NTT DATAThink Daily

  • 地球リポート
  • 地球ニュース
  • 緊急支援
  • 告知板
  • Think Dailyとは

地球ニュース

RSSrss

Art & Design

中銀カプセルタワー でライブストリーミング
保存運動を後押しへ

2017.03.20 関 和音

銀座のとある一角に、ドラム型洗濯機を積み上げたような一風変わったデザインのビルがあるのをご存知ですか?

幾何学的なカプセルの外観は、「ヒトの細胞のようだ」「ドット絵のようだ」と評されることもあれば「鳥の巣箱のよう」と言われることもあります。いずれにしても、建物としては相当不思議な形であることは間違いありません。

上の写真は、カプセルの内部を写したものです。スペースシャトルの船内のような、ミニマルな空間ですが、奥にベッドがあるのがお分かりいただけると思います。この不思議な建物は、「中銀カプセルタワービル」というマンションなのです。

1972年に黒川紀章の設計により、建設された中銀カプセルタワービルは「メタボリズム」を体現する名建築として知られています。

その特徴は、奇抜な構造にあります。

中銀カプセルタワービルは13階建てと11階建ての2棟から構成され、人間が生活できる設備と空間を備えた一つひとつのカプセルが巨大なシャフトに取り付けられています。カプセルは傷んだ箇所から、新しいものに取り替え可能な設計です。

つまり、「古くなった建物は壊して、建て替える」のではなく「古くなったり、社会の変化に対応しきれなくなった部分があったらその箇所だけを取り替える」ことが出来るのです。

●中銀カプセルタワービルはなぜ、取り壊しが議論されるのか?

中銀カプセルタワービルは住環境としては必ずしも快適な場所であるとは言いがたいのが現実です。

ビル全体の設備不具合によりお湯が出ないことをはじめとし、老朽化に依る雨漏りや内装の傷みが激しく、修繕やリノベーションが施されないままとなっているカプセルは人が住める状態ではなくなっていることも少なくありません。古くなったカプセルの取り替えはカプセルの交換費用の高さや工事の難しさを理由に一度も行われていません。

「カプセルを順次交換し、環境変化に適応する」という中銀カプセルタワービルが当初目指した理想は、道半ばで宙に浮いたような状態であると言っても良いでしょう。

廃墟状態の写真...傷んだカプセルの写真。中銀カプセルリノベーションより

老朽化したカプセルを保存する意味があるのかどうか、も議論の的です。1972年時点と現代では建築基準が異なります。中銀カプセルタワービルには、現代の建築基準に見合わない点もあります。その最たる例が、アスベストの使用です。1972年当時はアスベストを使うことは工法として極めて一般的なものでしたが、現代では人体への悪影響が懸念されています。

既存の建築物を対象とする、アスベスト対策には除去工法と封じ込め工法が主なものとして挙げられます。そのどちらにも大規模な修繕工事が必要ですが、未だに実施されてはいません。

「修繕工事をするなら、建物自体を全面的に建て替えたほうが良い」という意見も根強く、保存派と建て替え派で意見が割れ、「修繕」にも「建て替え」にも全面的に舵を切れない状態が続いているのです。
 
●中銀カプセルタワービルの保存を求める声は強い

中銀カプセルタワービルに建築としての高い価値を認め、大規模修繕工事の実施を前提とした上での保存を求める声はカプセルオーナーだけでなく、若いクリエイターからも上がっています。

「取り壊し」ではなく「保存」に方針を定め、大規模修繕工事を実現することは出来ないか。そのために、世論の保存への関心を喚起し、保存に向けた活動費を確保することは出来ないか。積極的な試みが続いています。

改造したゲームボーイ実機を用いた演奏で知られるチップチューン・アーティストのTORIENA(トリエナ)は、カプセルの保存に協力的な立場の一人です。

アーティスト本人が映っているもの...カプセルで撮影されたTORIENAの写真。宇宙船のような背景とマッチしている

TORIENAは3月21日にLINE LIVEを通じた5時間に渡るストリーミング配信を、中銀カプセルタワービルのカプセルから行うことを発表しています。番組はカプセルの保存運動を行う、中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトとのコラボレーションで実施されます。

LINE LIVEでは中銀カプセルタワービルに関するトークの他、カプセルをモチーフとしたコラボイラストの制作、そして初代ゲームボーイ実機による新曲制作を行うとのこと。

番組はMotion Galleryで実施中のクラウドファンディングと連動しており、制作物は支援者へのリターンに活用されます。集めた資金は中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトの活動費に充てられます。

●スクラップ&ビルドではない、新たな都市のあり方を目指す

中銀カプセルタワービルのミニマルな空間、有機的な設計には戦後復興の時代を生きた先人たちの新しい時代への思いが詰め込まれています。

中銀カプセルタワービルが体現する建築運動「メタボリズム」が提唱されたのは第二次世界大戦後、日本で徐々に復興が進み、国全体が高度経済成長に移ろうとする時期でした。メタボリズム思想に基づく建築には「より良いコミュニティを再興し、発展させるために本当に必要な建築とはどのようなものなのか?」「悲劇を繰り返さないために、歴史の記憶を未来に引き継ぐためにはどういう設計が必要か」という問いを読み取ることができます。

建築、引いてはその周辺の街や環境自体を「古くなったら、壊す」のではなく「生き物が環境に適応するように、変化させていく」ことは出来ないか。スクラップ&ビルドを繰り返すのではなく本当に傷んだ部分やどうしても利用できなくなった箇所だけを取り替えたり、適切な修繕を行うことで、歴史を未来に引き継いでいくことは出来ないか。メタボリズムの提唱者たちの問いかけは、40年以上が経過した今も色褪(あ)せることがありません。

若いクリエイターらが訴える、修繕工事を行った上での保存がベストなのか。それとも、建て替えか。中銀カプセルタワービルの未来はどうあるべきか、是非皆さんも一緒に考えてみてください。

Motion Galleryで中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトが実施しているクラウドファンディングには、カプセルの一室でアーティスト本人からリターンを受け取れるプランも用意されています。集合住宅として使用されているカプセルがパブリックに公開されることは非常に少ないため、建物内部を見ることができる機会は貴重です。

リターンを手にしつつ、カプセルの状態をその目で見て都市の未来に思いを寄せるのもおすすめです。

記事中の画像出典元



関連するURL/媒体

Bookmark and Share

Thinkテーマ別に読む

Art & Design

このニュースの地域

東京、日本 (日本

関 和音