thinkFace
thinkEye

考える、それは力になる

dogear

contentsMenu

地球ニュース

contents

2022.12.27 | ささ とも

世界の希少な食べ物が消えてゆく? 『世界の絶滅危惧食』が紡ぐ物語

「絶滅危惧」と聞くと、「レッドリスト」「希少動植物」を連想する人が多いと思います。今回はその絶滅危惧〝種〟ではなく〝食〟について、興味も食欲もそそられる本が出版されました。

本のタイトルはそのものずばり『世界の絶滅危惧食』*1。著者のダン・サラディーノさんは、イギリス公共放送局BBCのブロードキャスターで、長年、世界の食文化を紹介する番組にたずさわってきました。ギルド・オブ・フードライターズ賞など数々の賞を受賞するなど、フードジャーナリストとしても活躍。サラディーノさんはイギリス生まれですが、父親の故郷イタリア、シチリア島のルーツを誇りにしています。

イタリアといえば「スローフード」運動の発祥地。食の大量生産・スピード優先のファストフードに対抗して、1980年代にはじまったスローフード運動は、地元の農産物や食文化「郷土料理」を守り、人々の健康にも地球の環境にもやさしい方法で生産し、サプライチェーンに関係するすべての人の社会的公正を尊重することを目的に、世界160カ国以上に広まっています。日本でも、2016年に日本スローフード協会が発足し、活動を展開しています。*2

この本では、ヨーロッパからアフリカ、中東、アジア、アメリカ両大陸まで、世界中の「絶滅」の恐れがある34の食べ物(飲み物も含む)や食文化を取り上げていて、その多くがスローフードネットワークに登録されているものです。

もちろん、日本の食べ物も紹介されています。その1つが沖縄の在来種「青ヒグ(オーヒグダイズ)」。ダイズと言えば、納豆で見られる丸くて黄色いマメが頭に浮かぶと思います。オーヒグダイズは一般のダイズよりも小さく、緑がかっているのが特徴です。ダイズは日本では納豆や豆腐などの材料として、日常的に食べられていますが、実は世界で生産されているダイズの多くは家畜のエサになっています。そして食肉の需要の高まりから、ダイズの生産量を増やすために大規模な環境破壊が引き起こされています。たとえば、世界最大のダイズ輸出国のブラジルでは、ダイズ畑にするために広大な熱帯雨林が伐採されているのです。

左がオーヒグ、右が一般的に食べられているダイズ ©Slow Food Nippon

沖縄の珍しいダイズ、オーヒグダイズは、14世紀から栽培されてきた大切な食料でした。ほかのマメよりも早く育つため、春に種をまくと梅雨ごろには大きく成長し、高温多湿で発生する虫にも強いことから、沖縄の農家はこの種を代々受け継いできました。明治時代に沖縄県になるまえの琉球王国時代、人々の主な食事は、オーヒグダイズの豆腐と野菜がたっぷり入ったみそ汁でした。沖縄がのちに世界で最も健康寿命の長い地域にランキング入りした秘訣は、豆類を豊富に取り入れた植物ベースの食事だったわけです。

しかし20世紀半ばには、アメリカ産の安いダイズが輸入され、オーヒグダイズを栽培する農家がいなくなりました。この本に登場する食べ物の多くが、こうした単一栽培、大量生産の農産物が世界規模で取引されているために、人々の食生活から消えようとしています。それは食の多様性が失われつつあるということ。食の多様性の減少は、病気や害虫、気候変動により食料安全保障が脅かされる事態を招きかねません。

幸いにも、オーヒグダイズはその種を探し求めた1人の男性によって以外なところで発見され(詳細は本を読んでのお楽しみ)、大切に育てられています。(那覇市繁多川地域ではオーヒグダイズを栽培しており、毎年、豆腐作りのイベントが開催されています*3)オーヒグダイズは沖縄の人々の長寿・健康の源としてだけでなく、琉球文化の1つとして復活しようとしています。

わたしたちの生活にも、失われつつある伝統的な食べ物や食文化があるように思います。たとえば、お正月に振る舞われる「おせち料理」。最近では全国どこでも同じ出来合いの豪華なおせち料理が流通しています。この機会に郷土料理の素朴なおせち料理を見直してみてもよいかもしれません。

*1『世界の絶滅危惧食』(ダン・サラディーノ著、梅田智世訳、河出書房新社、2022年11月刊)
*2 日本スローフード協会のウェブサイト 
*3 琉球新報 

関連するSDGs

  • SDGs Icon
  • SDGs Icon
  • SDGs Icon
ささ とも
ささ とも(ささ とも) 地球リポーター

神奈川県在住。翻訳者、ライター。 2010年からThink the Earthのリポーターとして世界の持続可能な取り組みのニュースを発信。気候変動、エネルギー、生態系など幅広い分野で世界の動きを追っていきます。翻訳書『ポストキャピタリズム:資本主義以後の世界』(東洋経済新報社)など。

sidebar

アーカイブ

Think Daily 2000-2017