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2019.11.22 | 瀬戸 義章

「里山づくり」でアフリカの生活と森を再生する

ガスコンロの場合は都市ガスかプロパン。IHクッキングヒーターや電子レンジなら電気。「料理に必要な燃料は?」と聞かれたら、たいていの人はそう答えるでしょう。ウチはBBQばっかりしてるから炭。というケースは日本では少ないと思います。

ところが、世界的にみると調理には膨大な量の薪が使われています。国連食糧農業機関(FAO)によれば、2011年に生産された木材は30億立法メートルで、そのうちの実に49%(※)が薪として使われています。世界中で建物や家具をつくる量と同じだけの木材が、暖房兼調理用の燃料として毎年使われているのです。

西アフリカに位置するマリ共和国も、調理用に薪炭を使う地域のひとつです。都市部の急激な人口増加にともなって周辺の森林は急速に減り、薪の価格はここ数年で1.5倍になりました。南部のファナ地域は年間降水量1,200ミリと、木が生育する環境ではあるのですが、育つよりも多く伐採してしまっているのが現状です。

そんなマリ共和国で、「里山づくり」の方法論によって森林を取り戻そうと活動しているNPOが、特定非営利活動法人サヘルの森です。

都市に運ぶためローカル市場に集められた薪

サヘルの森の発足は1987年にまで遡ります。干ばつによる飢餓の危機がなんとか去った後の、生活再建支援が活動のスタートでした。「里山づくり」も、生活安定と緑化の両立を目指して考え出されたものです。

その方法は、ひとことで言ってしまうと「農地に有用な木を植える」ことです。

『星の王子さま』に登場する木として知られるバオバブは、栄養価の高い果実が獲れるだけでなく、葉は主食のソースに、樹皮はロープにと、さまざまに活用することができます。バオバブやカシューナッツ、あるいはユーカリやカイセドラなどの木を空いている土地に植えれば、食品や建材として販売することができ、農家にとっては新たな収入源の獲得に繋がるのです。

「わざわざ木を植えなくても、すべて畑にすればいいのでは?」と疑問に思うかもしれません。しかし、里山化には多くのメリットがあると、サヘルの森 運営委員の榎本肇氏は言います。

「たしかに枝葉が日を遮ることによって、生産性が落ちてしまうことはあります。しかし、激しい雨も遮ってくれるので、アフリカの貧しい土壌が雨期に流出してしまうことが避けられるようになります。また、木々に宿を借りた動物たちのフンや落ち葉は、そのまま肥料として土を豊かにします。さらに、一年生作物に比べれば木は丈夫なので、悪天候で畑の収量がガタ落ちしても、木からの収穫で生活をしのぐことができます」

日本の里山では、木々を材料に、枝を燃料に、草を飼料に、果実を食料に、葉を肥料にと、森と畑をハイブリッドに使いこなしていました。この考え方は、言わば投資でポートフォリオを組むようなものです。短期的に見ればぜんぶを畑にしたほうが収量は上がりますが、中長期的にみると土地がどんどん痩せ細り、凶作になれば一巻の終わりです。どんな状況になっても暮らしを安定させるための「資産運用」の知恵が里山の思想だったのです。

もちろん、こうした考え方は日本だけのものではありません。韓国ではマウル、インドネシアではプカランガン、アルゼンチンではチャクラとして知られ、マリでも伝統的な農法として一部には残っていました。伝統的な思想に現代の農業技術も取り入れながら、複合的な自然の使い方を取り戻そうというのが、サヘルの森の活動なのです。

シアバターノキが伸びる穀物畑

サヘルの森は現地の苗畑主から苗木を買い取り、年間で約1万世帯に配布するとともに、栽培技術の研修もおこなっています。自分で苗木をつくるにはどうすればいいのか? 畑の中で木の植樹に適した場所はどこか? 果実の収穫を早める「接ぎ木」はどのようにやるのか? 参加者からは毎回質問が飛び交います。

現地では家畜が放牧されているため、ヤギや牛が野菜の芽を食べてしまうことがあります。そうならないように、木を境界線上に植えて「生け垣」としても使う応用例も出てきているそうです。マリの各農家は10ヘクタールほどの土地を持っているので、植えるスペースは十分にあります。

サヘルの森が「農家ごとの緑化」にこだわって活動している最大の理由は「管理責任を明確にする」ことにあると、榎本氏は語ります。

「『里山』と言うと、村ごとに管理する共有地だと思われますが、マリでは各家庭で管理してもらっています。日本のイメージに近づけるなら『自分ちの裏山』のようなものですね。樹木は何世代にもわたって管理しなければならない資源ですが、今までにまったくやったことのない村で、はたしてそんな管理制度が続くでしょうか。囲いを作って共同で植えて、そのまま枯れてしまった緑化の取り組みを数多く見聞きしてきました。そうではなく、森を自分のものとして管理していって欲しいと思っています」

植えた木によって、食料が獲得できたり収入に繋がったりと効果が目に見えるようになれば、「木を植えることの意義」が伝わりやすくなることでしょう。自分の資産であれば、完全に切ってしまうことのデメリットも明確になります。一方的な伐採を少しでも減らすために、サヘルの森は活動を続けています。

現地の苗畑主から接木の方法を教わる研修風景

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瀬戸 義章
瀬戸 義章(せと よしあき) 地球リポーター

1983年 神奈川生まれ。"ゴミ"がテーマ。 長崎大学で環境科学を学び、上京。粗大ゴミをリユースするサービス「エコランド」の広報に携わる。2009年グッドデザイン賞受賞を担当。2010年末に退職し、東南アジア諸国のリユース・リサイクル・ゴミ事情を取材してまわる【ゴミタビ】を実施した。 帰国した矢先に東日本大震災が発生。仙台で復興支援事務局に携わりながら、災害廃棄物の処理について発信していく。

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