今も残る東京・武蔵野の水車
 第12話
今も残る東京・武蔵野の水車

Topics Drops

 1: 川ガキ
 2: 絵本
  『しずくのぼうけん』

 3: 水は支配できるか?
 4: 涸れゆく地下水、
  化石帯水層

 5: 水がはぐくむ京の暮らし
 6: 下町流
  雨を活かしたまちづくり

 7: 真夏の打ち水大作戦
 8: 水は1人1日 -20L
 9: 神々が息づく水源
10: 水の科学館 訪問記
11: 100年の水の物語
  映画『アレクセイと泉』

12: 今も残る東京・武蔵野の水車
   
今も残る東京・武蔵野の水車 〜野川の『新車(しんぐるま)』〜 2005/3/11


ウォーター・プラネット・キャンペーンのイベント第3弾「オアシスを探せ!ー穏田の記憶」の舞台となる渋谷区神宮前には、かつて“穏田川”という川が流れ、大正初期まで水車が点在していたそうです。神宮前にはもうその跡形もない水車が、実際にあるなら見てみたい…そんな思いから、東京・武蔵野の野川の『新車(しんぐるま)』を訪れました。


“武蔵野(野川流域)の水車経営農家”として東京都有形民俗文化財に指定されている『新車』は、JR三鷹駅からバスで約20分、澄んだ水をたたえる野川のほとりの三鷹市大沢地区にあります。

武蔵野地域の水車は、江戸時代以降、新田開発に伴い数を増やし、明治末期から大正にかけて最盛期を迎えました。野川沿いには天明4年(1784年)に大車(おおぐるま)が完成。24年後の文化5年(1808年)、その下流に“新たに設置された水車”が『新車』です。

水車には精米・製粉を主体とした営業用の“動力水車”と、田んぼに水を揚げるための“揚水水車”があります。『新車』は一大消費地 江戸に出荷するための精米・製粉を担った動力水車。地元の有力者が発起人となり、4人の共同出資という形で創設されましたが、出資者が一人また一人といなくなり、ついには設置場所だった峯岸家の所有となり、1968年に野川の改修によって水流が変わるまで、160年間回り続けました。


水車は長時間止めておくと、水に浸った部分だけが余分に水分を含み、全体のバランスが崩れ、調子よく回転しなくなるそうです。今年94歳になる峯岸家八代目当主 峯岸清さんは、「サーッ」という滑らかに滝が落ちるような水車の音、「コットン、コトン」という杵の音、「ガチャコン、ガチャコン」というふるいの音に囲まれて育ちました。日露戦争から戻った後、大工ではないにもかかわらず、『新車』の改造・修理に尽力した叔父の峯岸藤三郎氏の仕事ぶりをそばで見ていた清さんは、回転を止め、無用の長物となった水車を大切に保存してきました。清さんはその理由を“壊して薪にしちゃうのも悪いから”と、控えめに語っていますが、その愛情のおかげで『新車』は水車装置全体の姿を奇跡的にとどめ、全国的にみても貴重な水車経営農家の民俗資料・学術資料となっています。

1994年、この『新車』と峯岸家の母屋などが、清さんによって三鷹市に寄贈され、現在は市教育委員会によって管理・公開されるようになりました。
直径4.6メートル、幅97センチの見上げるほどに大きな水輪。大小あわせて19個もある木製歯車。“水”というシンプルな動力で、回る動きを「搗(つ)く」「挽く」「ふるう」「せりあげる」という多様な動きに変化させる『新車』は、江戸時代のスーパーマシーン!訪れる人にボランティアで『新車』の案内をする市民解説員、新しい水輪を復元し、製作技術を伝承する新車の水輪をつくる会の皆さん、民具を調査する武蔵野美術大学の皆さんなど、この水車に魅せられて集まる人が多いというのもよく分かります。


「水車を大切に守りたい」という多くの人々の願いから、2001年、三鷹市は武蔵野(野川流域)の水車経営農家をエコミュージアムモデル事業と位置づけました。エコミュージアムとは、人々が生活する一定の地域を博物館としてとらえ、現地で歴史・文化・自然などに関わる遺産を展示するという構想。“地域の記憶”のような無形の遺産も重要な収集対象となります。






湧水、わさび畑、ほたるの路。都心近くにありながら自然の残る大沢の里を訪れ、水車が回り、水車男と呼ばれた若い衆たちが忙しく働いていたかつての野川の風景に、想いを馳せてみてはいかがでしょうか?


東京都有形民俗文化財 武蔵野(野川流域)の水車経営農家
http://www.city.mitaka.tokyo.jp/suisya/sogou/info.html
東京都三鷹市大沢6-10-15
毎週金、土、日曜日公開
※金曜日及び10人以上の団体は予約が必要です
 三鷹市教育委員会生涯学習課 0422-45-1151



 


三鷹市は「みたか水車博物館」というインターネット上の博物館も運営しています。 「水車のしくみ」のページでは、『新車』のメカニズムについても詳しく説明しています。
http://www.city.mitaka.tokyo.jp/suisya/index.html

 

文:Think the Earthプロジェクト 中島 愛子