今まさに渦中にある八ッ場(やんば)ダム。Think the Earthプロジェクトプロデューサーの上田壮一が、八ッ場あしたの会事務局長の渡辺洋子さんとサステナ代表のマエキタミヤコさんに、お話をお聞きしました。執筆:横山ゆりか(Think the Earthプロジェクトスタッフ)
授業概要
日本の川と流域の自然について考えよう
日時:2009年9月10日(木) 20:30〜22:00
場所:パタゴニア 渋谷ストア
主催:Think the Earthプロジェクト
企画協力:パタゴニア日本支社
先生:渡辺洋子さん 八ツ場あしたの会 事務局長
:マエキタミヤコさん 広告メディアクリエイティブ [サステナ] 代表
:上田 壮一 Think the Earthプロジェクト プロデューサー
参加人数:50人
ダムってなんだっけ
最初に、「ダム初心者」の上田と一緒に、ダムについて少し勉強しました。
ダムの役割には大きく「治水」「利水」「発電」の3種類があります。「治水」は洪水など、水の災害をふせぐ役割、「利水」は農業や工業などで水をうまく使うための役割です。
八ッ場ダムは首都圏に住む私たちの「治水」と「利水」のために必要ということで計画されていますが、実際はどちらも必要ないんじゃないか、と言われています。
予定地を実際に訪れてみると、美しい川の流れる自然の綺麗な場所。あらためて、一体ここで何が起きているのか?何があったのか?なんでこんなに話題になっているのか?・・・そんな八ッ場ダムについてのお話を、これから渡辺さんとマエキタさんにお聞きしていきます。
渡辺さんが八ッ場ダムに関わるようになったきっかけ
「八ッ場あしたの会」で活動を続ける渡辺さんは、もともと東京の出身です。結婚して群馬に引っ越してから、初めて八ッ場のことを知ったそうです。
ふとしたきっかけで八ッ場ダム予定地の地元の人たちと関わりを持つことになった渡辺さん。「ダムの恩恵を受けている東京で育った者が、八ッ場のことを何も知らなかったことが本当にショックで、地元の人たちに申し訳なく思った」ことから、少しでも多の人にこの問題を知ってほしいと活動を続けられています。
*左から上田、渡辺さん、マエキタさん
以下、渡辺さんにお聞きした八ッ場ダム建設計画のことをまとめてみました。
各所に、より詳しい情報が載っている「八ッ場あしたの会」のページへのリンクを貼りました。興味のある方は読んでみてください。
八ッ場ダムの建設予定地ってどんなところ?
ここは「吾妻渓谷予定地」と国が名付けた場所。水没予定地です。
*ダムに沈む川原湯温泉駅からすぐの場所。紅葉がとても綺麗とのこと。
このあたりには川原湯温泉があります。とっても柔らかいお湯で、長らく親しまれてきた湯治場でした。
現在、水没予定地の周辺の山を切って沢を埋め、平らにしたところに大きな国道や、水に沈んでしまう地域の方が住むための代替地を作っています。お墓も全て掘り起こして、代替地に移動しました。
そもそもなぜ、八ッ場ダムが必要なの?
八ッ場ダムが必要だとする理由には大きく2つがあります。冒頭で触れた「利水」と「治水」、つまり、「首都圏の人口増にそなえた水の確保」と「利根川の洪水を防ぐため」です。しかし、この理由については疑問の声が上がっています。
まず「首都圏の人口増にそなえた水の確保」という理由ですが、実際のところ、水の使用量は減ってきています。節水機器の導入の効果が大きく、また、水道管の漏水防止対策も進んできました。そのために水が余ってきています。現在、東京都では、1日あたりおよそ170万トンの水が余っている状態です。(more info→首都圏の水あまり)
次に「利根川の洪水を防ぐため」という理由ですが、八ッ場ダムの治水効果はどれくらいあるのか?というシミュレーションを国交省が行った結果、効果はゼロ、という報告が出ています。今の利根川では、どんなに雨が降ってもそれほど洪水が起こる可能性はない、と言われています。(more info→期待できない治水効果)
八ッ場ダム工事計画の歴史
ダム構想が最初に発表されたのは1952年。当初の報道によると、工費22億円で出来る予定でした。しかし、計画を立てたあとに水質を調査してみると、川の水は強烈な酸性だったのです。これではダムのコンクリートや鉄を溶かしてしまうため、建設することができません。こうして、計画は1964年まで止まっていました。
しかし、1964年に酸性の川の水を中和するための事業が始まりました。なんと中和のための施設を建設し、今も毎日60トンの石灰をずっと川に流し続けているのです。(more info→死の川だった吾妻川)
そこから本格的にダム計画が始まり、その建設をめぐって、20年にわたる闘争が始まりました。もともと、川原湯はリトル・トーキョーのような、現金収入のある歓楽街でした。そこを沈めようとしたのです。収入源がなくなるということで反対闘争が始まったのは当然のことでした。
そこで提案されたのが、住民のために水没線より上に集落を切り開き、新しく土地を作る、という約束です。こうして92年に反対の旗が全て降ろされました。
八ッ場ダム予定地の人たちにとっては、早く新しい土地を作ってほしいところでしたが、2001年以降、延期と予算の増額が始まっていきます。本当は2000年にダム自体が完成しているはずでした。代替地の用意は進まず、あきらめてふるさとを出て行ってしまう人が増え、地域の崩壊が始まっていきます。(more info→八ッ場ダム計画の歴史)
*工事中の代替地
工事にかかる予算について
工事費は4600億円と言われていますが、ダム以外にも2つの事業があります。利息なども含め、国民の総負担額は8800億円になるとも言われています。
八ッ場ダムは利根川流域ということで、利根川を水源として利用する1都5県(東京都、千葉県、茨城県、埼玉県、群馬県、栃木県)が八ッ場ダムの費用負担を国税以外にしています。
八ッ場ダム工事はどれくらい進んでいる?
とある有名なテレビ番組でも「八ッ場ダムは7割進んでいる」と言われてしまったようなのですが、それは予算額の7割を使っているということで、工事自体が進んでいるわけではありません。
ダムを作る環境を整えるための関連事業は色々とあり、一番の目玉は国道工事です。今通っている国道は水に沈んでしまうので、上の方に付け替える計画です。しかし完成しているのは、全体をみるとたったの3%。また、水に沈む場所に住む人が代替地に移転した割合は2割以下です。先は長いと言わざるをえません。(more info→八ッ場ダム事業の進捗状況と見通し)
*付け替え国道の工事現場
ダムによって災害が引き起こされる?
ダム建設を進めると色んな災害を引き起こす可能性があると言われています。しかしそのほとんどは報道されていません。
八ッ場ダムの上流には活火山の浅間山があり、それが地質に影響をおよぼしています。予定地には22箇所の地滑り地があり、そこに水が乗ってきてしまうのです。地滑り対策が必要ですが、ほかの関連工事がふくらんで、その予算がどんどん減らされているのです。専門家からも不安の声が上がっています。(more info→地質のもろさ)
地元の方々の想いと、私たちができること
今、水没予定地は工事だらけ。そのなかで観光地を運営し、生活していくのは大変です。将来設計も立てられません。
八ッ場ダムの問題は簡単に解決できることではなく、とても大変なことです。
本体工事を中止にして終わりではありません。
*工事中の代替地
代替地の用意や道路、鉄道の建設といった関連事業を中止するのではなく見なおしする。この場所に住む人たちが将来に希望を持てるように、必要な事業は進める。そのためには法律をつくらなければいけません。なぜなら日本には、公共事業が中止されたときの法律がないため、関連事業はそのまま放り出されてしまうのです。
2年くらい前から民主党が進めてきたのが、この法律を作る、ということです。気の遠くなる重い作業ですが、それを政権がやるかどうかは、国民がその重要性を理解するかどうかにかかっている。だからずっと関心を持っていてほしい。こう渡辺さんは語りました。
そして、社会学者・宮台真司さんの「お任せから引きうける」という言葉を引き合いに、今までは、全てを行政にお任せしてきたために問題が複雑になってしまったが、問題を解決するためには、ひとりひとりが関心をもって「引きうける政治」に変えていかなければならないのでは?と呼びかけました。
「お任せ」から「引きうける」、楽しい政治へ
「サステナ」代表でコピーライターのマエキタさん。社会や環境に関する様々な活動を、クリエイティブの側面から支えています。
今の私たちの八ッ場ダムへの想いは、みんな「毒食らえば皿まで」状態だといいます。ここまで来たんだから建ててしまえばいい、皿まで食ってしまえばいい、という怒りの状態。でもそこでぐっと冷静になり、「毒を食ったからといって、皿まで食わなきゃいけないことはないよね」と思い直すことが大事なのでは、と語りました。
長い歴史の間に、複雑になりすぎてしまった八ッ場ダム建設計画。これから何をどうすればいいのか、あまりに重たすぎて途方に暮れてしまいそうです。
でも、私たちひとりひとりが出来ることは色々あるはず。例えば、マエキタさんは「身近な人に、八ッ場ダムのことをどれくらい知っているか聞いてみて。そうして会話をつなげていけば、政治に血を通わせていくことができる。」と提案しました。「引きうける政治」への第一歩ですね。
「みんなで楽しく政治を考えることができたらいいな。」というマエキタさんの言葉が印象に残りました。私たちひとりひとりが政治を自分に引き寄せて、自分のこととして考える。そうすれば世界はきっと、良い方向にむかう。
そのためのお手伝いを、Think the Earthプロジェクトもやっていけたらいいなと思いました。








