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トランプ批判や難民問題、ベルリン映画祭は今年も社会性の高いテーマで魅せる

2017.02.18 河内 秀子

リチャード・ギア主演の「The Dinner(原題)」より © 2016 Tesuco Holdings Ltd

2月9日、第67回ベルリン国際映画祭がスタートしました。

昨年度、金熊賞を受賞した「海が燃えている(日本公開中)」は、次々と難民がたどり着くイタリア最南端の島、ランペドゥーサ島を舞台にした芸術的なドキュメンタリー映画。まさに、この揺れ動く世相を鋭くとらえたメッセージ性の高い作品が数多く上映される、いまこそ注目の映画祭と言えるでしょう。

今年のオープニング映画は「Django(原題)」。主人公は、世界的に有名なロマ出身のギタリスト、ジャンゴ・ラインハルト。ナチスドイツ占領下のフランスで、彼がその出自ゆえに居場所を追われていく様子を描きます。軽快なマヌーシュ・スウィング(ジプシー・スウィング)を伴奏に進む物語のラストに流れるのは、迫害されたロマのためにジャンゴが作曲したレクイエム。荘厳なパイプオルガンの鎮魂歌で、今年の映画祭はその幕を開いたのです。

開幕翌日、「The Dinner(原題)」のワールドプレミア上映を祝うため、オーレン・ムーヴァーマン監督とともにベルリンを訪れたリチャード・ギアは、上映後の記者会見でトランプ政権を痛烈に批判しました。

この映画の舞台は、有名政治家の兄と歴史教師の弟夫妻の高級レストランでの夕食会。実はある問題を話し合うために集まった4人でしたが、食事が進むにつれて各人の不安がふくれあがり...。

政治家を演じたリチャード・ギアは、「アメリカのヘイトクライムの数はトランプ大統領の選挙運動から一気に増加した」と、怒りをあらわにしました。「トランプがやった最もひどいことは、難民とテロリストを混同したこと」とし、「彼は人々の不安をあおっている。この映画のテーマとも共通するが、"不安"は私たちにひどいことをさせてしまうんだ」と、世界の右傾化に警鐘を鳴らしました。ギアはアンゲラ・メルケル首相とも会談し、チベット問題などを語り合ったそうです。

そして、コンペ部門の出品作品で最も注目を集めたのがフィンランドのアキ・カウリスマキ監督の新作。家族を失いシリア北部のアレッポから逃げてきた難民カレッドと、妻と別れ仕事を辞め、新たにレストランを始めたヴィクシュトローム氏の物語「The Other Side of Hope(原題)」は、鳴り止まない大きな拍手で迎えられました。



難民申請を拒否され、強制送還されそうになって逃げ出したカレッド。ヴィクシュトローム氏の店で働けることになり、皆に助けられながら、生き別れの妹を探します。

難民収容所で出会ったイラク人に「スマイルだよ。憂うつな顔した奴はみな強制送還された」とアドバイスを受けるカレッドですが、周りを見渡せば誰一人ニコニコしていません。からっと乾いたユーモアに包まれた、カウリスマキ監督らしい作品です。

この映画を、こんなの現実にはあり得ない、メルヘンだと一蹴するのは簡単でしょう。しかし、カウリスマキ監督は「困っている人がいたら、助けたい」という人間らしさを失ったら人間じゃない、と言います。カレッドだけでなくヴィクシュトローム氏も、誰もが、帰ることができる場所を失う可能性はあると。

一昨年、3万人以上の難民がやってきたフィンランド。人口550万人の国にとっては大変な数であることは確かです。しかし、その難民申請者に対するフィンランドの人たちの過剰な反応は、監督を驚かせ、この映画へとつながったと言います。

「私の映画は世論を動かせるほどの影響力はないけど(笑)まずはフィンランド、ヨーロッパを変えたい。そこから世界を変えたい」とカウリスマキ監督は言います。

笑ったり、ほろっと涙がこぼれたり、お腹が減ったり、気持ちが悪くなったり。そして映画館を後にした後に、心の中に小さなさざ波が立つ。

こんな時代だからこそ、作品を、映画を作りたい。世界中の監督たちの強い思いが感じられた映画祭でした。

駅に貼られた映画祭ポスター  © Hideko Kawachi



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このニュースの地域

ベルリン、ドイツ (ヨーロッパ/ロシア

河内 秀子