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2023.10.03 | 岩井 光子

親でも教師でもない「バディ」という存在 オランダの活動を参考に子どもと大人をマッチング

少子化や核家族化により、周囲の人と交流する機会の少ない親子が増えています。子育て中に孤立感を感じたことがある母親は、ミキハウス総研の2022年の調査によれば、63.8%。かつては子育てに家族や地域の多くの人が関わっていましたが、今は子育ての個別化が進んでいます。アニメの「サザエさん」に登場するような大家族や地域はむしろ珍しくなりました。

血縁者の子育て支援が十分に得られない現代の親子を、非血縁者がサポートするマッチングプログラムを東京、群馬、千葉の市原市の3カ所で展開しているのが、一般社団法人「We are Buddies」です。 “バディ”の言葉に象徴されるように、子どもと大人が互いの属性にとらわれない対等な関係の相棒、仲間、友人となって1カ月に2回、一緒の時間を過ごすユニークなプログラムです。

代表の加藤愛梨さんは30代。出産や子育て経験はありませんが、拡張家族をテーマにした渋谷のシェアハウス「Cift」で暮らしていた時、入居してきた6歳の男の子と仲良くなったことが活動を立ち上げるきっかけになったそうです。「その子は探究心が強く、とにかく物知りでした。それまで子どもに苦手意識もあったのですが、彼は一緒に遊んでほしいという感じの子ではなく、自然と対等な関係性で仲良くなることができ、私にとっても新鮮な驚きでした」。加藤さんは「子ども」「大人」の双方が、属性や年齢にとらわれないフラットな関係性を築く機会がもっと増えたらいいのに、と感じたそうです。

「彼はシェアハウスに住んでいる時は特に大きな悩みがあるようには見えませんでしたが、今後何か困ったことがあったら気軽に相談してもらいたいし、保護者にとっても成長を一緒に見守ってくれる人がいるのは悪いことではないと思うんです。こういう関係性ってすごくいいなぁと」

高校時代をオランダで過ごした加藤さんはその後、オランダ在住の友人から偶然現地のNPOヴィタリスが提供しているバディ・プログラムの話を聞きます。ちょうど加藤さんが体験したように、血のつながらない大人と子どもでペアを作り、月に何度か遊んだり、話したりしながら、子どもが家族以外の大人と信頼関係を築くことを目的に活動していると聞き、加藤さんはすぐに活動の詳細に興味を持ちました。ヴィタリスは大人の登録ボランティアを募りながらハーグやライデンを中心に年間数百組の“バディ”を育成し、40年以上も前から地域のセーフティネット機能強化に貢献していることを知った加藤さんは「この活動を日本でもやってみよう」と2020年、「We are Buddies」を立ち上げたのです。


運営方法はヴィタリスを参考にしたところも多いが、日本流にアレンジしたところも。東京と群馬のプログラムはWe are Buddiesが主催。市原市のプログラムは地元の企業と連携しながら行っている

これまでにつないだバディは70組ほど。活動資金は寄付や企業協賛によってまかなわれているので、参加費は無料です。子どもの送り迎えは大人バディが担当。二人に支給される予算は1回500円。公園、博物館、動物園、カフェなど場所は二人で相談して決めます。密室でない公共の場であればどこでも構いません。早朝から公園でキャッチボールをしたり、ひたすら走り回ったり、大人バディのバイト先のお店に遊びに行ったり、おしゃべりをしたり−−。それぞれが思い思いの時間を過ごします。

対象となる子どもは主に「心の孤立のリスクのある」5歳から18歳の子どもで、例えば、学校に行かない選択をしている子、特別なケアが必要な子どものきょうだい、親子関係に課題のある子、子ども同士だと友だちを作りにくいけれど、大人と一対一なら友だちになれる子など様々です。保護者や周囲からの参加希望を受け、運営メンバーが保護者と面談をした後に大人バディとマッチングしていきます。

大人バディ候補との面接プロセスは丁寧に行っていて、既に運営に参加しているメンバーや大人バディの紹介に限っているそうです。その上で子どもバディに少なくとも1年以上はコミットする強い気持ちも確認しながら面談を重ねていきます。参加意思がかたまったら、認定NPO法人「PIECES」がWe are Buddies向けにアレンジした研修も受けてもらいます。PIECESは、子どもが孤立しない社会を作るための活動を長年続けている団体で、代表は児童精神科医の先生です。「素敵な大人バディばかりなので、安心した気持ちで参加してほしい」と加藤さんは言います。

大人バディの年代は20、30代が中心で、子育て経験はない人が大半。「活動のコンセプトに共感して参加してくれる人が多い」と加藤さん。「子どもの新鮮な眼差しに同世代の友人とは違うインスピレーションをもらえた」と話す参加者も

最近、海外でも「エイジ・ギャップ・フレンドシップ」をテーマにした活動をよく見かけます。メディアはミレニアル世代、Z世代などと、とかく子どもたちを世代に分類したりして、特徴を際立たせようとします。しかし、一人ひとりはもっと多様なはずです。「そのままでいい」と、自分の存在を肯定してくれる大人バディの存在は、子どもにとって将来足を踏み入れる社会への信頼にもつながります。

「子どもはこの人だったら何でも受け止めてくれるだろう、否定しないだろう。そういう安心感があって初めて人を頼るのかなぁという気がします」、加藤さんはそう言います。「実は私も女の子のバディがいます。今では会う頻度は減りましたが、たまに近況報告してもらったり、進路相談にのったり。私一体何ポジションなんだろう(笑)と思うこともありますが、横に並んで一緒に人生を歩いているような、そんな間柄ですね」

他人との関わりは子どもの健やかな成長に欠かせません。親や先生などの肩書は何もない第三者の大人が、何気ない会話ややりとりの中でふと世界の広さや別の視点を示してくれることがあると思います。今の子どもたちはそんな風穴を求めているのかもしれません。地域の非血縁者同士の人間関係を一つひとつ結んでいくWe are Buddiesの活動は、属性によってくくられる社会の生きづらさを丁寧にほぐし、つながりが希薄になった地域を編み直しているように感じます。

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岩井 光子
岩井 光子(いわい みつこ) ライター

地元の美術館・新聞社を経てフリーランスに。東京都国際交流委員会のニュースレター「れすぱす」、果樹農家が発行する小冊子「里見通信」、ルミネの環境活動chorokoの活動レポート、フリーペーパー「ecoshare」などの企画・執筆に携わる。Think the Earthの地球ニュースには、編集担当として2007年より参加。著書に『未来をはこぶオーケストラ』(汐文社刊)。 地球ニュースは、私にとってベースキャンプのような場所です。食、農業、福祉、教育、デザイン、テクノロジー、地域再生―、さまざまな分野で、地球視野で行動する人たちの好奇心くすぐる話題を、わかりやすく、柔らかい筆致を心がけてお伝えしていきたいと思っています!

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