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Food

遺伝子作物にNo!  アメリカとの貿易交渉がEUにもたらす懸念

2015.02.09 河内 秀子

「遺伝子組み換えフリーの地区、ベルリン、シュパンダウ」というスローガンを掲げたトラクターは、ビオラント農家のもの。後ろに見えるのは連邦議会議事堂

1月17日、ベルリンで今年も世界最大の農産物、造園の見本市「グリューネ・ヴォッへ」が開かれました。ソーセージなどの特産品、パンやビールがずらりと並んだにぎやかなメッセの開幕に時を合わせ、「もう、お腹いっぱい! (Wir haben es satt!)」というスローガンのもと、90台の農業用トラクターと5万人が首相官邸前に集結し、デモを繰り広げました。

「お腹いっぱい」、といっても楽しい話ではありません。TTIP(EUと米国が進める環大西洋貿易投資パートナーシップ)とCETA(EUとカナダ間の自由貿易協定)への異議申し立てを中心に、農業の産業化に反対するデモなのです。

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工場式畜産、遺伝子組み換え技術に反対!と5万人が集結。その多くが「デメター」「ビオラント」といった有機栽培の農業や、「スローフード」などの地産地消を支持する人たちだ


なぜドイツの人たちは、農家の人たちはTTIPやCETAに反対しているのでしょうか? まず、その大きな理由の1つが、遺伝子組み換え作物の問題です。

例えば、映画『モンサントの不自然な食べもの』で一躍知れ渡ったモンサント社の遺伝子組み換えトウモロコシ。EUでは、今まで唯一このモンサント社の「MON810」の栽培だけが認可されていますが、それに対してアメリカでは96種類の遺伝子組み換え作物の栽培が許されており、8割以上の大豆やトウモロコシが遺伝子組み換えを施され、安価な家畜のエサとなっています。

「では、遺伝子組み換え作物が入っていない食物を選んで買えばいいのでは?」と思いますが、実は、購入時の大切な判断材料となる、食品表示も非常に不透明。

今年1月、ドイツの連邦食糧・農業省大臣のクリスティアン・シュミット氏はアメリカの農務長官トム・ヴィルサック氏との会見の一部を公表しましたが、その中で「遺伝子組み換えマーク」をバーコードもしくはQRコード化するという提案があったとしています。つまり、ドイツの農業省大臣も、アメリカの農務長官も、「『遺伝子組み換え作物を使っています』と明記をしたら、消費者は買わないだろう」と、はっきり理解しているということです。

直接そのトウモロコシを食べなくても加工品として、また牛や豚、鶏などのエサとして与えられてしまえば消費者はその情報を得ることが難しくなってしまいます。忙しい日常の買い物の際、全ての食品のコードをスマートフォンでチェックしてから購入するなんてことは不可能。つまり、知らないうちに多くの遺伝子組み換え食品を口にする可能性が高い、という危険性が指摘されています。

また、現在EUでは肉や乳製品には成長ホルモンは使われていませんが、アメリカでは実に牛肉の9割に成長ホルモンが使われており、抗生物質の大量使用による耐性を持つバクテリアや耐性遺伝子も問題視されています。

しかも、安価な食材がどっと入ってくれば価格競争が起こり、特に小規模な農家や有機栽培農家は苦戦を強いられることになるのは明白。

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「TTIP=消費者保護、さようなら!」 農業経済に使われている成長ホルモンの割合。EUは肉と乳製品どちらも0%。アメリカでは、牛肉の9割に、また牛乳の2割がホルモンによる生産であると警告する 図表提供: BUND


日本のTPP(環太平洋経済連携協定)は全く同じではありませんが、類似の問題も懸念されています。その土地の豊かな食文化、その地方の特産品や在来種の野菜などを守るために。そしてできるかぎりわかりやすい表記で、消費者が選択肢を持てるように。美味しくて安全な食材を、作れるように、そして手に入られるように。

ドイツの消費者や農業に携わる人たちは、声を上げています。

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このデモで特徴的だったのは、学生など若い人たちの参加が多かったこと。自分たちの将来、未来を考えてのことだろう。トウモロコシやイチゴなどの着ぐるみに身を包んだ人も


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このニュースの地域

ドイツ (ヨーロッパ/ロシア

河内 秀子