thinkFace
thinkEye

考える、それは力になる

contents

2017.12.28 | スタッフブログ

「未来の防災を考える〜ドローンを使った災害支援」実施レポート

松本 麻美
松本 麻美 スタッフ

2017年最後となったセミサロ「未来の防災を考える〜ドローンを使った災害支援」。今回のゲストは、青山学院大学の教授・古橋大地(ふるはし・たいち)さんです!

古橋さんの活動のテーマは、ドローンと防災、地図づくり。航空写真をもとに、市民の力で地図をつくる「OpenStreetMap(以下OSM)」の作成ボランティア、マッパー(Mapper)であり、発災時に航空写真を撮るため、ドローンを出動させる「DRONE BIRD(ドローンバード)」としての活動もしてらっしゃいます。

地図をつくる手段としてのドローン

古橋さんと私たちは、6年前に開催されたイベントで出会いました。

「当時から考えるとOSMも随分有名になりました」と古橋さん。ご自身は普段から、青山学院大学地球社会共生学部の学生たちとドローンを飛ばしています。

空中を飛ぶドローンには、複数のプロペラがついている「回転翼機」と飛行機のような形の「固定翼機」、両方を持ち合わせた「ハイブリッド型」があります。古橋さんが使っているのは、固定翼機です。

「ドローンは、自動運転、オートパロット操縦で基本的に運用しています。手でなげると勝手に飛んでいく。風を読んで、離陸をさせるんですが、向かい風に対して飛ばすというのがポイントです。飛び立ったドローンは、上空から真下の街を撮影し、帰ってきます」

OSMでは、航空写真や地図をなぞることで、デジタル地図を作成しています。この地図作成のときに、ドローンで撮影した写真が活用されるのです。

古橋さんは、2016年に、学生たちと、タイのある島で3日かけて30往復、ドローンを飛ばしたそうです。目的は、人が住んでいる地域の空撮でした。

学部の目的が”海外で活躍できる人材の育成”で、卒業後は途上国へ行く学生が多いそう。そのなかでも地図のない国が多いため、現地で効率的に地図をつくる方法として、ドローンの使い方を実践しているのです。

「私自身の取り組みのキーワードは『一億総伊能化』です。スマートフォン一つあればGPSが使えて、位置測位もできるので、日本に住む一億人みんなが、日本地図をつくった伊能忠敬になれる時代なのです」

次々と繰り出される古橋さんの“みんなでつくる地図”への思い。参加者も、どんどん話に引き込まれていきます。

いろいろな使いみちのある地図、OpenStreetMap

冒頭で「OSMも有名になったね」とおっしゃっていましたが、古橋さんのOSMでの活動は、2008年からに始まります。そして、この10年ほどの間に、OSMを導入する企業やサービスも増えてきました。有名なところでは、ゲーム「ポケモンGo」、アウトドア用腕時計「PRO TREK」、SNSの「Facebook」が挙げられるそう。

ポケモンGoには、ポケストップというアイテムをもらえるポイントがマップ上に表示されますが、その登録は複数の人で行ったそうです。

「私も登録に参加しましたが、みんなで情報を送って、みんなで楽しむという仕組みです。このゲームは、OSMと相性が良いんでしょうね」

PRO TREKでは、オンラインでは「Google マップ」、電波が届かないところではオフラインでも使えるOSMが表示されます。Facebookでは、発災時にユーザーの安否確認が公表され、困っている人と助けられる人のマッチングも同時にできるそうです。

「このような企業がOSMを使う背景には、みんなでつくっているため地図の使用に許諾がいらない、という特徴があります」と古橋さん。

これが、災害時にも大活躍する理由になっています。

災害時に活躍できる地図

「今、地図作成のボランティアに参加しているマッパーは、世界中で450万人です。2010年から2017年まで右肩上がり。人口で言うと、アイルランドとイコールなんですね。500万人までいけばコスタリカに並びますから、マッパーだけで国ができるんです!(笑)」

マッパーの多さも、災害時には役立ちます。2010年のハイチ地震発生後には、救助支援をするために、マッパーによって急激に地図が更新されました。建物の配置も書き込まれ、避難所は青い建物にするなどの工夫もされたため、支援物資の運搬計画が立てやすかったと言います。

2013年の伊豆大島での災害のときには技術レベルが上がり、災害が起こった日のうちに、地図情報をほぼ更新できるようになりました。2016年の熊本地震のときには、東京など遠隔地から地図を更新し、ツイッターなどの情報を重ねる事によって要救助者の位置がわかるようになったそうです。

熊本地震の際の、アクティブマッパー

災害時には、道がふさがったり建物が壊れたりするなかで、どれだけ要救助者に辿りつけるのかが、大切になるのでしょう。たくさんの事例を伺って、OSMによってどれだけの命が救われたのだろう! と思いました。

どんどん広がる協定の輪

古橋さんは、発災時に、現地や周辺地域でドローンを飛ばせる人と連携して地図を更新する活動「DRONE BIRD」を2016年から始めています。

古橋さんが一般市民として集めたデータは、航空写真を共有するプラットフォームにアップし、それをOSMで地図化する、という仕組みを使っています。ちなみにDRONE BIRDの写真はすべて真上から撮影したもの。人の顔が写らず、プライバシーを侵害することもないためオープンデータとして使用が可能だそうです。

「オープンデータを元につくったデータは、国連や赤十字など、必要としている団体に渡します。いまは、発災の1時間後にドローンを飛ばし、地図化する体制をとれば、災害発生後に2時間で地図をつくれる体制ができるのでは、と思っています。それには航空法や電波法の整備が必要ですが、2016年から、まず取り組んできたのが、神奈川県大和市との防災協定です」

大和市との防災協定を皮切りに、埼玉県横瀬市、東京都調布市・狛江市・府中市・稲城市・多摩市・日野市・世田谷区など、協定の輪がどんどん広がっています。

この防災協定を結ぶ際、古橋さんは以下3つの条件を提示しているそうです。

1, 初動はDRONE BIRD側で判断し、行政の判断は仰がない
2, その際の費用や保険などはDRONE BIRD側で負担する
3, 毎年合同訓練を実施する

危険な飛ばし方は絶対にやらない、という思いを持って自治体と密に連絡を取りながら、実施されているそうです。

人と人が力を合わせることでできあがる地図。今回お話を伺って、携わっている人たちの熱量がとても素敵だと感じました。

今回のセミサロは、ドローンに詳しい方やあんまり馴染みのない方にも参加していただきました。講演後の懇親会では、古橋さんとはもちろん、参加者同士でも楽しくコミュニケーションを取っていただき、とても充実した夜となりました。

※今回のスライドは全て、古橋さんにご提供いただきました。

 みんなもドローン、飛ばしてみよう!!

松本 麻美
松本 麻美(まつもと あさみ) スタッフ

子どものころに楽器を習うも、石川県の美術大学へ進学し彫刻を勉強。卒業後の1年を、ロンドンへの語学留学、派遣社員としての勤務などをして過ごす。編集未経験で勤務した編集プロダクションでは、移住専門雑誌や書籍などの編集、ライティングを2年間担当。そろそろやりたいと思ってきたことをしたい、と退社したところにThink the Earthと出会う。関心は映画、音楽、美術、谷戸など。新しいことを知るたびにワクワクします!