21 放射性廃棄物

フィンランドの高レベル放射性廃棄物処理施設を取材した「100,000年後の安全」という映画が2011年に公開されました。この映画は原子力発電所(以下、原発)を継続するにしても廃絶するにしても、どうしても解決しなければならないのが「放射性廃棄物」処理の問題だと気づかせてくれました。今回のアースリウムでは、日本の地層研究施設を取材し、今後数万年にわたって人類の大問題であり続ける放射性廃棄物に焦点を絞って考えてみます。

写真・文:上田壮一

last update 2014.4.4.















10万年後も安全?

 まず、今回の地球儀をご覧ください。いま世界では30カ国で原発が稼働しており、今後も10カ国以上が導入を計画しています。しかし、原発から出る高レベル放射性廃棄物の処理施設の建設が決まっているのは、フィンランドとスウェーデンのわずか2カ国しかありません。他の国では場所が決まっても計画が暗礁に乗り上げてしまったとか、日本のように公募はしていても立候補するところが現れないなど、どの国においても難しい状況が続いています。

詳しくは以下のリンクにあるリポートを読んでみてください。
→「諸外国における高レベル放射性廃棄物の処分について 2013年版」
(経済産業省資源エネルギー庁)

 実際に処理施設の建設が始まっている唯一の国が、映画「100,000年後の安全」でも紹介されたフィンランドです。高レベルの放射性廃棄物が人間にとって害がなくなるためには10万年という想像を超える年月が必要です。いまの人類=ホモ・サピエンスが生まれたのが7万年前と言われています。10万年後の世界は、もしかすると人類は存在しない可能性があります。もし存在していたとしても、私たちが7万年前の人類と言葉で会話することができないのと同じように、今の「言語」が10万年後に通用するとも思えません。どのように、この負の遺産に未来の世代が触れないように安全に運営していくのか、それがこの施設建設にあたり真剣に議論されていることであり、映画のテーマの一つでもありました。

10万年後の安全

『100,000年後の安全』は映画を再構成した書籍も出版されている

 基本に立ち戻ってみましょう。

 電気はタービンと呼ばれる羽根車を高速に回転することで得られます。そのタービンをまわすために高温高圧の水蒸気を使います。この水蒸気を得るために、石油や石炭を燃やして作った熱を使うのが火力発電所。ウランを核分裂させてできる熱を使うのが原子力発電所です。

 原料のウランには放射能はありませんが、核分裂させると、強力な放射線を発する物質(核分裂生成物)が生み出されてしまいます。この物質に近づくと、十数秒で死に至るほどの高い毒性を持っていますが、たとえばプルトニウム239の半減期は2万4,100年、プルトニウム237は214万年と、毒性がなくなるのに膨大な年月がかかるのです。

地層処分とは

 さて、数万年以上の時間、強い毒性を持ち続ける高レベル放射性廃棄物をどのように処分しようとしているのでしょうか。
 かつては、放射性廃棄物は海に捨てるのがあたりまえと考えられていた時代もありました。実際に低レベルの廃棄物は、日本を含め多くの国で海洋投棄が行われていました。しかし、1993年に開催されたロンドン条約(正式名称:廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約)会議で全ての放射性廃棄物の海洋投棄を原則禁止とする決議があり、現在は行われていません。

 そのほか、宇宙に捨てる、極地の氷の下に捨てるなどの方法が考えられましたが、南極は南極条約によって禁止されており、宇宙は事故が起きたときの影響が大きすぎるので、今後も採用される可能性は少ないでしょう。こうしていくつかのアイデアが検討されましたが、現段階で相対的に安全な処理方法として検討されているのが地層処分です。

 地層処分に話を進める前に、まず高レベルの放射性廃棄物をどのような状態にしてから処分するのでしょうか? 原子力発電所の運転中、もしくは廃炉処分をするときに放射性廃棄物が発生します。解体時に発生するコンクリートなど低レベルのものから、運転中にも出る使用済み燃料など高レベルのものまでありますが、高レベル放射性廃棄物は、長期間にわたって安定した物質であるガラスと一緒に溶かしてステンレス製の容器中に閉じ込めた「ガラス固化体」と呼ばれる形態に処理されます。

 固化体にすればすぐに地層処分できるかというと、そうではありません。最初は高温のため、30年から50年の時間をかけて冷ます必要があります。日本では茨城県東海村と青森県六ヶ所村で貯蔵しています。

ガラス固化体 模式図

ガラス固化体 模式図(資源エネルギー庁資料をもとに作図)

 原子力発電環境整備機構のホームページによれば2013年11月末時点で日本にあるガラス固化体の数は2,035本。全ての原子力発電所に保管されている廃棄物を再処理してガラス固化体にすると2万4,800本に相当するといいます。また、今後、日本で原子力発電所を動かし続けると年間約1,900本に相当する高レベル放射性廃棄物が出る見込みとのこと。

 処分する場所すら決まっていないのに、長期にわたって毒性を発する廃棄物を出し続ける原子力発電所が「トイレのないマンション」とたとえられるのは、こういうわけなのです。さらに、廃棄物を減らすことを目的とした再処理計画(核燃料サイクル)もトラブルが相次ぎ、計画が遅れてコストも増大しています。

→超深地層研究所に行ってきました

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