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2020.11.11 | 岩井 光子

気候変動対策の決定プロセスに声をあげよう! 欧州で動き出した「市民会議」とは

バーミンガムのヴィクトリア広場で気候危機を訴えるエクスティンクション・レベリオン ©︎Vladimir Morozov XR UK

2018年後半からフランス全土に大きく広がった「黄色いベスト運動」。メディアでも繰り返し報道されたこの抗議デモは、抗議者が運転時に携帯を義務付けられている黄色いベストを着用したことから、そう呼ばれました。引き金となったのは、マクロン政権が気候変動対策として打ち出した燃料税の引き上げ。苦しい生活をさらに圧迫する増税に低所得者層の我慢は限界に達し、一部は暴徒化。毎週土曜に行われたデモも収まる気配を見せなかったことから、マクロン大統領は国民に和解を呼びかけ、燃料税引き上げを撤回しました。

抗議者は黄色い安全ベストを身につけてデモに参加。一部で警察・治安部隊との衝突も起きた Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by Christophe LEUNG

同時期にイギリス・ロンドンでも早急な気候変動対策を求める市民運動「エクスティンクション・レベリオン」が起こりました。エクスティンクション・レベリオンは2018年5月、科学者94人から支持表明の署名を集めて設立された国際環境保護団体で、イギリスの抗議活動は同年10月にスタートしました。

エクスティンクション・レベリオンの1周年イベントで。奇抜な赤い装束に身を包んで人目を引く抗議者 ©︎Mark Richards XR UK

ロンドン中心部の主要道路を占拠して交通機能をまひさせたり、血に見立てた赤い液体を噴射するパフォーマンスを行ったり、化石燃料会社に資金提供する会社前で札束のディナー会を催したり、やり方は少々奇抜ですが、彼らの要求事項は明快です。まず、一つ目は、政府が気候危機の真実(地球が危機に瀕していること)をきちんと語ること、二つ目は政府が2025年までのCO2排出ゼロを目標に据えること、そして最後の三つ目は、気候変動対策を議論する市民会議を設けること、です。“絶滅への反逆”というその名の通り、彼らの主眼は気候変動対策を不十分なままやり過ごそうとしている政府への反発。できるだけインパクトのある非暴力の抗議活動を行って注目を集めようとしているわけです。

日本人からはやや過激に見えるこうした抗議活動ですが、注目したいのは混乱や分断も招いた一方、両国では共に気候変動政策の立案に民意を取り入れる市民会議(citizens’ assembly)が発足し、“対話”が始まったことです。くじで無作為に抽出した市民を実際の人口構成に沿うように集め、フランスでは150人が昨年10月から9カ月間、イギリスでも同じように選ばれた108人が今年1月から5カ月間に渡って議論を深めました。メンバーは、専門家の見解もひと通り聞いた上で交通・輸送、住環境、エネルギー、食、ごみ、農業、教育などあらゆる分野の脱炭素政策を熟議。フランスで提出された提言書は460ページにも上り、政府は149の提言のうち146を採択。マクロン大統領は提言を法制化すべく、即座にワーキンググループを設置しました。憲法第1条に「共和国が生物多様性、環境の保全と気候変動との闘いを保証する」と追記することについては、国民投票に向けて議会で議論を進めるとしています。イギリスでも最終報告書が9月、ジョンソン首相宛てに提出されました。

6月、市民会議のメンバー150人と話をするマクロン大統領。提言の内容によっては様々な壁も立ちはだかるが、対話は続く ©︎Katrin Bauman

日本も先日、菅首相がようやく2050年のゼロエミッション(CO2排出実質ゼロ)を目指すと表明しましたが、実現に向けた政策検討はどのように行われていくのでしょうか。日本でも自治体レベルでは、北海道の札幌市で11・12月に計4回、気候市民会議が初開催されるという報道がありました。北海道大学や国立環境研究所などの研究者グループが実行委となって主催、市の協力のもと住民基本台帳から無作為に抽出した3千人に案内を発送し、選ばれた20人が実験的にオンライン上で話し合いを試みます。

ちなみに、無作為に市民を抽出する仕組みは、COPなど国際交渉の場に世界市民の声を届けようと始まった世界市民会議(WWV)の選抜方法にも非常に似ていて、今回の実行委にも日本で行われた同会議の中心メンバーが参加しています。特に脱炭素社会実現に向けてカギとなるエネルギー政策などは、日本でもこうした市民会議などを通して広く民意を吸い上げる仕組みができて欲しいと思うのです。

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岩井 光子
岩井 光子(いわい みつこ) ライター

地元の美術館・新聞社を経てフリーランスに。東京都国際交流委員会のニュースレター「れすぱす」、果樹農家が発行する小冊子「里見通信」、ルミネの環境活動chorokoの活動レポート、フリーペーパー「ecoshare」などの企画・執筆に携わる。Think the Earthの地球ニュースには、編集担当として2007年より参加。著書に『未来をはこぶオーケストラ』(汐文社刊)。 地球ニュースは、私にとってベースキャンプのような場所です。食、農業、福祉、教育、デザイン、テクノロジー、地域再生―、さまざまな分野で、地球視野で行動する人たちの好奇心くすぐる話題を、わかりやすく、柔らかい筆致を心がけてお伝えしていきたいと思っています!

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