子どもたちが集うこの川は、今から20年近く前、日本で初めて三面張りのコンクリート護岸を剥がすことに成功しました。 執筆:石井美智子(Playce)写真:岩崎綾乃(Playce)
授業概要
Talk Session 座談会インタビュー
日時:8月22日(土)
場所:神奈川・大和市 引地川周辺
主催:Think the Earthプロジェクト
協力:川と海の環境を守る会/引地川かわくだり実行委員会/柳とあそぼう引地川実行委員会/大和市
あなたの家の近くを流れる川は、どんな姿をしていますか?
くねくねと蛇行し、水辺に草や木が茂っている川ですか。
コンクリートの上をまっすぐ流れている川ですか。
今でこそ自然や生物の営みに基づいた川の護岸整備が進められていますが、少し前まではコンクリートで固めて治水する方法が主流でした。その時代の流れに逆らうように、コンクリート護岸を剥がし、多自然型護岸を実現した川があります。それが、神奈川県大和市の引地川です。
川が復元されてからおよそ15年、引地川には水遊びを楽しむ市民でいつもあふれています。なぜコンクリートを剥がすことになったのか? 川を取り巻く環境はどう変わっていったのか?「みずのがっこう」では、川復元プロジェクトの立役者となった4名に話を伺いました。
*左から
鈴木恵美子さん/引地川かわくだり実行委員会委員、元 大和市市議
岩田 誠さん/大和市役所職員
田中哲夫さん/柳とあそぼう引地川実行委員会、大和市役所職員、
明翫(みょうがん)勇一郎さん/川と海の環境を守る会(通称カワウミ)元 代表
どんな川でも、実際に入ってみないと表情はわからない!
明翫さん: まず最初に、引地川の説明をすこし。引地川は、神奈川県大和市を南北に縦断し、藤沢市の相模湾につながる延長およそ21kmの川です。そのうち上流の4.5kmほどは、大和市が管理しています。かつては飲料水として、水田の水として利用されていましたが、都市開発とともに護岸は三面張りコンクリートで覆われ、家庭雑排水が流れ込むようになりました。1989年、引地川水系に自然公園を作る計画が策定されたのをきっかけに、鈴木さんたちの活動がはじまったのですよね?
鈴木さん: そうですね。どのような公園がいいだろうか?となったときに、「よこはま川を考える会」の森 清和さんに話を伺ったんです。「どんな汚い川でも、川にはそれぞれの顔がある。入ってみないと表情はわからないよ」とおっしゃった森さんに触発されて、「私たちも引地川に入ろう!」と。でも実際に川に足を運ぶと、近づくだけでどぶの臭いがするしヘドロも堆積している。さすがに入れないと思っていたら、メンバーの一人がじゃぶじゃぶ入っていった(笑)。
明翫さん: すごいですね!
鈴木さん: それで「とにかくやってみよう」と、川のごみ拾い、川遊び、水生生物の調査を3本柱にした「引地川かわくだり実行委員会」が誕生しました。市役所や消防にも協力してもらって、ビニール風船の船を浮かべて遊んだり、宝探しゲームを行いました。その後、活動を通して見えてきた公園整備の要望をまとめ、市に提出したんです。
*2009年7月に行われた「柳で遊ぼう引地川」の川下りイベント。地元の子どもたち50人以上が集まり、魚取りを楽しみました
柳を使った、日本初の自然護岸が誕生!
田中さん: 僕と岩田さんは大和市役所の引地川水系整備課にいましたが、大和市は人口過密都市で緑が少なかったので、引地川沿いに残された緑地を活かして自然に触れ合える公園整備を進めていました。当時の"多自然型川づくり"といえば、木材や石を使って護岸を整備するのがメイン。しかし、引地川は粘土質の河川であるため、玉石護岸は合わなかった。そこで、法面勾配を緩くし川幅を広げたり、河岸を植生護岸とする柳子工という工法で整備しようと、柳を使う案が出たのです。
*【整備前】3面コンクリートブロック張りで、直線的だった引地川
*【整備前】川の断面図
岩田さん: 当初は柳の枝の上に石を乗せて固めようとしていたのですが、たまたまドイツメーカーのヤシの繊維ネットを知りまして。このネットで盛り土を押さえて、柳を植生することにしました。柳の根は網の目状に横に広がって育ちますから、土手はより強固になり、崩れる心配も軽減できます。
明翫さん: ちょうどこの地域が「草柳」(そうやぎ)という地名なので、川べりに植えるのは柳以外に考えられませんでしたよね。でも、何千本という柳が必要なので、大和市にあるものだけでは足りなくなり、新潟まで探しに行きました。
*川の水に浸した柳を植えているようす。こうして根を張った柳は、さらに護岸を頑強にしてくれます
岩田さん: それから一番大変だったのは、川の蛇行です。山側の崖縁部の形状や地形図の等高線に沿ってカーブをつけました。こうして1993年、「ふれあい広場」に沿っておよそ200m両岸のコンクリートを剥がし、近自然工法による日本初の自然護岸が誕生したのです。実は、整備する費用は安かったんですけど、川幅を広げることで出てきた土と、剥がしたコンクリートの処理費用にお金がかかりました。
明翫さん: 剥がしたコンクリートの山は、まるでベルリンの壁のようでしたね。一見すると、今からこのコンクリートを使って工事するように見えるのですが、実は処理するもの。通常の工事とは全く逆の光景は、とても印象的でした。
*【整備後】川を蛇行させ、淵や川原も備えた引地川
市民が主体となって、引地川の管理を継続
鈴木さん: 一番印象に残っているのが、工事が済んだあとにやってきた台風。「川は大丈夫だろうか?」ととても心配で、何度も見に行きました。明翫さんたちも同じ気持ちだったようで、川でばったり会うこともありましたよね。多自然型護岸を提案した市民の責任というか、その川への思いが、その後の「護岸管理」につながっていったんです。
明翫さん: できてから1年もすると、大雨などで護岸の一部が崩れたり、植えた柳が伸びすぎたりして、手入れが必要になったんです。
*2009年2月に行った柳の剪定。柳は伸びすぎると日光を遮り、他の植物が育たなくなるので、こまめな手入れが必要です。剪定した柳は、川の水に浸して生育を促します。その後、もう一度護岸に突き立てることで、そこから新たに根をはり、立派な柳に生長します
当時、僕は「川と海の環境を守る会」の代表をしていたのですが、鈴木さんたち「引地川かわくだり実行委員会」や他の団体と話し合い、「提案だけで終わってしまっていいのだろうか? 管理という形で、市民も川に関わり続けよう」と決めました。それが「柳とあそぼう引地川実行委員会」のスタートです。まず始めたのが、雑草の草かりと柳の剪定。そのための技術指導と道具の用意を大和市にお願いしたら、あっさりOKをいただいて。ここでまた、市民と行政の協力体制が生まれたんです。僕は学生の頃から市民と行政の対立こそよく見てきたけれど、市民が要請したものを行政がしっかり受け止めるというスタイルは、大和市の特徴だと思います。
*取材当日は、「柳とあそぼう引地川実行委員会」による柳の剪定ボランティアの日。草かり前は、川岸に雑草がびっしり
*柳の剪定と草かり中のボランティアの皆さん。夏休みということもあり、大学生が大勢参加
田中さん: 多自然型護岸は、コンクリート護岸と違って造ったら終わりではありません。春になれば草花は芽吹くし、夏には雑草も繁茂する。自然を容認するということは、その後も関わっていく必要があります。
鈴木さん: それからつくづく思うのは、「川には意思がある」ということ。水の力で護岸が削り取られたり、蛇行の形が少しずつ変わっていくんですよ。草かりも最初は年1回だったのですが、成長が早くて全然追いつかない。「お前たちは年1回の草かりでいいと思っているのか?」と川に教えられた気持ちでした。
今度は遺伝子レベルでの生物多様性保全を!
鈴木さん: 現在も「柳とあそぼう引地川実行委員会」では多くの市民団体がコラボレーションしていますが、それぞれの特徴を上手く取り入れています。明翫さんたち「川と海の環境を守る会」のように、遊びながら川と交流するところもあれば、真面目に取り組んでいるところもあったり......。川が仲介してくれて、いろんな人と知り合えるのが楽しいんです。
明翫さん: もともと大和市に生息していた「ハグロトンボ」だけを調査するチームもあり、2006年の第9回「川の日」ワークショップ※ではグランプリを受賞したんです。この数年で活動はさらに広がってきました。
※「川の日」ワークショップ..."いい川"とは何だろう?をテーマに、独自の視点で自由に答えを探っていく公開選考会。斬新な発想や視点の先進性、地域の住民と川との良好な結びつき、工夫した計画手法や技術など4つのカテゴリーから総合的に評価されます。
*カワトンボ科のハグロトンボ。翅が黒く、蝶のようにひらひらと羽ばたくのが特徴
田中さん: 私も、護岸の近くで生息しているカワセミの姿に感動しました。生物が引地川に戻ってきてくれた。生物が引地川の自然護岸を評価してくれたんだと感じました。
鈴木さん: 最近はカワエビも復活しているんですよ! 私は、大人が楽しまないと子どもも楽しめないと思っているので、大人が川で思いっきり遊んでいる姿をたくさん子どもたちに見せたいです。そうすれば、仕事などで一時期川から遠ざかっても、子どもができたらまた川に連れてくると信じているから。自分が体験したことは子どもにもさせたくなるでしょ? その循環をつくればいいんです。今は、小学校の横を流れる川のフェンスを取っ払って、学校の校庭に川を引き込むという文科省のプロジェクトを進めています。横浜市の舞岡小学校や日野市の潤徳小学校などが好例なのですが、大和市もこれからですね。
岩田さん: そして最近は、巨大化するコイのほか、ミドリガメやザリガニ、ブラックバスなどの外来生物が引地川水系に影響を及ぼすようになりましたね。
明翫さん: 近年の課題は、もともと引地川にいた魚や生物をどう守っていくか。遺伝子レベルでの保護を目指しています。
*ここ最近、植生した柳の上層部が枯れてしまう現象が起きていたが、この日の調査でその原因となっているかもしれない虫を発見
鈴木さん: このように、活動ってずっと終わらないんです。それに、どんな川でも、コンクリートを剥がせばいいってものではない。「ふれあい広場」の近くには厚木航空基地があり、まわりに民家がなかったので、多自然型護岸にすることができた。何より安全性が求められるものなので、剥がせる場所、剥がせない場所も見極めなければ。それから、剥がしたあとの管理も重要です。引地川は市民から「やらせてほしい」と手を挙げ、市民の努力で引き継がれてきたものなのです。
*すっかりきれいになった引地川
*刈り取った雑草の山。有機物を多くしすぎないよう、雑草は川や川べりに残さない
田中さん: 特に最近はゲリラ豪雨など、局地的な大雨も多くなっていますよね。遊ぶ側も「自然っていいな」という気持ちだけでなく、「今日は増水しそうだからやめておこう」など危機管理能力を身につけていってほしいですね。その上で、ぜひ親水を楽しんでもらいたいです。








