みずにまつわるコラム|R水素ネットワークが見ている未来。


地球は水の惑星だといわれています。地表の面積の70%を覆い、生活用水や飲み水として使われながらわたしたちの中と外を循環し、命をつないでいる水。今回はそんな水の、ちょっと違った役割についてご紹介します。

2年前に立ち上がり、「R水素」という、水から生まれるクリーンで幸せなエネルギーを提唱する国際NGO、R水素ネットワークの兼松佳宏さん、曽我建太さんに、お話を聞いてきました。



兼松さん、曽我さん兼松佳宏さん(左)、曽我建太さん(右) R水素ネットワーク事務局にて。


エネルギー問題は、すべての問題の根源。
近年、エネルギーに関する話題がメディアを賑わせています。従来の発電方法から風力やソーラー発電への転換に向けた取り組みや、原子力発電の賛否をめぐる議論、そして石油、天然ガスなど化石燃料資源の枯渇危機。

ニュースなどで語られるエネルギー問題は、自然環境や気候変動といった環境保全の視点からが多いように思えます。

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しかし実は、エネルギーは、環境問題だけではなく、世界の様々な問題の根っこにあると、R水素ネットワークの曽我さんは言います。

「世界で起こっている戦争や紛争は、根本的な原因をつきつめていくと、限られた場所で限られた量しか取れない資源の奪い合いによって起きています。化石燃料や原子力発電のもととなるウランは、採掘・輸送・加工から消費者に届けられるまでの一連の行程に、莫大な資本が必要なため、これに携われるのはほんの一握りの大企業だけ。

それらの企業が利権を持ち市場を独占することによって、彼らの政治的な思惑次第で供給の安定性が損なわれ、社会不安をおこす原因を引き起こしてしまいます。

化石燃料を奪い合う戦争。そこから難民が生まれ、貧困や教育の問題も生まれてくる。エネルギー生産の源流で資源を発掘する際に行われている自然破壊はもちろん、その土地に住む人たちに対する迫害なども現実に起きています。

化石燃料を使い続けることが、そこから利権を得ている軍事政権を間接的に支援することにつながっていたり、、、エネルギー問題から引き起こされる社会問題は、本当に多いです。社会の中心にあるエネルギーがダークだと、社会全体も暗くなってしまうんですね。

逆に、エネルギーがクリーンなものになれば、社会全体も明るくなる可能性は十分にあるんです。」と曽我さん。


R水素参考資料:エネルギーはすべての社会問題と密接に関係していますエネルギーはすべての社会問題と密接に関係しています。©R水素ネットワーク



"みず"がエネルギーになる。
R水素ネットワークは、これからの社会として、太陽光や風力、地熱、小水力などの自然エネルギーと、それにより作られる水素を使って再生可能エネルギーをまかなう「R水素社会」を提唱しています。R水素のRは、Renewable(再生可能)のR。"R水素"とは、ひとことで言えば、自然エネルギーで発電された電気を使って水を電気分解し、取り出された水素のエネルギー。

再生可能エネルギー社会におけるR水素の大きな特徴は、一つ目はR水素なら、自然エネルギーで作られた電力のうち、余った電力を貯蔵タンクに貯めておくことができること。

自然エネルギーは、自然の力に頼るため供給が不安定になってしまうのがデメリットです。したがって、風力発電であれば強風時など、供給量が多い時に電気を貯蔵しておく必要があります。電気は電気のまま貯めておくことは不可能なので、ここでR水素が力を発揮します。

自然エネルギーとR水素は、再生可能エネルギー100%の世界を実現するために、どちらもなくてはならない車の両輪なのです。

そして二つ目は、R水素を貯蔵タンクに貯めることで、電気だけではなく燃料としても使えること。石油などの化石燃料の代わりにR水素を燃やして自動車を走らせたり、水素と酸素の化合により発生する電気を利用してバスを動かすことが可能になります。今年のアースデイでは、実際にR水素バスの試乗が行われ、会場内を走っていました(スタッフブログ参照)。

さらに、R水素は液化アンモニアなどの水素化合物にして、肥料としても利用することができるのです。


R水素のすごいところは、水素を取り出すのに自然エネルギーを使うためCO2を排出しないこともさることながら、島や内陸など石油などの資源が行き届きづらく大きなプラントを建設しにくい場所でも、外からエネルギーを輸入する必要がなくなり、自分たちでエネルギーを地産地消できることにあります。

それぞれの地域に合った風力や地熱などの自然エネルギーと水さえあれば、どこでも自分たちの手でクリーンなエネルギーをまかなえるのです。


R水素社会解体新書 ©R水素ネットワークR水素社会解体新書 ©R水素ネットワーク


もっと詳しく知りたい方は、R水素ネットワークのHPをご覧ください。→http://rh2.org/


海外でのR水素事情。
CO2を出さず、化石燃料も使わず、自然エネルギーと水さえあれば、現在のエネルギー生産の条件が悪い島国や内陸でも、自分たちで電力をまかなうことができる。なんだかとても理想的な話に聞こえてしまうR水素社会のしくみ。しかしこれはいつか起こる未来の話ではありません。

現在ハワイやデンマークなど、もうすでにR水素を使って自然エネルギーを自給している地域のモデルが誕生しつつあります。

たとえば、カナダのベラクーラという、人口2000人くらいの人が住んでいる町。

ここでは地域の電力会社による滝を使った小水力発電で、町の電力がまかなわれています。しかし夏と冬は電力の需要量が大きく増えるため、今までは足りない分をディーゼル発電で補っていました。

その足りない電力の補充を、ディーゼル発電からR水素に代えようというプロジェクト(HARP = Hydrogen Assisted Renewable Power System)が、現在施行されています。
水素なら、消費電力が少ない時期に余った電力を貯めておき、需要の多い夏と冬に貯めておいた水素で発電を補うことができ、CO2を排出せず、効率的に電気を使うことができるのです。
→PowertechによるHARPプロジェクト解説ページ(英語): BC community to reduce GHG emissions with Hydrogen Assisted Renewable Power System (HARP) by Powertech

4571439344_0c4a2f3efe_z.jpgベラクーラの小水力ダム (Clayton Falls, Bella Coola, BC)
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R水素という言葉は、もとは英語のRenewable Hydrogen(自然エネルギーをつかってつくる水素)を日本語にしたもの。なぜ日本語で「水素」ではなく「R水素」にしたかというと、日本でつくりだされている水素の中には、Rな(自然エネルギーをつかってつくられた)ものとRではないものがあるからです。
日本や海外の他の国々でも、研究が進んでいる技術の中には、水素を取り出す過程で、CO2を排出する化石燃料や、再生可能とは言えない原子力発電を使用することが多いので、同じ水素でもこれらはR水素とは呼べません。

デンマークのロラン島では、風力発電がまず先に導入され、その余剰電力を風が吹かない時でも有効活用するために水素を取り入れたという経緯があるため、ロラン島の人たちに聞いたら「RenewableではないHydrogenがあったのか!」と逆に驚かれてしまったと、兼松さんは話してくれました。

地球リポートvol.53では、デンマークのロラン島にあるR水素コミュニティを取り上げました。
→「R水素」は未来の話じゃない! 〜ロラン島から学ぶ再生可能エネルギーとまちづくり


知らない。
「北極海の氷が気候変動によって溶けている。それをビジネスチャンスだといって、さらに海底から石油を掘りだす企業。そしてさらに気候変動は進む。こんな構図が現代の社会です。それを僕らは知らないでいる。自分が食べる食べ物がどこから来るのかということを、やっとみんな気にし始めたでしょう。それと同じでエネルギーも、どこから来ているんだろう、なんで僕たちは知らないんだろう、と疑問に思うこと、まずはそこからだと思うんです。」と、兼松さんは語ります。

たとえばデンマークでは、市民が、携帯電話の機種を選ぶ感覚でエネルギー会社を選択しているのだとか。日本でも、わたしたちは日々の電気を企業から買っています。しかし、その電気がどうやって作られているかを知った上で、選んで買っているという意識はほとんど持っていません。供給者側は、「必要としている人がいるから、そこにニーズがあるから提供をしている」と言います。
しかし、わたしたちは、誰かを苦しめてまで、自然を破壊してまで、手に入れているエネルギーで生活をしていて、本当にいいのでしょうか。


やらない理由ではなく乗り越えるべき課題。
今ではもう、このまま化石燃料や原子力発電に頼っていては、持続可能な社会にはならないということが、徐々に知れ渡るようになりました。しかし、このままではだめだということはわかるけれど、実際にどうすればいいのかがわからない。そんな閉塞感が、世の中を変えようと活動している人たちの中でさえも見られるそう。

「そんな中で水素に出会い、僕自身が救われた」と兼松さん。

「デンマークのロラン島について調べたとき、毎月石油を買わなくて済むコミュニティがもうすでにあると知った。水素社会は実現できるんだということに気づいた。僕らがどうしてR水素エネルギーの取り組みをしているのかというと、同じ想いを持っている人たちが他にもいるかもしれないと思ったからです。

水素の研究は、もう何十年も前からされていました。だけど、それぞれの研究を共有するネットワークがなかった。水素の研究者同士がつながっていなかったり、デンマークのロラン島での取り組みを、同じように積極的に、R水素社会に向けて取り組むハワイの人たちは知らなかったりしたんです。なので、それぞれが情報交換できる場所をつくり、もっとR水素を広めていくことが僕たちの役目だと思っています。」

研究者としてではなくコーディネーターとして、市民、研究機関、企業、そして国と国とをR水素という幸せなエネルギーでつなぐ架け橋となっているのが、R水素ネットワークです。


R水素がつくる未来。
R水素社会を普及させるために、R水素ネットワークがいま企んでいるのは、ローカル+グローバル。つまり、実際に地域でR水素エネルギーがうまく稼働しているコミュニティをつくり、それをモデルにして、具体的なコストや発電量、使いやすさなどを人々に知ってもらうこと。そしてそれと同時に、メッセージ性の強い方法で、世界全体のムードを一気にがらりと変えること。

ローカルに取り組み、グローバルに働きかける。とても現代的で、効果的な方法だと思いました。

「僕らのミッションは、政治家を動かすこと。そして、世界中の市民やメディアがエネルギーについて共有できる場をつくること。ロビー運動と啓発、そしてネットワークづくりを三本柱として、これを軸に活動を行っていきます。」と兼松さん。


わたしたちの身の回りをめぐる水が、化石燃料や火力、原子力発電に代わりエネルギーの輪に加われば、こんなにも明るい未来が待っていることを知りました。

かつて昔の人たちは、川の周りに文明を築き、その豊富な水資源に恩恵を受けていました。現代に生きるわたしたちも、太陽や風、そして水という自然の力を借りて、再生可能だからこそ、それらに感謝をしながら最大限利用することが、未来へのとても大きな一歩につながるように思います。

「R水素は、自然エネルギーと水がないとできない。だから僕らはR水素を提唱する団体だけれども、同じくらい風力や太陽光、地熱、小水力などの自然エネルギーと、そして水の大切さも伝えています。」と、最後に水に対する想いも語ってくれたお二人。

生きるために必要なものを、不必要な搾取や奪い合いをせずに、すべての人たちが自由に選択でき、得られる社会──・・・。

R水素ネットワークが目指しているもの、それは、当たり前のことなのに、まだ実現できていない、だけどすべての人が望んでいることだと思うのです。



執筆:柚原薫子(Think the Earthプロジェクト インターン)

協力:R水素ネットワーク

兼松佳宏さん プロフィール
1979年秋田生まれ。2020年までにクリエイティブで持続可能な世界をみんなで実現するために、さまざまなプロジェク トでウェブディレクションやイベントプランニング、執筆活動などを行っている。最近では特に「エネルギー×デザインシンキング」に フォーカスし、自然エネルギーとそれによってつくった「R水素」の啓発アクションをあれこれ仕掛中。greenz.jp

曽我建太さん プロフィール
1979年東京生まれ。wwwの登場によってメディアや情報の流れが多様になったように、エネルギーの分野でも、一部の人 たちが独占供給している状態から、だれもがエネルギーの作り手になり、それを共有できる世界へのシフトをおこすべく画策中。キー ワードはEnergy Commons! 2009年12月よりR水素ネットワーク事務局メンバー。 rh2.org