thinkFace
thinkEye

考える、それは力になる

dogear

contentsMenu

地球ニュース

contents

2026.01.16 | アーヤ 藍

映画『型破りな教室』が魅せる 子どもも大人も変わらない「学び」の源泉

SDGsの4つ目のゴールは「質の高い教育をみんなに」ですが、では「質の高い教育」とは何なのでしょうか。1月24日の「教育の国際デー」を前に、改めて「学び」とは何かを考えるのにお薦めの映画が、実話をベースにした『型破りな教室』です。

舞台は、アメリカとの国境近く、麻薬や犯罪が日常に隣り合わせているメキシコ・マタモロス市の小学校。校門に警備員が立ち、登下校時以外は施錠。入る車も一台一台セキュリティ・チェックされるほど。路上で死体を見かけることも珍しくなく、近隣のごみ集積場の異臭も漂うこの学校を、地域の人は「罰の学校」とまで呼んでいます。

この学校の教育スタイルが如実に現れるのが、新年度の始まり、登校した生徒たちに対して校長先生が放つ言葉です。

「口を閉じなさい。沈黙は従順さの基礎だ。従順さは秩序の基礎だ。そして秩序は学びの基礎だ。では我が校の規律を皆で復唱しよう」

毎日何を教えるかの授業計画も定められていて、先生たちはそれに従って教えます。図書館でさえ前日までに申請を出さないと使えません。そんな「型」がカチカチに定められた学校は、どこか自分が日本で通ってきた学校とも重なります。

「型」はきっちりと守られているものの学力は最底辺で、日本と同じ無償の義務教育にもかかわらず、6年生の半分以上は卒業が危うい状態。なんとかせねばと校長は「全国学力テストENLACEの目標を達成した学年にはボーナスを出す」と先生たちに呼びかけますが、生徒に期待していない先生たちは、むしろ試験問題を不正に入手する方向へ努力する始末。

そんな中、この小学校に新たに着任したのがセルヒオ・フアレス・コレア先生です。着任初日から授業計画を無視し、「ここは海だ。救命ボートは6つ。みんなは23人。どうする?なぜ船は浮く?船が耐えられる重さは何で決まる?」とクイズを始めます。生徒たちは戸惑いとともに不安を口にします。「間違えたら成績が下がる」と。それに対してセルヒオ先生は「全員に10の成績をつける」と約束し、「だから積極的に間違えろ」と、以降、型破りな授業を展開していきます。

「何を学びたいか?」を生徒たち自身に決めさせたり、問いだけを投げかけ、「みんな賢いから俺はいらない」と教室を出ていき、生徒だけで答えを導かせたり、校庭を教室にして積極的に実験検証をさせたり、中絶の是非をはじめ哲学的な対話をさせたり……。

そして生徒たちに伝えます。
「必要なものは君たち一人一人がもう持っている。それは可能性だ。君自身の責任で使うかどうかを決めろ」
「どんなに土をかけられても、災難が降り注いでも、自分を埋もれさせるな」

実際、生徒たちには様々な「災難」が降りかかります。ギャングのリクルートの手が伸びてきたり、母親代わりの子守りが必要だからと学校へ通わせてもらえなくなったり……。

それでも、彼の授業と言葉にエンパワーメントされた生徒たちは、一人一人の関心と得意領域を深めていき、結果的にENLACEで数学と国語の合格者がともに90%を超え、10人が数学で全国の上位0.1%をとるという好成績を収めます。

実はセルヒオ先生が型破りな授業にチャレンジしたのは、インドのスラム街にコンピューターを置いて自由に使わせたら、自分たちの力で学びを深めていった、Sugata Mitra大学教授による「Hole in the Wall」プロジェクトに触発されたためでした。そこで、同じようにパソコンを使った自発的な学びに挑戦するためにパソコンが支給されたはずのこの小学校に自ら希望して赴任したのです。ところが赴任してみると、盗難と汚職により空っぽのパソコン室しかなかったのでした。

しかし、むしろパソコンがなかったことで、短絡的に答えだけを得るのではなく、考えるプロセスや問いを立てる力を養ったのだろうと感じます。様々な「問い」が溢れる本作に、「最近、こんなふうに自分で問いを見つけられているかな?」「こんなに好奇心を持てているかな?」とインターネットに頼りがちな自分を内省する気持ちにもなりました。セルヒオ先生が「型破りな授業」に行き着いたのも、彼自身が「子どもたちを国という機械を動かすただの歯車にする教育では時代遅れだ」という問題意識をもち、どうすれば良いかと問いを立て、自ら学びのアンテナを貼り続けてきたからこそのはずです。

子どもたちの、いや、大人も含めて、学びの源泉を思い起こすのに、ぜひセルヒオ先生の教室を映画で”訪れて”みてください。

*劇場公開は終了していますが、各種プラットフォームの配信でご覧いただけます。

監督・脚本:クリストファー・ザラ
出演:エウヘニオ・デルベス(『コーダ あいのうた』)、ダニエル・ハダッド、ジェニファー・トレホ
2023年/メキシコ/スペイン語/125分
©Pantelion 2.0, LLC

関連するSDGs

  • SDGs Icon
アーヤ 藍
アーヤ 藍(あーやあい) 映画探検家

在学中にアラビア語の研修で訪れたシリアが帰国直後に内戦状態になり、シリアのために何かしたいという思いから、社会問題をテーマにした映画の配給宣伝を行うユナイテッドピープル株式会社に入社。同社取締役副社長を務める。2018年に独立。映画の配給・宣伝サポート、映画イベントの企画運営、雑誌・ウェブでのコラム執筆などを行う。アーヤはシリアでもらった名前。大丸有SDGs映画祭アンバサダー。著書に『世界を配給する人びと』(春眠舎)。

sidebar

アーカイブ

Think Daily 2000-2017