2017年04月19日

そこにある声を聞く 「崩れゆく絆―アルフレド・ジャーが見る世界のいま」@森美術館の感想

地球日記

森美術館が開催しているラーニングプログラムアージェント・トーク」に参加しました。とてつもなく動かされた内容だったので、ご紹介させていただきます。
 ※トーク記憶を辿ってそのまま書いているので、一部内容には齟齬があるかもしれませんが、ご了承ください

「アージェント・トーク」は来日したアーティストに招いて講演してもらう趣旨で、今回のゲストはアルフレド・ジャー(Alfredo Jaar 1956年 - )さん。

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(画像クリックでジャーさんのHPが別ウィンドウで開きます)

個人的には、理論と感性が同居していて、ジャーナリズム色の濃い作品をつくる人だな、という印象です。

「文脈を理解せずに、行動を起こすことはできません」「"この世界の状況下で、どのように作品をつくるのか?"と、アトリエに入った時に考えるのです」と、話し始めたジャーさんは、まず彼の作品を、スライドと制作過程の説明を交えながら紹介してくださいました。

(表記は作品名、製作した場所、製作年、ジャーさんによる説明の順番)
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●《We Shall Bring Forth New Life(Umashimenkana)》福島(日本)2013
福島の小学校から持ってきた25の黒板を使ったインスタレーション。日本語タイトルの「生ましめんかな」は栗原貞子さんの詩から。
●《Lights in the city》モントリオール(カナダ)1999
5度の焼失と再建を経験した建物が舞台。街のホームレスの「街の人にとって私たちは透明だ」という彼らの言葉を受けて、彼らを可視化させる主旨で行われた。
●《The Skoghall》Skoghall(スウェーデン)2000
製紙工場のために作られた街に、紙で美術館を建て、24時間展示した後に燃やすプロジェクト。街には文化的施設がなく、文化に目を向けてもらいたいと行った。
●《One Million Finish Passports》ヘルシンキ(フィンランド)1995
難民受け入れ数の少ないフィンランドで、100万冊のフィンランドパスポートを展示。この100万という数は、中東にいる難民の数(1億人と記憶してます)の1%。
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いずれの作品も、入念なリサーチとフィールドワークを経て、出来事の概要やそこにある問題などをあぶり出したものがテーマ。フィールドワークでは、関係者や当事者へのヒアリングも行っています。関係者や当事者の声を聞くことで、誰かが不用意に傷つくことがなく、アクションを起こす人が必ずいる作品となる。きちんとしたリサーチの上に成り立つ作品だから、鑑賞者も含むあらゆる人に意識の変化が起こるのだ、と感じました。

作品紹介のスライドの合間には、トルコの海岸に流れ着いた少年(アイランちゃん)の写真が挟まれていました。

「難民問題は以前からありますが、この写真から世界の注目が集まるようになりました」とジャーさん。彼の提示する他のスライドには、超過人数でゴムボートに乗り、鉄条網をくぐり、壁やフェンスを越え、押し留める人々の間をすり抜けて自国から逃れる人々の姿が映っています。

ヨーロッパにはドイツのメルケル首相、北アメリカにはカナダのトルドー首相など、難民を多く受け入れる国があります。その一方で受け入れを拒否する国があり、とんでもなく右翼思想を持つ国のリーダーも誕生しています。ジャーさんはハンガリーのカメラマンにまつわるニュースを挙げます。「国のトップの思想が国民の態度に影響を与えるのです」。

また、今回のアメリカの大統領選の結果を受けて、フランスやイタリアの雑誌は大きく拒否反応を示したがアメリカの雑誌は迷っているような様子で、日本では首相がいち早く次期大統領との会談に取り付けた、と各地の状態を伝えてくれました。

トークが終わった後の私の脳みそはほぼパンク状態で、何をしたら良いのか、自分の焦点をどこに当てたら良いのかわからなくなりました。ニュースを見ているだけでもあちらこちらで不安なことが起こり、全ての問題が同時進行で進んでいるように感じます。起こっていることは全て絡み合い、世界中にある壁は日に日に高くなっているように見えます。

それからひと晩考え、まだ全然消化できてませんが、この文章を書いているうちにひとつ。ジャーさんが行っているように、調べられることは調べ、行けるところは行き、そこにある声に応えていくことで、何か浮かぶかもしれない、と思いつきました。

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最近六本木も良いなと思うようになりました

(松本麻美)

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2017年04月03日

「良いコラボレーションの在り方を問い直す」[セミナー&サロン]

セミナー&サロン

全3回で実施してきた今年度のセミサロも、とうとう最終回になりました。
今回のゲストは、「問い」と「遊び」のデザインの観点から「ワークショップデザイン」について研究をしている、安斎勇樹さんです。さらに今回は、安斎さんのアシスタントである田中真里奈さんにグラフィックレコーディングを担当していただきました。安斎さんが話した内容を、わかりやすくまとめてくださいます。(グラフィックレコーディングについては、清水さんの回をご覧ください!)

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安斎さんは、ワークショップデザインを研究しながら、問いと遊びの力を使って、企業の商品開発や人材育成の課題解決に取り組んでいます。

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ワークショップって何?

「ワークショップは最近の流行りの手法のようにみえて、実は100年以上の歴史があります。『模造紙に付箋紙を貼り付けるブレスト=ワークショップ』と思われがちですが、私はワークショップを「普段とは異なるものの見方をするコラボレーションによる学びと創造の方法」と捉えています」

安斎さんは、ワークショップの参加者が漫画の登場人物になりきって写真を撮影し、オリジナルのストーリーマンガを一コマ一コマ作っていく「Mimic Comi Workshop」や、未来のカフェをLEGOブロックでデザインする「Ba Design Workshop」を、学生時代に取り組んでいました。

こうしたワークショップを手がけるうちに、企業からもワークショップを組み立てて欲しいと話が舞い込むようになりました。

携帯電話の大手キャリアでは「"つながらないケータイ"を考える」というテーマのもと、"つながり"をあえて切ることで生まれる新しい携帯について考えたり、カメラメーカーのワークショップでは新しいデジカメを生み出すために、わざとユーザーのニーズの枠の外側からアイデアを発想することを投げかけたり、と遊びを取り入れたワークショップを行っています。


"良いコラボレーション"を考える5つの問い

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今回のテーマ「良いコラボレーションを促すには?」という問いに対して、安斎さんは、5つの問いを提示しました。

1、何が人と人を"繋ぐ"のか?
2、"良い話の聞き方"とは?
3、"依存"は悪なのか?
4、"沈黙"は悪なのか?
5、"何者"として繋がるのか?


1、何が人と人を"繋ぐ"のか?

「誰かと誰かが"繋がっている"と言ったとき、その人たちの間には何があると思いますか? 単に一度会っただけでは"繋がっている"とは言えないような気もします」と安斎さん。確かに最近「Facebookで繋がっている」と言われても、「本当に知り合いなのかな......」と思いますよね。

安斎さんは、 "繋がり"の一つの指標として、「記憶」が意外に重要であると指摘します。

「ある海外の調査研究によれば、オフィス内の座席が50メートル離れると、そのメンバー同士のコミュニケーションが消滅する、という結果があります。さらに、在籍するフロアが異なると、業務中にはその人のことを思い出さなくなるそうです。コミュニケーションが生まれるには、社内の人間が互いに見える距離にいて、認識しあっているというのが大事なんですね」

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さらには、コラボレーションはなぜ必要なのか? 大人はなぜ協調するのか? という問いに展開させていきながら、コラボレーションの触媒としての課題構造の重要性などについて議論しながら、"繋がる"ことの意味を考えていきました。


2、"良い話の聞き方"とは?

2項目目では「聞き上手とは、共感を示しながら傾聴していればコラボレーションは促進されるのか?」と問いつつも、そうではないのではないか、と問題提起をします。

新しいカフェを考えるワークショップ「Ba Design Workshop」で発生した会話を分析したところ、参加者同士の「ツッコミ」と、課題に対して迷いが生じた「葛藤」の回数が多かったグループほど、参加者全員がアイディア出しに関わっていたそうです。

「他者のアイデアに対して、別の視点からツッコミが入ることによって議論の視点が揺れ動き、アイデアの創発が生まれていたのです。逆にいえば、お互いに牽制しあって、肯定しあうだけのコミュニケーションからは、新しい発想が生まれにくいと言えます」


3、依存は悪なのか?

「強い協同学習には、依存関係が不可欠です」と安斎さん。その昔、アロンソンという社会心理学者が「ジグソーメソッド」という、協同学習を生み出す手法を編み出したそうです。

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この方法は、学ぶべき教材をいくつかの資料に分割し、チームメンバーに役割分担して、異なる資料を担当させるというもの。
試験で良い点数をとるには、自分が担当しなかったパートを学ぶ必要があるため、自然と「教えあい」が発生します。このポジティブな依存関係が、コミュニケーションを促し、自尊感情の向上や、理解の深化を促すことも明らかになっています。

一般的な仕事におけるコラボレーションにも、少なからず依存関係は発生していると安斎さんは指摘します。確かに、仕事でもプライベートでも、自分の得意でない分野を人に頼むことが多いですよね。誰とどういった相互関係を作りたいのか? と考えながら繋がっていくと良いのかもしれませんね。


4、"沈黙"は悪なのか?

コラボレーションの話になるたびに、社交性やコミュニケーション能力が大事だと言われますが、安斎さんは、スーザン・ケイン著の『内向型人間の時代 社会を変える静かな人の力』などの書籍を例に挙げ、必ずしもコラボレーションをする上で、社交性は重要ではないのではないか、といいます。

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「ワークショップでは、グループワーク中に心配になるくらい発言をしない人がたまにいます笑。けれども、そういう参加者の何気ない一言がきっかけに、議論がブレイクスルーすることがあるんです。しゃべり続けている人よりも、もしかすると内向的な参加者を自然にファシリテートする方法を考えたほうが、コラボレーションにはつながるかもしれません」


5、"何者"として繋がるのか?

コラボレーションに入るには、"何者"として関わるのか、という問題がまずあります。これに対しては、下記のテーマが提示されました。

・サードプレイスで繋がる人々
・何者としてつながるのか
・何をもって集団が多様とするのか?


「このようなサードプレイスには、色んな所属や立場の人が来て、繋がろうとしています。それを考えると、所属から解放されているはずのこの場において、どんなアイデンティティで関わりたいのか。企業の人間なのか、趣味を持っている個人なのか、"何者"として関わりたいのか。そういったことを考えながら、交流してみるといいかもしれません」

最後に、講演後の交流会に向けて「コラボレーションにつながる交流会の良い振る舞い・工夫・仕掛けとは?」をテーマにしたダイアログの時間が設けられました。3~4人のグループになり、それぞれが考えたことを話し合います。皆さん今回の目標は見つけられたでしょうか?


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感想

1時間半に渡って繰り広げられた安斎さんのお話は、私自身が悩んできた"コミュニケーションをうまく取るには?" "関わる人の長所を活かしてコラボレーションするには?" "何か新しいことを始めるには?" という視点において、とても興味深いものでした。「依存関係」「沈黙」というネガティブなイメージの単語も、捉え方によっては良いコラボレーションの種になることがわかり、これも一種の「ものの見方を変える」ことなのかな? と思いました。

安斎さんの活動が気になる方は、Facebookページ・ホームページをチェックしてみてください!
Facebookページ → https://www.facebook.com/BaDesignLab/
ホームページ → http://yukianzai.com/


・・書籍紹介・・
b0322-8.png『ワークショップデザイン論-創ることで学ぶ』(共著・慶応義塾大学出版会)








b0322-9.jpg『協創の場のデザイン-ワークショップで企業と地域が変わる』(藝術学舎)








田中さんのグラフィックはこうなりました!
b0322-10.jpg画像をクリックすると拡大します


(松本麻美)

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