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エコ先進国ドイツで農家のオーガニック離れ?

2014.01.23 河内 秀子

ドイツのオーガニック認証の情報スタンド(グリューネ・ヴォッへ会場内で)。認証の明記が義務づけられているEU認証とは異なり、記載は自由だが、六角形にBIOのロゴが目立つこの認証は、いまも人気が高い  photo by Hideko Kawachi

昨年のオーガニック食品の売上高は70億ユーロ(約9900億円、前年比6%増)とヨーロッパでもトップのオーガニック、エコ大国として知られるドイツ。しかし、ここ数年農家のオーガニック離れが問題となっています。

連邦農業省の調べによれば、ビオがドイツで大ブームとなった2003年から2010年にかけて毎年600軒以上の農家がオーガニック農業を辞めていったそう。これは有機農家全体の3.3%に当たり、3分の2は通常農業に戻り、残りの3分の1は離農してしまったと言います。消費者の食の安全やビオへの意識、そしてビオ製品の消費量は年々高まっているというのに、作り手たちは辞めてしまう...。その理由は、どこにあるのでしょうか?

直接、農家の方に意見を聞いてみたいと思い、1月17-26日までベルリンで開催されている世界最大の農産物、造園の見本市「グリューネ・ヴォッへ(国際グリーン週間)」のオーガニック農業のコーナーに足を運んでみました。

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残念なことに、以前は広いホールにあったオーガニックコーナーは縮小され、農家からの出店は少ないように見受けられました


数軒の農家に尋ねてみたところ、やはり価格にまつわる問題が大きいようでした。例えば卵ひとつとっても、原材料や人件費などを計算すると、オーガニックの卵は通常の卵の75%以上高くなるそうですが、実際に店で比較してみるとオーガニックの卵と普通の卵の価格はそれほど変わらず、ほぼ同価格の場合も。実はドイツは多くのディスカウントスーパーの発祥の地でもあり、食品の価格が安価なため家計の食費支出は少なく、食べ物にお金をかけるという考え方が薄い国でもあるのです。食品店にとっては、オーガニックとそうでない食品との価格差をいかにして縮めるかが課題になっています。そこで登場するのが、人件費などが安価な東欧諸国。EU加盟国でもある隣国ポーランドでは、2004年から2010年にかけてオーガニック農地がなんと531%も増加しているそう(ドイツでは29%の増加)。ドイツのオーガニック食品で最も売れているニンジンとリンゴの2種で言えば、実に2個に1個が外国産です。

オーガニック農家の生命線となっているのが、政府からの補助金です。「でも、私たちは政府の補助はあてにしていません」と言うのは北ドイツ、フリースラント地方で羊のチーズ工房を営むフォルクアドセンさん夫妻。EUの有機認証よりも、詳細で厳しいBioland認証を受けるこの農家では、130頭の羊を育てその乳からチーズを作り、直売と地域の店での販売のみで生計を立てています。「小規模でもオーガニック農業が成り立つという成功例を見せたい」と考える彼らは、政府からの補助金を受けず、飼料も自分たちで作り、また直に消費者に販売することでコストを下げ、かつ自分たちで価格が決められるという理想的な形を実現しています。北海に近いこの地には塩気を含んだ草が多く、肉質や乳も格別美味しくなると言われ、そのチーズの味は高い評価を受けています。またリゾート地としても有名なので、夏場には観光客も多く、この農家に興味を持ちガイドツアーに参加する人や宿泊客も多いそう。

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フォルクアドセンさん。グリューネ・ヴォッヘの会場で娘さんと


「いま多くの州で農家への補助金が減らされ、バイオガスへの補助金が増やされています。そのため、多くのオーガニック農家がエネルギー作物であるトウモロコシに転作し、人が食べるものを作る農家も減っています。通常農業にしても、最初に多額の資金が必要ですが、銀行は特定の作物をつくる場合にしかお金を貸してくれないのです。私たちは自分たちで決めたかった」

一方、フォルクアドセンさん夫妻のように直売やリゾートに適した立地にはないオーガニック農家も多く、数少ない成功例であることも事実だと思います。

エコ、オーガニックの原点には、食材の地産地消もあるはず。もちろん消費者としては、安価なオーガニック製品が選び放題という状況はうれしいのですが、価格は多少高くても地元のものを買える店があってほしいと思うのです。ドイツのオーガニックブームは、ブームを越え、いま大きな転機を迎えているようです。



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河内 秀子