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中古の着物をモダンによみがえらせたデザイナーが語る 着物のサステナブルな魅力
服の大量廃棄が社会問題になっていますが、ごみが出るのは服の使用後ばかりとは限りません。例えば、布を裁断する際に残反や残布がたくさん出ます。その割合はシドニー工科大の調査によれば、元の布地のおよそ15%に達するとみられています。
昨年から都心の百貨店を巡回しているヴィンテージ着物のアップサイクルコレクションは、日本の着物がいかに裁断を最小限に抑え、残反や残布を出さないようデザインされた服であるかを教えてくれます。
ニューヨークで現代美術専門のキュレーターとしてキャリアを積んだ韓国人デザイナー、ドゥニ・パクさんは2011年、自身のファッションブランド「ギャラリー・シリ」を東京で立ち上げました。ニューヨークでも評価の高かったアジアの伝統工芸に現代的なテイストを加えた美しい服や小物を発表しています。
着物のリサイクル服はたくさんありますが、パクさんのデザインはとりわけ躍動感があり、現代女性のライフスタイルに合うよう、しなやかにアップデートされていて、目を引きます。
もともとパクさんが古着の着物を手に取ったのは、産地によってさまざまな発展を遂げた着物の織の技術や美しさに魅せられたからでしたが、再利用しようと糸をほどいてみて、改めてその機能的なデザインに驚かされたそうです。
通常、服を仕立てる際には裁断という工程があります。布に型紙を当ててカットするので、どうしても端切れが出ます。ところが、着物は長さ12mほどの一反の布を身ごろ、袖、襟など8つの大小の長方形にわけて縫い合わせただけの無駄のないシンプルなつくり。パクさんは、世界のサステナブル・ファッションが目指すゼロ・ウェイストのデザインが、着物にはあらかじめ内包されていることに気づきます。
「糸をほどいて縫い合わせると、何事もなかったように元の反物に戻るんです。まるでまっさらな一枚のキャンバスを与えられたような感じ。着物のデザインの本質はサステナビリティにあると確信しました」、パクさんはそう話します。
着物は子の世代、孫の世代へと受け継ぎながら大切に着続け、着られなくなっても座布団などの小物にアレンジしたり、長く、無駄なく使い切ることが昔ながらの知恵でした。パクさんも一反の布からジャケット一着、大小のスカーフ数枚を作り、さらに残りの布でマスクや草履サンダルの鼻緒を作ったり、ゼロ・ウェイストのものづくりを楽しんでいます。
「百貨店のポップアップにいらしたお客さんは、たんすに長らくしまい込んでいた着物を捨ててしまったことを後悔している方が多かったです。着物は家族の大事な思い出が詰まったものだとわかっていても、着慣れないので有効活用することが難しいんですね。こんなふうにきれいな服に再生させる方法を知っていれば捨てなかったのに、とおっしゃる方もいました」
着物は直しながら着ることを、ごく自然に感じるように作られているし、美しく、生地の耐久性もある。古着だから安く売るという経済的解決策に走らず、再利用というエシカルな選択をしてほしい、そんなパクさんの思いが、親しみときりりとした空気を同時に感じさせるデザインの中に表現されているように感じました。
地元の美術館・新聞社を経てフリーランスに。東京都国際交流委員会のニュースレター「れすぱす」、果樹農家が発行する小冊子「里見通信」、ルミネの環境活動chorokoの活動レポート、フリーペーパー「ecoshare」などの企画・執筆に携わる。Think the Earthの地球ニュースには、編集担当として2007年より参加。著書に『未来をはこぶオーケストラ』(汐文社刊)。 地球ニュースは、私にとってベースキャンプのような場所です。食、農業、福祉、教育、デザイン、テクノロジー、地域再生―、さまざまな分野で、地球視野で行動する人たちの好奇心くすぐる話題を、わかりやすく、柔らかい筆致を心がけてお伝えしていきたいと思っています!