20 生命の起源を探る大航海 QUELLE2013

世界の深海探査研究で主導的役割を果たす日本の研究機関、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が、有人潜水調査船「しんかい6500」を携えて、生命の限界を探る世界一周航海を行っています。アースリウム20回目となる今回は、QUELLE 2013(クヴェレ2013)と名付けられた、この航海にスポットを当て、地球や宇宙の生命の謎を解き明かそうという、研究者たちの壮大な夢に迫ります。

取材:上田壮一 ポートレイト撮影:山葡q世 資料提供・協力:独立行政法人 海洋研究開発機構

last update 2013.6.14.















凡例

QUELLE 2013とは

QUELLE 2013

 2013年、日本の有人潜水調査船「しんかい6500」と支援母船「よこすか」が、約1年をかけて、深海探査を通じて生命の生息限界を探るため、世界一周の航海を行っています。プロジェクト名のQUELLE(クヴェレ)はQuest for Limit of Lifeの略語です。年間4回の探査航海(QUEST 1-4)が計画されており、3回目となるカリブ海での潜航では、しんかい6500のコックピットをインターネットでつないだ、世界初のライブ中継プロジェクトも行われる予定になっています。今回Think the Earthでは、アースリウムだけでなく、カリブ海からのインターネット中継トークイベント「宙のがっこう 〜深海編」を企画し、みなさんと共に、この夢のある航海を応援していきたいと思っています。

 また、QUEST 2(ブラジル沖)から戻ってきたばかりの、QUELLE 2013プロジェクトリーダー北里洋さんと、QUEST 3の首席研究者である高井研さんに研究者としての想いを語っていただきました。

→QUELLE 2013 公式プロジェクトページ(JAMSTEC)へ

しんかい6500

有人潜航調査船「しんかい6500」(©JAMSTEC)

よこすか

「しんかい6500」の支援母船「よこすか」(©JAMSTEC)

QUEST 1 インド洋

インド洋

 2013年1月に神奈川県、横須賀港を出港。最初に目指したのはインド洋の中央インド洋海嶺とロドリゲス三重点でした。この海域には硫化鉄のウロコをもったスケーリーフットと呼ばれる巻き貝が生息しています。

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北里 洋さん

 この航海は、スケーリーフットという鉄の鎧を着た貝が、材質の違いを作り分ける方法を理解したいというのが一つの目的です。そのためには、貝を採ってきて船上で生かして、酵素の働きなど、殻を作るメカニズムを理解するような実験を行います。日本に持って帰って調べて、きれいな硫化鉄を被る機能をもった微生物を見つけられれば、薄い硫化鉄を何かの上にコーティングさせる技術につながります。ただ、実際には帰国後一週間くらいでみなさんお亡くなりになりました(笑)。これまでの生存記録は更新したましたが、生かし続けるのは、なかなか難しい。生きていたあいだに、分析するための材料は採っているので、今はそれを解析しています(北里 洋)。

スケーリーフット

QUEST 1で採取したスケーリーフットを見学者に公開(©JAMSTEC)

QUEST 2 ブラジル沖

ブラジル沖

 2013年4月から5月にかけて、南アフリカから南大西洋を横断してブラジル沖を調査。海底からの高さが5,000mを超えるリオグランデ海膨という巨大な海山や、地球内部の物質が海底に出ているサンパウロ海台の調査を行いました。

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北里 洋さん

 南大西洋に有人潜水船が入ったのは初めてのことです。大きな海山があって、その上に見事な深海珊瑚が生えているのがみつかるなど、様々な発見がありました。この航海の研究目的とは外れますが、花崗岩という大陸を作る石が、海の中に、ある範囲で沈んでいることもわかりました。残念ながらプラトンが予言したアトランティス大陸ではありませんでしたが、おそらく大陸の欠片が沈んだのだろうと推測できます。昔、アフリカと南アメリカはくっついていて、パンゲアという一つの大陸でした。それが、南大西洋を作りながら、バリバリと分かれていったわけです。今回の発見によって、その過程で、なぜ大きな大陸の欠片がその場所にあるようになったのか、というメカニズムを2億年くらい前までさかのぼって説明をしなければならなくなりました。大きな大陸の欠片が沈んでいたというのは驚きだし、そのことに想いを馳せるという意味では新しいロマンだと思います(北里 洋)。

花崗岩

QUEST 2で発見された花崗岩(©JAMSTEC)

QUEST 3 カリブ海

カリブ海

 2013年6月にカリブ海の英領ケイマン諸島周辺にある、世界で最も深い熱水域を調査します。ここでは、400℃を超える超臨界の熱水が湧いているといわれています。また、300万年前に南北アメリカが陸続きになったことで、海が分断されました。その後、それぞれの場所で生物がどのように進化してきたかを調べることも目的です。この航海では、潜航中の「しんかい6500」からのインターネットライブ中継も計画されています。

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高井 研さん

 深海探査を有人で行うということには意味があります。有人潜水船でしかできない作業や科学調査がありますし、なにより人が潜ることでしか得られないリアルな感動があります。今回、「しんかい6500」で潜るときに研究者たちが感じる感動を、録画映像ではなく、リアルタイムで共有したいと思っています。パイロットと研究者が乗り込む「しんかい6500」のコックピットの中から、母船である「よこすか」まで光ケーブルでつなぎ、「よこすか」から衛星を経由して日本に生中継する予定です。僕は、サイエンスは最高のエンターテインメントになると思っています。もちろん、光ケーブルが途中で切れて失敗する可能性もありますが、それも含めて深海探査の醍醐味だと思うので、このチャレンジに期待してください(高井 研)。


ニコニコ生放送でのインターネット生中継は2013年6月22日-23日にかけて行われる予定です(海況によって延期の可能性もあり)。21日には直前準備放送もあります。


QUEST 4 トンガ海溝

トンガ海溝

 8月に電池交換のために一度日本に戻ったあと、10月に南太平洋のトンガ海溝・ケルマディック海溝を目指して出航します。世界で二番目に深いトンガ海溝はJAMSTECとして初めて調査する場所です。かつてJAMSTECは、世界で一番深い、マリアナ海溝・チャレンジャー海淵を調査しており、世界第一位と第二位の超深海での生態系を比較することが目的です。

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北里 洋さん

 Quest4では、世界で二番目に深い海底に、どのような生物がいて、何をしているのか、特に地球の炭素循環にどのように貢献しているのかを明らかにします。トンガ海溝には地球の内部の物質(マントル物質)が露出していることがわかっています。そこで新たな化学合成生態系を発見することも目的です。また、後半では、さまざまな海山を訪れ、多様な生態系を調査します。ルイビル海山列という、海溝に沈み込む海山群に見られる生態遷移を観測します。地球が行っている壮大な実験を利用して、深海生物の生態を明らかにするのが楽しみです(北里 洋)。

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宙のがっこう

専門家に聞いてみた(独)海洋研究開発機構
北里洋さん高井研さん