contents
廃材を素材に変え、モノを巡らそう フェリシモの「マテリアループ」
モノを作る製造業を血管の「動脈」に例える一方、産業廃棄物や使用済み製品を回収したり、再利用したりする側の企業を「静脈」産業と呼ぶことがあります。全身の血管が二酸化炭素を多く含んだ血液を心臓に運ぶように、産業廃棄物や使用済み製品を安易に捨てず、意識してモノ作りの始点につなげ、循環社会を目指す考え方です。
この「静脈」にかかわる会社は、実際にごみを回収し、リサイクルを請け負う廃棄物処理業が多いのですが、最近では、製造工程でやむなく出てしまう端材などを「素材」ととらえて仕入れ、新しい価値観のモノ作りを提案する企業が出てきました。
ファッションや雑貨などの通販大手・フェリシモ(本社・神戸市)のプロジェクト、「素材の蚤の市 マテリアループ」は、そのひとつです。もともと自社でアップサイクル製品も手がけていた同社は、製造工程で出る端材や、製品にする前のさまざまな材質の素材が、モノ作りを楽しむ人たちにとっては、なかなか手に入らないDIYの材料として重宝されることに着目します。自分らしいクリエイティビティを発揮できる素材市場を、と2年前に立ち上がったのがこのプロジェクトでした。
当初はmaterial+loop(素材が輪になる)、つまり、素材が循環することをイメージして名付けたそうですが、先月サイトを大幅にリニューアル。これまでは手作り好きの女子を主なターゲットとしていましたが、今後は素材の産地やメーカー、さらにはアップサイクル商品の購入者と、様々な立場の人を巻き込みながら、素材のバックグラウンドに関心を寄せる人の輪を広げていきたいと言います。
現在ネットショップには、国内外の取引先から仕入れた素材が約300点、また、コンセプトに賛同する作家や福祉施設のアクセサリーやバッグなど雑貨や小物がおよそ150点掲載されています。カラフルな布の端切れや糸、ボタン、家具の端材、金属部品などは、用途が未知数だからこその面白さがあり、InstagramなどSNSを活用した素材紹介写真も、作り手や買い手の好奇心をくすぐるよう工夫されています。素材の形状や由来を面白がって購入する人もいますが、マテリアループの常連には手仕事好きの上級者も多く、例えばシルク生地の“耳の部分”が出品されると、またたく間に売れてしまうと言います。つなげて糸にしたり、編んでみたり―。生地の耳は、知っている人にとっては、他では買えない稀少素材なのだそうです。
素材の可愛さや面白さを入り口に、モノの背景に思いを馳せてもらえれば、と話すのは、マテリアループ担当の福田奈誉美さん。福田さんは、サイト内で販売する点字ペーパーを例に挙げます。視覚障害者向けに点字翻訳された新聞や広報誌はすべて平仮名表記なので、一日の新聞でB5用紙50枚と膨大な量になりますが、点字用紙は古紙回収には出せず、すべて産業廃棄物になってしまうのだそうです。点字ペーパーを回収・選別しているのは、京都の就労支援事業所「FSトモニー」。点字利用者が読めないよう点字をつぶすひと手間をかけてから、ぽち袋や封筒など紙雑貨に加工しています。福田さんは点字用紙にまつわる諸事情を初めて知って、とても驚いたと言います。
モノを通し、これまで知らなかった世界が見えてくる―。そんな実体験をした福田さんは8月下旬に大阪で開いたマテリアループのリアル蚤の市でも、希望者にこの点字ペーパーをプレゼントしました。「ほとんどの方が現物を手にするのは初めて、とおっしゃっていました。すごく小さなことかもしれませんが、これまで触れたことのない素材に触れていただくだけで、何かが始まるかもしれない、と考えると面白いですよね」、福田さんはそう言います。
マテリアループには他にも、工場の端材や廃材のセレクトショップ「マテリアルマーケット」や、カラフルなレジ袋をコラージュしてバッグや小物を作る精神障がい者福祉施設のpoRiffのアップサイクル製品など、さまざまな個性を持った素材や製品が集まっています。福田さんは「仕事を越えて、自分の会いたい人が自然につながっている感じがします」と話します。
モノを作ったり、使ったりする時に、私たちは使って(作って)捨てて―という直線的な思考を繰り返しがちですが、ループをイメージすることは、大きなヒントになるのかもしれません。ループを思い浮かべることで、一度不要なモノに仕分けられたとしても、別の人から見れば、新たな利用価値を見い出だせるモノが結講あることに気づきます。冒頭の話で言えば、「静脈」側に関心を寄せる人の数やアイデアがまだまだ足りないことにも気づかされるのです。
地元の美術館・新聞社を経てフリーランスに。東京都国際交流委員会のニュースレター「れすぱす」、果樹農家が発行する小冊子「里見通信」、ルミネの環境活動chorokoの活動レポート、フリーペーパー「ecoshare」などの企画・執筆に携わる。Think the Earthの地球ニュースには、編集担当として2007年より参加。著書に『未来をはこぶオーケストラ』(汐文社刊)。 地球ニュースは、私にとってベースキャンプのような場所です。食、農業、福祉、教育、デザイン、テクノロジー、地域再生―、さまざまな分野で、地球視野で行動する人たちの好奇心くすぐる話題を、わかりやすく、柔らかい筆致を心がけてお伝えしていきたいと思っています!