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2018.05.23 | 宮原 桃子

インド発「子どもがつくる、おもしろサステナブルニュース番組」 1万人の子どもたちが企画から取材まで!

スクラッピーニュースのメインキャスターを務める子どもたち

ここは、インドのとある漁村。カラフルな掘っ立て小屋のスタジオで、「ようこそ、スクラッピーニュースです!」 と元気よく叫んでいるキャスターは、なんと子どもたち。手作りのスタジオから放送されているニュース番組「The Children’s Scrappy News Service」は、インドの社会や環境などにまつわるさまざまなテーマを、ポップで楽しくユーモラスに取り上げています。なんと司会やレポーターだけでなく、その企画から脚本、取材までを、10歳から14歳くらいまでの子どもたちが手掛けているというのです。キャスターの2人は、高らかにこう言います。

「ヒマラヤの氷河が解けてなくなり始めているのに、地球の問題は山のように増えています。でも、大人たちは何をしているの? ただ頭をかいているだけ! 大人たちは、他のことに忙しいみたい。今こそ、私たち子どもが行動しなくちゃ。私たちの世界を救うのは、私たちしかいない!」

そう、この番組は、世界でも珍しい、子どもによる子どものためのサステナブルニュース番組なのです。

「The Children’s Scrappy News Service(以下、スクラッピーニュース)」を始めたのは、2003年にイギリス人リサ・ヘイドローフさんがインドで設立した非営利団体「Going to School(以下、GTS)」。GTSは、経済的・社会的に立場の弱い子どもたちが、自分の暮らしや環境を変えていく力を育てることを目指しています。GTSの特徴は、デザインを活用したダイナミックでクリエイティブな手法。これまでも、本やマンガ、ゲーム、アプリ、テレビ番組、イベントなど多彩なメディアを通じて、インド全土のクリエイティブな学校や子どもたちの取り組み・ストーリーを、子ども向けに紹介してきました。例えば、子どもたちは、社会や学校がどうあってほしいと思っているのか。地域や学校にまつわる問題にどう取り組んで、変えているか。さまざまな子どもたちにまつわる実話や声を伝えることで、子どもたち自身が持つ力や可能性を考えてもらうきっかけを作ってきました。これまで出版した絵本は、100万冊以上。インド国内10州の学校と連携しながら、活動してきました。

「Going to School」創設者のリサ・ヘイドローフさん

スクラッピーニュースが生まれたのは、3年前。ヘイドローフさんは、その理由をこう語ります。

「子どもたちが生きる今の世界は、気候変動や不平等、海にあふれたプラスチックなど、問題と混乱に満ちています。これらを一挙に解決する方法は、残念ながらありません。これらの大きな問題に取り組んでいくために、世界中の子どもたちをつなぎ、子どもたちが問題に取り組んでいくスキルや力を育てたいと考えたのです。GTSでは、これまで15年間インド各地の学校で活動してきましたが、学校というオフラインの場だけでなく、デジタルやオンライン、テレビなどさまざまなプラットフォームをつなぐ新しいアイディアが必要だったのです」

スクラッピーニュースの「スクラッピー」は、「世界を変えるために、自分なりのスタイルややり方で、何もないところから何かを生み出すこと」を表しているそうです。「誰だって、スクラッピーになれる」というコンセプトで、地域や社会のテーマについて、子どもたちが自主的に参加できる番組づくりが始まったのです。

スクラッピーニュースの番組サイトは、ポップなデザインであふれている

まずGTSは、インドで最も貧しい地域の一つと言われるビハール州政府と協定を結び、教育プログラムの一環としてスクラッピーニュースを立ち上げました。州立の中学校に通う子どもであれば、誰でも番組づくりに関わることができ、これまで1万人以上の子どもたちが参加しています。州内20地区に、子どもたち自身がガラクタなどで手作りしたニュースルーム(報道局)があり、企画提案から脚本、取材などを子どもたちが手掛けます。スクラッピーニュースのウェブサイトには、ニュース制作にあたってのヒントや用意するもの、やり方などが楽しく紹介されたマニュアルも用意。GTSのスタッフは、すべての工程を通して子どもたちをサポートしながら、最終的な編集や制作を担います。スクラッピーニュースは、現在YouTubeで公開されています。

子どもたちがガラクタを集めて作ったニュースルーム

ある日の企画は、「スマートシティって何?」。子どもレポーターたちが、街の市民に「どういう街が、スマートシティでしょう?」とインタビューをしながら、「これってスマート?」とゴミだらけの道路や排水路を撮影。さらには、街に暮らす電動リキシャドライバーや機械工、経営者などのゲストを招いて、どうすれば街をスマートシティにできるかを語る討論会や、子どもたちがスマートシティのためのビジネスプランを競うコンテストも開催。ユーモアや笑い、音楽がちりばめられた映像からは、子どもたちが真剣かつ楽しく取り組んでいるのが、伝わってきます。

「スマートシティって何?」の企画。制作・出演している子どもたちは、とにかく楽しそう

「女性起業家のヒーローを探せ」の回では、女子中学生レポーターたちが農村を取材。貧しさから抜け出すために、村でグループ貯蓄プロジェクトを立ち上げた女性たちをインタビュー。どんな想いで、どんなことをしているのかなどを紹介。

女子中学生レポーターたちに、 誠実に答える村の女性たちの姿が印象的

サステナブルな取り組みをしている人を紹介する「スクラッピーヒーロー」というコーナーも。子どもレポーターたちが、パッケージ包装からリサイクルバッグを作る人や、コンポストから有機肥料を作る人などを訪れ、活動のきっかけや秘訣などをインタビューしていました。その他、番組には、「学校にトイレがない」「排水溝が汚いので、病気になる」「電気や飲料水がない」「空気が汚すぎる」など、全国の子どもたちからさまざまな投書も寄せられています。

「スクラッピーヒーロー」で紹介されるリサイクルバッグ職人

番組を見ているだけで、子どもたちがいかに情熱を持って、楽しみながら企画や制作をしているかが伝わってきます。「子どもたちは、スクラッピーニュースに夢中になります。そして活動を通して、自分たちには物事や社会を変える力があるんだと気づき、実際に行動するようになっていきます」とヘイドローフさん。ビハール州ではスクラッピーニュースに参加したいという学校が殺到し、教師など教育関係者にとっても、 教育のあるべき姿を考える良い機会になっているそうです。

ビハール州で始まったスクラッピーニュースは大きな反響を呼び、6月からは全国放送のゴールデンタイムでも放送されることになりました。全国放送の番組企画や制作は、大人が担当するそうですが、その内容は海のプラスチックごみ集めから、地域で自分たちの遊び場を作る企画など、全国の子どもたちがさまざまな社会の課題に取り組むもの。インターネットやアプリ、携帯なども連動して、全国のどの子どもでも参加できるようになります。YouTube 版の番組は、引き続き子どもたちが中心となって、企画から取材まで行われるそうです。またスクラッピーニュースの取り組みには、世界中からも注目が。現在はメキシコシティ政府とも連携して、メキシコでの展開に向けて準備が始まっています。

環境や貧困など社会のあらゆる課題は、時として自分一人の力ではどうしようもできないように感じてしまいます。しかし、こうした問題を解決できるのは、他の誰でもない一人ひとりの力の積み重ね。「これは、自分たちが変えられる、自分たちの問題なのだ」 と感じている人が、10人でも100人でも増えるだけで、大きな違いが生まれます。

スクラッピーニュースは、子どもたちに地域や社会のことを考えてもらい、「自分ごと」として考え行動するきかっけを作っています。また、全国各地の子どもたちがお互いの企画を目にすることで、刺激や学びあいも生まれています。そして、何よりも純粋に楽しいと感じることが、子どもたちの積極的なアクションにつながっているのです。

これからさまざまなグローバルな課題に立ち向かっていく上で、知識や思考を深める教育も必要ですが、何よりも「 自分たちにもできる、変えられる」という経験を楽しく面白く積み重ねることが、子どもたちの大きな力になっていくように思います。日本でも、ぜひスクラッピーニュースを始めたいですね。

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宮原 桃子
宮原 桃子(みやはら ももこ) 地球リポーター

日本貿易振興機構(JETRO)に勤務後、フェアトレードファッション・ブランド「People Tree」にて、バングラデシュ・インド・ネパールにおける生産管理に従事。現在は、企業のサステナビリティ推進を支援する「 エコネットワークス」に、コンテンツプロジェクトマネージャーとして参画。ライフワークとして、フェアトレード絵本「ムクリのにじいろTシャツ」を制作したほか、親子向けにフェアトレードを学ぶワークショップを企画する「フェアトレードガーデン世田谷」(本部・東京)の運営に携わる。社会や世界で起きていることを「自分ごと」として感じ、考え、行動する。そんなきっかけになるような記事をお届けしたいと思います。

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