」とハセベさん。

そこで、ハセベさんは広告代理店で鍛えられた課題解決脳をフル回転させながら考えます。どうすればポイ捨てを減らせるか。条例をつくって禁止する→いや、規則で縛るのは嫌だ。それ以外の解決方法があるはず →人々のモラルで解決できないか。ポイ捨てはかっこ悪い、ポイ捨てをしないことがかっこいい、という空気がつくれないか。問題は伝え方だ→ 70年代のラブ&ピース運動を広めたニコちゃんマークの構造にあてはめてみよう ポイ捨てしない人だけが持てるマークをつくって、お掃除チームのマークにする まずはネーミング=グリーンバード マークは害虫を拾って歩くアヒルのイメージ。パンチがあって、印象に残りつつ、子供でも真似して書けるようなイラスト。といった具合に。

後はホームページやフライヤーとなるハガキ、街頭ビジョンの制作。
「僕が持っていたスキルというのは広告をつくることでもあったから、メッセージの大きな傘をつくりながら、掃除をする人を増やすことを考えた。一度街での掃除に参加すると、二度とポイ捨てしなくなる。原宿・表参道は情報の発信拠点だからここで流行ったら日本中に広がるとも思った。」
原宿・表参道でのプロモーション活動は、じわじわと注目を集め、ハセベさん自ら先頭に立って掃除を続けることで、その活動は地道な広がりを見せていきます。

週2回行われている表参道での朝掃除。ハセベさんも毎回参加している。「大切なのは続けること」とハセベさん。

ボランティアの人数は日によってまちまちで多い日は30人ほど集まるという。緑色のユニフォームは協賛企業のひとつであるナイキが提供してくれている。

ハセベさんの出身校である神宮前小学校の子どもたちも掃除活動の常連。ポイ捨てしない人だけが持てるオリジナルの缶バッチは子どもたちにも大人気だ。

街で配られるハガキや携帯灰皿は有効な広報ツール。ゴミをよく拾うひとはすごくイイモノもよくひろう」など、コピーのセンスも抜群。イラストレーターは寄藤文平さん。



2割2割6割。キーワードは、できるかぎり

「green bird」が活動をはじめてから今年で3年。下北沢、駒沢、吉祥寺、鎌倉、そして福岡にも支部が結成されました。2004年から2005年の春までの1年間、掃除ボランティアに参加した人の数はおよそ6000人。

「世の中でボランティアをしたことのある人は2割。そんなことに興味ないって人も2割。残りの6割はチャンスがあったらやってみたいと思っている。関心があるのにチャンスがないと思っているこの6割の人が、どうしたら参加できるようになるか。大切なのはハードルを下げることだと思うんですよね。ボランティアって高潔なものでなくてはならないというイメージがありますが、そんなことないし、本来はもっと簡単にはじめられるものであって欲しい。green birdは掃除に毎回来ることを強制してないし、2、3回来てゴミのポイ捨てしなくなればそれでいい。掃除のルールもなくて、ぜひお喋りしながら楽しんでやってほしい。朝の合コンみたいになったらいいなと思っているくらいです。ボランティアの基本は、できるかぎり。できるかぎりを超えると苦しくなって続かない。ポジティブなゆるい空気をつくることを、ポジティブに考えています。」

また、掃除のボランティアへの参加は、無関心を関心へと変えるスイッチになるとも言います。
「街の掃除をすると、ポイ捨てのことだけじゃなくて、街の環境のことを考えるようになって、そこからさらに、いろんなことに関心を持つようになったりする。いろんなことをやりだすようになる。心のスイッチがカチっと入るような感じ。それがとてもいいなぁと思っていて、自分たちでアクションをする登竜門というか、環境や社会について考えるきっかけになればいいと思っています。」



企業、行政、市民。壁を超えて掛け合わせる

「green bird」の代表と渋谷区区議会議員。ふたつの顔を持つハセベさんですが、どちらも根本は同じであり、共通の肩書きをつけるとしたらそれは、「街のプロデューサー」、あるいは「ソーシャルプロデューサー」だと言います。そして、渋谷区議会議員の活動を通して実感するのは、企業、行政、市民。この3つの間に変な壁がいっぱいあること。特に企業と行政との間の壁の高さを実感することが多く、だからこそ、企業と行政とが協力しあって生まれる活動の成功事例をつくり、できることを広げて行きたいとも言います。

「企業、行政、市民の壁を超えて、 世の中のいいものを掛け合わせていきたい ですね。いろんな人やいろんなアイディアを上手く掛け合わせると、いいものができる。それができるのがプロデューサーですし。僕は掛け合わせるのが得意だし、実行力が長所ですから」とハセベさん。「渋谷区のプロデューサーは面白いですか」と聞いたら「面白いですね」と即答。人もペットも楽しい街づくりを目指すNPO「ジェントルワン」の立ち上げや、渋谷区立シブヤ大学の設立プランなど、その活動の幅はどんどん広がっています。

「世の中はいい方向に進んでいる。未来を暗く思っても、いいことはない。情報発信をしながら続けていけばいいと思っています。」



社会実験を社会運動に。「打ち水大作戦」の挑戦

池田正昭さん
1961年生まれ。広告代理店の博報堂にてコピーライターとして活躍した後、同社が発行する雑誌『広告』の編集長に就任。同時期に、地域通貨「アースデイマネー」や、国産間伐材割箸の普及を図る「アドバシ」、「春の小川」再生などの活動を開始。2002年の「アースデイマネー・アソシエーション(edma)」設立をはじめ、その後5つのNPOを立ち上げる。また、それらの連合体として「打ち水大作戦本部」を立ち上げる。



メディアを巻き込んでの期待感の演出

日時を決めて、みんなでいっせいに“打ち水”をする。そのことで、真夏の東京の温度を下げる。使う水はお風呂の残り湯や雨水、下水道の再生水。ヒートアイランド現象を緩和させる壮大な社会実験として2003年にはじまった「打ち水大作戦」のきっかけは、国土交通省の研究機関である土木研究所が試算したひとつのシミュレーションでした。
<東京都内で散水可能とされる280平方キロメートルに、1平方メートルあたり1リットルの水をまけば、気温を2℃下げることができる>
これを実証実験できたら面白い。NPO活動を通して以前から交流のあった第3回世界水フォーラム(当時)の尾田栄章氏と国土交通省(当時)の岡山和生氏にそう持ちかけられた池田さんは「この社会実験を運動としてやってみよう」と思い立ちます。

その日から最初の実験決行日まで、わずか2ヶ月あまり。広報ツールはウェブサイト、ポスターと名刺サイズのフライヤー、街頭ビジョンでの30秒CMと手ぬぐい。2003年は江戸開府400年で、江戸の知恵に学ぶというコンセプトも前面に出し「繋がれるものは何でも繋がってもらおう」という発想で参加を呼びかけました。結果、当日の参加者は約34万人という驚くほどの盛り上がりを見せ、都内4カ所に設けられた会場では実際に温度が1℃〜2℃低減。

「時間もないし、最初はどうなるかわからなかった」という池田さんですが、初年度のこの成功には、毎日新聞の協力を得て実現した当日の朝刊の全面広告をはじめ、メディアの巻き込み方の上手さが大きな鍵となりました。打ち水という着目の面白さに、アクションを共にする楽しさ、「大作戦」のネーミングが持つエンターテインメント性、そしてわくわく感。新聞、テレビ、ラジオ各社、約40媒体がこの試みを報道し、一気に広がっていきます。

都内各地で行われた2005年の打ち水。写真は都庁前市民広場にて。スーツ姿に混じって浴衣姿もちらほら。心の清涼感も高し。

銀座では金春湯という銭湯の残り湯を使っての打ち水が行われた。「打ち水若人隊」と呼ばれる学生のボランティアたちが、この運動を盛り上げる大きな力になっている。

福岡での打ち水スナップ。地元銘菓がスポンサーとなりオリジナルの団扇がつくられたり、打ち水ノートが子供たちへ配られるなど、地域ごとの活動が広がっている。

初年度からつづく新聞の全面広告はどれも、コピーに力がある。本気なんだということが伝わってこその共感。参加してみようという気持ちづくりが徹底している。



キャンペーンではなく、ムーブメントを

1年目の成功を受け「打ち水大作戦」は年々その規模を拡大。3年目となった今年は東京でおよそ134万人が参加しました。福岡、長野、鹿児島などの地方都市をはじめ、なんと、フランスのパリでも実施。誰の目から見ても大成功、なのですが、実は諸手を挙げての万々歳とは思っていないと池田さんは言います。

「ここまでイベント化するとは正直思っていなかったんですよね。ますます規模が大きくなって、来年は1万人規模のイベント会場ができるかもしれない。盛り上がることは大事だし、楽しい夏祭りではあるのだけれど、打ち水は用意された会場に行かなければできないものではなく、個人が自発的に行い、同じ時間にどこかで誰かもやっている、というシンクロする心地よさを味わえればいいというのが本意なんです。大切なのは打ち水心。その心が波紋のように広がって行くこと。計画通りに進む個別のイベントが線になって繋がっていくことはない。イベントはキャンペーンに近いんですよ。キャンペーンとムーブメントは違う。打ち水はキャンペーンではなく、社会に浸透するムーブメントをつくろうとしているんです。」

ムーブメントは、携わる人たちがみな当事者となって自らアクションをおこし、そのアクションありきでコミュニケーションが広がっていくもの。偶発的に、何がどう転んでいくのかわからないところがムーブメントの面白さであり、未知数の可能性がそこにあるのだとも言います。現場がイベント請負業者になってしまうと、大切なことが拡散する。政治的な意図に巻き込まれたり、欲望と同じベクトルに向いたりしてしまっては、本質的なことが失われる。

「僕らは個々人の欲望を超えた何かを引き出そうとしているとも言えるし、欲望の流れそのものを変えていこうとしている。これまでのマーケティング的な、欲望を喚起する流れとは違うものを、環境というフィールドで見出そうとしているはずなんです。欲望の有り様をビビットに意識していないと、ムーブメントは単発のキャンペーンになって終わってしまう。



水から森へ。必然から広がる持続可能な社会への試み

池田さんの心配ごとの一方で、全国各地に広がった「打ち水大作戦」は、まさにムーブメントらしい偶発的な新たな試みを着実に生み出しています。中山道のまち木曽福島。「打ち水大作戦」に参加した地元のひとたちとともに、木曽檜の間伐材で打ち水に使う桶をつくりはじめたのです。

「僕たちは最初、100円ショップで売られている桶を間に合わせで買っていたんです。中国で大量生産されたであろう桶。それをなんとかしたいと思って生まれたアイディアでした。完成したら、木曽福島の町おこしにもなった。木桶をつくる技術は年々失われてきているのですが、それを取り戻すことにも繋がるし、林業の振興にもなる。全国の木材屋さんにも声をかけてみようということになって、次は九州で杉の間伐材を使った桶が誕生した。これは来年以降もっと広がる予定で、林野庁とも話をしている。 自分たちの地域の森の木でつくった桶を打ち水に使う、という構想です。」

京都議定書で決められた、日本の二酸化炭素などの温室効果ガスの削減目標は6%。政府の計画によると、そのうちの3.9%を森が吸収しなければなりません。「打ち水大作戦から生まれるマインドとネットワークが、持続可能な、多様なチャレンジをくりひろげる土台になってほしい」と池田さん。「打ち水心」から今後どんな試みが生まれるのか、楽しみでなりません。

日本各地の会場でオリジナルの桶が使われた。打ち水に使う道具の決まりはないが、桶やひしゃくは基本ツール。写真は浅草での打ち水スナップ。



アクションを誘発するデザイン

福井崇人さん
1967年生まれ。広告代理店でアート・ディレクターとして活躍中。ニューヨークADC賞、ロンドン国際広告賞、毎日広告デザイン賞など、国内外のデザイン賞の受賞歴多数。99年からはじめた教育現場でのビジュアルコミュニケーション活動をきっかけに、市民活動、社会運動のプロモーションに携わる。社内での仕事にも環境問題や社会貢献をテーマに扱ったものが多い。共著に『環境プレイヤーズ・ハンドブック(ダイヤモンド社)』がある。



伝えることに参加する、という参加型広告の仕掛け

2003年からはじまった「1000000人のキャンドルナイト」やグリーンピース・ジャパンの「くじら会議プロジェクト」など、NPO/NGOが主催するプロジェクトのアート・ディレクションを数多く手がけている福井さん。その中のひとつ、ワールド・ビジョン・ジャパンの難民支援プロジェクト「ファミン」では、単に寄付や支援を呼びかけるだけではない、参加型の広告手法が注目を集めました。

2002年から3年間行われた「ファミン」は、衣料不足が深刻なタンザニアとケニアの国連難民キャンプに古着を送り届けよう、というプロジェクト。古着の提供を呼びかける初年度のポスターは、Tシャツの枠の中に「あなたが1枚貼ってくれたら立体ポスターのできあがり」と書かれたものでした。つまり、ポスターだけでは未完成、ポスターを見た人が自分のTシャツをそこに貼る、というアクションをおこしてはじめて完成するもの。服が貼られ(提供され)、完成したポスターを係の人が回収するという仕組みでした。
「初年度は予算がなく、色も1色。主催者の知り合いのところにしか貼ることができなかった。それでは一般の人たちにメッセージを届けることができない。だから表現に特化し、より多くの人の話題になることを考えた」と福井さん。

ちなみに、初年度はポスター制作の実費のみでギャランティなしのボランティア。その代わりに、というわけではないけれど、事務局から旅費を半分ほど出してもらい、集まった古着約10万着と共に難民キャンプを訪問。そこで目の当たりにした難民たちの暮らし、高度1800mのタンザニアの夜は寒く、風邪をひきマラリアにかかって死んでしまう子どもが多いという事実。服さえあれば命が助かることがある、という現実が、その後の製作のモチベーションを高めることになったと言います。

2002年度のポスター。Tシャツを貼るための両面テープが予めポスターについている。また、Tシャツを貼る以外の参加方法もわかりやすく説明されている。着古したいらない服、ではなく、着なくなったきれいな古着を送ろう、というのも大切なメッセージ。

タンザニアのニャルグス難民キャンプにて。2002年当時、タンザニアには隣国コンゴから約58,000人以上の難民が避難してきていた。きれいな衣服を着た難民たちを見ると、届けた側の喜びもひとしおだ。



テーマは明解に、伝え方はシンプルに

「ファミン」のプロモーション活動2年目は、ポスター自体を応募用紙にして、興味を持った人が切り取って持ち帰り、そのまま使える、という仕組みを考えました。その“応募用紙ポスター”に加え、「タンザニアの難民キャンプにきれいな古着を送ろう」という共通のコピーをTシャツやセーター、ジーンズやスカートに書いた、“服のポスター”も登場。作品をつくったのは福井さんの母校でもある金沢美術工芸大学の学生たち。活動の趣旨や目的をそのまま形にした、このユニークな“服のポスター”の張り場所を提供して欲しいと全国に呼びかけたところ、新聞がニュースとして取り上げ、提供を申し出る人がたくさん現れました。

「予算がない中で多くの人に伝えるためには、プレスを巻き込まないとダメだというのが初年度からの戦略でもあって、この“服のポスター”は、 プレスに対する突破力があった 」と福井さん。2年目に集まった古着は約40万着。“服のポスター”は3年目も続けられ、3年目は約52万着が集まりました。話題性の高さと同時に、その背景には、ポスターづくりに参加した学生や、張り場所を提供してくれた人々全員がこのプロジェクトの当事者となり、その輪が 草の根的に広がっていった こともあるのではないでしょうか。

そして、ファミンが成功した最も大きな理由は「テーマが明解で、目的がわかりやすかったこと」だと福井さんは言います。難民キャンプにきれいな古着を送る。その1点をどうデザインに落とし込んでいくかに注力したこと。
「テーマさえ明解であればアウトプットは自然に出てくる。どのくらいの数やお金を集める必要があるのか、誰に届けるのか、そのためにはどんなメッセージが必要か。どんなプロジェクトでも、目的をはっきりさせ、メッセージをシンプルにすることが大切です。」

シルク印刷や刺繍など、学生たちが思い思いにデザインしたカラフルで立体的な“服のポスター”。貼り出した後は回収し、タンザニアの難民へ送られた。

“服のポスター”づくりに参加した金沢美術工芸大学の地元、金沢市では、市の協力によって商店街など、さまざまな場所でポスターが展示された。

青い囲みの部分ひとつひとつが応募用紙になっている2003年度のポスター(左)と、応募用紙がはがされた後(中)。古着が鳥のように青空を飛んでいく2004年度のポスター(右)



リアリティとコミュニケーション

福井さんが手がけたソーシャルアクトのプロモーションで、とりわけ強く記憶に残っているもののひとつに、朝日新聞朝刊に載ったグリーンピース・ジャパンの全面広告「NO WAR」があります。イラク戦争開戦直前、世界中に反戦の波が広がっていた2003年3月のこと。お花畑に「NO WAR」という言葉が浮かんでいるような“ぬりえピースプラカード”を覚えている人も多いのではないでしょうか。数日後に控えていた東京・日比谷公園でのピースパレード参加を「ピースパレードに行ってみない? これ持って」と呼びかけました。

まるで楽しい絵本のように、イラスト付きでプラカードの作り方を説明したり、遠足の掲示板のように用意するものを掲載したりと、全体を通して流れるそのピースフルな雰囲気が印象的。思わず色を塗って出かけたくなるデザインは、デモなんて……と戸惑う人々の背中を押し、かつてない規模のピースパレードへとその流れを加速させました。

「NO WARのような運動は、恐怖訴求ではなく、楽しんで参加してもらえるようなハッピーなメッセージを送らないと失敗する。そこをコントロールするのがビジュアルであり、デザインだと思っています。デザインはコミュニケーションであり、考えるきっかけを提供するもの。伝え手も受け手も同じ目線になり、リアリティを持ってもらえるようなアウトプットの仕方が重要だと思っています」

2003年3月3日の朝日新聞朝刊に掲載された全面広告"NO WAR"

2003年の3月8日に東京日比谷公園で行われたピースパレードの様子。参加者は5万人を数え、思い思いの色に塗られた“ぬりえピースプラカード”を持った人たちの姿が数多く見られた。



  ソーシャルアクトの種は足下にある

ソーシャルプロデューサー、環境プランナー、そして、アートディレクター。取材した3名の肩書きはまちまちだけれど、彼らはみな、伝えること、のスキルを活かし、自らの手や足を動かして行動することで、社会を変えようとしています。社会を変える、なんて言うと大げさに聞こえるかもしれません。けれど、そのきっかけは、素朴な疑問であったり、ちょっとした違和感であったり、前向きな好奇心だったりします。誰かを応援したいと思う気持ちや、そうであったらいいのに、というシンプルな願い。まず行動し、走りながら考え、目の前のドアを開けつづける。そして、自らの行動で得た実感こそが、人々を巻き込み、うねりとなって広がるソーシャルアクトの原動力になるのです。あなたがいま抱えている社会に対する素朴な疑問や違和感は何ですか? ソーシャルアクトのはじまりは、すぐ足下にあります。そして、その運動を広げる鍵は、走りつづける彼らの言葉の中にあります。


取材・写真(ポートレート) 岡野 民
写真提供 green bird,打ち水大作戦本部,福井崇人