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スキー場はサステナビリティで選ぶ時代に
世界がネットゼロ(温室効果ガスの排出ゼロ)をめざすなか、スキー場にも「脱炭素」や「サステナブル化」を取り入れようという動きが登場しています。一般社団法人Protect Our Winters JapanではSUSTAINABLE RESORT ALLIANCEというプラットフォームを運営し、「脱炭素化」や「サステナブル化」を目指すスキー場のネットワーク、および、その実現をサポートしています。このプロジェクトは、遊び場である「スキー場」と遊び手である「スキーヤー・スノーボーダーたち」がともに手を取り合い、グリーン(=脱炭素化・サステナブル化に取り組む)なスキー場を実現することを目指しています。
2022年にPOW JAPANが「スキーヤー・スノーボーダー」を対象とした気候変動意識調査では、90%以上が気候変動対策を含むサステナブルな取り組みを実践するスキー場を支持しているという結果になりました。
また、気象庁による気候変動の予測シナリオでは、約半世紀後の積雪量が半減する可能性があるとされています。
リゾートアライアンスでは各スキー場が抱える多種多様な課題に寄り添い、スキー場が脱炭素・サステナブル化に包括的に取り組むためのサポートを行っています。一例として、2019年からPOW JAPANとパートナーシップを結ぶエイブル白馬五竜スキー場では、2020年には再生可能エネルギー100%のナイター営業を運営開始しました。そして、2023年にはオールシーズンで運営施設全体の電力を100%再生可能エネルギーへと切り替えています。
POW JAPAN代表理事の小松吾郎氏は17歳からプロスノーボーダーとして活躍してきましたが、2000年ごろ、ネイティブ・アメリカンの友人から、スキー場は山の環境を破壊していると伝えられ、ショックを受けました。それ以来、「自然を守るスノーボーダーになる」と心のうちで決意し、地道に活動を積み重ねてきました。2019年、その活動がPOWのグローバルな活動と接続したことに後押しされ、アクテビティスポーツの中から飛び出し、活動を広げています。
小松氏によると、欧米においては、スキー場を選ぶ際にサステナビリティは重要な基準になっているそうです。日本においても、冬季に海外からスノーリゾートで働くことを希望する外国人にとっては、働く先を選ぶ際の重要な選択基準となっているようで、今後も増加が見込まれるインバウンドの顧客にも浸透していく可能性があります。
また、POW JAPANでは、2019年から継続的に雪を学びの素材にしたサステナビリティを学ぶプログラムも実施しています。これまで、長野県を中心に学校への出張授業を10校以上で実施してきました。スキー場を訪れる修学旅行生に対しても、現場だからこそできる山の自然資源と雪を活かした学びを提供したいと準備しています。
取材当日(2月)、雨が降る中、小松さんにスキー場を案内していただきました。ゴンドラに乗り山頂近くまで登った際に、雲の上に、虹がかかっていました(その日は、群馬県館林市では最高気温が25度を記録)。この風景が珍しくなくなる世界にならないよう、次の世代にも、日本の豊かな雪資源が残していけるよう、わたしたちにできることはなんだろうかと、身体全体で考えさせられる象徴的な景色でした。
大学時代に掌で花開く雪を見て「どうしたら祖先に雪を残すことができるだろうか」という問いを持って、いまだに考え続けている。北海道大学農学部卒、2010年「世界を変えるデザイン展」を企画開催。2015年より予備校にて探究型プログラムを開発。「進路選択ツールキット(高校生向け)」で2022年グッドデザイン賞、『もし「未来」という教科があったなら』(学事出版、編著)を出版。2023年より(株)日本総合研究所創発戦略センターに所属。2024年北陸先端科学技術大学院大学博士前期課程修了。「総合的な探究の時間」に取り組む教員を対象としたエスノグラフィを行なった。