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2017.09.26 | 宮原 桃子

子どもたちにすすめたい絵本 ~Vol.1:平和と多様性〜 

絵本や本は、子どもの成長とともにあります。子育ての中で、子どもにせがまれて同じ絵本をひたすら何回も読んだり、夜に子どもと一緒に眠りそうになりながら、読み聞かせたりした経験がある方も多いでしょう。我が家では、 図書館や本屋で絵本を選ぶのは、基本的に子どもたちです。たとえその絵本がいまいちだなぁとこちらは思っても、読み聞かせしづらい図鑑やマンガでも、子どもが読んでほしいと持ってきたものは、基本的にすべて読むようにしています。本を読んで感じる主役は、子どもだからです。

ただ、時として「こういうテーマを考えるきっかけになればいいな」という大人の視点で、私が絵本を選ぶこともあります。地球のこと、世界のこと、自分たちの暮らしのこと…社会にまつわるさまざまなことを考えるきっかけは、 小さな子ども向けの絵本の中にもたくさんあります。説明的な情報やデータではなく、おはなしの世界を通してさまざまな視点や気づきを持てるのも、絵本の醍醐味です。

そこで今回は、子どもたちがおはなしや絵、写真などを通して、 世界や地球で起きていることを考えられる絵本をいくつかご紹介します。初回は、平和と多様性についてです。

【テーマ1:多様性の尊重】 

『かえるくんとたびのねずみ』 作・絵 マックス・ベルジュイス/訳 清水奈緒子 (らんか社)

主人公のかえるくんが暮らす村に、ある日ふらりと旅人のねずみがテントを張ります。友だちのこぶたやあひるは、ねずみという動物はどろぼうだ、よそ者だ、怠け者、薄汚いとあらゆる固定観念で排除しようとします。「わたしたちとは、ちがうでしょ」と言うあひるに、かえるくんは「ちがうよ。でも、ぼくたちだって、みんな、ちがっている」 と言います。ファンタジックな絵本の世界でありながら、こぶたやあひるが見せる態度は、まさに今私たちの世界で起きている差別や難民問題などに通じるものがあります。多様性を受け入れようとするかえるくんやねずみ、仲間たちとのやりとりに、私たちの今あるべき姿を考えさせられます。20年以上前に書かれた、オランダ人作家マックス・ベルジュイスの作品。

『むこうがわのあのこ』 文 ジャックリーン・ウッドソン/絵 E.B.ルイス/訳 さくまゆみこ (光村教育図書)

街の間に立てられている柵の、こちら側と向こう側で遊ぶ子どもたち。 同じ年頃の白人と黒人の少女たちは、大人からはそれぞれ柵を越えるなと言われながら、お互いのことが気になっています。そんな少女たちが、子どもならではのコミュニケーションで少しずつ距離を縮めていく物語。「こういう柵は、腰かけるためにあるのよ」という言葉で、大人が勝手に作った差別の壁を越えていく、子どもたちのしなやかさが印象的です。

『世界のともだち』シリーズ (偕成社)

偕成社の80周年を記念して製作された、世界36カ国の子どもたちの暮らしを紹介する写真絵本シリーズ。このシリーズでは、1冊ごとに1つの国のひとりの小学生を主人公にしています。それぞれの子どもの学校や家庭での様子、友達づきあい、遊びなどを紹介。学校での手のあげ方ですら、パーの国もあれば、チョキの国も、人差し指を立てる国もあって、さまざまな面で世界の多様性に触れることができる本です。

国は違っても同じ子どもが主人公なので、読者の子どもたちは自分と「違うところ」だけでなく、「同じところ」も発見するでしょう。違いを理解するとともに、お互いの共通点も感じることで、多様性を受け入れ、尊重する心が生まれてくるように思います。

【テーマ2:戦争と平和】
 

『平和をかんがえる こども俳句の写真絵本』 (小学館)

この写真絵本では、戦前から戦後にかけての子どもたちの様子を捉えた写真と、現代の子どもたちが自由に書いた俳句を、ともに並べて紹介しています。そこには、悲惨な戦いの写真があるわけではありません。学校で戦争について学ぶ子ども、労働に駆り出される子ども、学校や家庭での質素な食事の風景、親を亡くして路上で生きる子ども…などなど、ただひたすら懸命に生きる子どもたちが映し出されています。写真のなかには、つらい戦争の合間にも笑顔を見せる子どもらしい姿もあります。木村伊兵衛や土門拳をはじめとする8人の写真家によるものです。

一方、現代の子どもたちの俳句は、 必ずしも戦争や平和がテーマではなく、 自由課題で書いたものです。それらの俳句からは、 無邪気で平和な日常と子どもらしい時間が感じとれます。写真と俳句どちらにも、直接的に反戦を訴えるメッセージはありません。しかし、この写真と俳句のコントラストが、戦争が子どもたちから何を奪っていくかを、静かに表現しています。

ただ、写真と俳句の内容は直接関連性がないので、子どもに両方を同時に説明しても理解するのは難しいでしょう。子どもには、写真を見せながら、かつて自分と同じ子どもがどんな様子だったかを説明していくだけで、十分読むに値する本です。

『そらいろ男爵』 文 ジル・ボム/絵 ティエリー・デデュー/訳 中島さおり (主婦の友社)

空色の飛行機に乗る「そらいろ男爵」は、戦争に駆り出された時、砲弾の代わりに、家じゅうにある「本」を落とすことにしました。重くて分厚い辞典がなくなると、面白い本を落とすようになり、中には「戦争と平和」なんていう本も…。そらいろ男爵は、次第に落とすものや落とし方にも工夫をこらします。さて、戦争はどうなっていくのでしょうか。

今の世界では、宗教や民族、資源などを理由に、国家や権力、企業などの大きな力が渦巻いて、たくさんの戦争が起こっています。しかし、一人ひとりの普通の市民として考えた時、誰だって本当は戦争を望んでいるわけではありません。この絵本は、そのことをシンプルに伝えています。

『平和の種をまく ボスニアの少女エミナ』 写真・文 大塚敦子 (岩崎書店)

ボスニア・ヘルツェゴビナに暮らす、小学校5年生の女の子エミナとその家族の暮らしを綴(つづ)った写真絵本。90年代に起きた 悲惨な内戦の後、エミナや家族、 そしてさまざまな民族の人びとが、 葛藤しつつも助け合いながら生きる姿が描かれています。 エミナは、家族や周りの人びとの話、そして内戦時に敵対していたセルビア人の少女ナダとの出会いから、なぜ戦争をしなければならなかったのか、戦争にならないようにするにはどうすればいいのかを、子どもの視点で考えていきます。

政治や権力といった大きな力で動かされる戦争に対して、私たち一人ひとりができることは何かを改めて考えさせられる内容です。末尾に、ボスニア内戦の背景や史実、戦後の人びとの様子などについて、大人向けの解説もあります。    

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ここでご紹介した絵本は、ほんの一例です。世の中には、さまざまなテーマの良い絵本がたくさんありますので、 ぜひ図書館や本屋さんでチェックしてみてください。ちなみに、我が家では親が勝手に選んだ絵本は、押し売りすると子どもに拒否されることもあるので、子どもたちが選んだ本と一緒にさりげなく並べておいて、手に取ってくれたらラッキー!くらいの気持ちでいます。日々の暮らしの中で、子どもが興味を持つきっかけがあった時に、選んでもいいですね。絵本を通じて心に蒔かれた種が、いつか花開く時が来るといいなと願いつつ…。

宮原 桃子
宮原 桃子(みやはら ももこ) 地球リポーター

日本貿易振興機構(JETRO)に勤務後、フェアトレードファッション・ブランド「People Tree」にて、バングラデシュ・インド・ネパールにおける生産管理に従事。現在は、企業のサステナビリティ推進を支援する「 エコネットワークス」に、コンテンツプロジェクトマネージャーとして参画。ライフワークとして、フェアトレード絵本「ムクリのにじいろTシャツ」を制作したほか、親子向けにフェアトレードを学ぶワークショップを企画する「フェアトレードガーデン世田谷」(本部・東京)の運営に携わる。社会や世界で起きていることを「自分ごと」として感じ、考え、行動する。そんなきっかけになるような記事をお届けしたいと思います。

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