contents
雪と氷の不思議な世界が体験できる「中谷宇吉郎 雪の科学館」の魅力
世界ではじめて人工の雪の結晶を作り、「雪は天から送られた手紙である」という言葉を残し、自然と文学の双方に卓越した中谷宇吉郎博士。そのふるさとは温泉地で有名な石川県加賀市です。
この3月に北陸新幹線が金沢から敦賀まで延伸され、新たに設置された加賀温泉駅は金沢駅からわずか18分。そこから少し離れた柴山潟のほとりに中谷宇吉郎 雪の科学館があります。
中谷博士は、「天災は忘れた頃にやってくる」と警句を残した科学者で随筆家の寺田寅彦氏を師と仰いでいました。
さて、「雪は天から送られた手紙である」という言葉は聞いたことがあっても、その「手紙」にはどんなメッセージがしたためられているのでしょうか?
実は、雪の結晶には多様な形があります。現在は、「雪結晶・氷晶・固体降水のグローバル分類」では、大分類8種類、中分類39種類、小分類121種類に分けられます。雪の結晶は気温や湿度など空の状態に大きく影響され、形が形成されます。だから、降ってきた雪の結晶の形を見ることで、その結晶が成長した上空の状態が推定することができ,気象状況がわかります。これが「天からの手紙」のメッセージです。
そして、雪の科学館には、雪や氷のふしぎを知ることができる「雪と氷の実験コーナー」があり、雪の手紙の解読に関連した実験を体験することができます。学芸員さんや館内スタッフの手ほどきを受けながら行う雪や氷に関する繊細な実験は、わかっていたようでわかっていなかった雪の奥深い世界への導入口になります。
寒冷地方の厳冬期だけで見ることができるダイヤモンドダストは、氷点下になっても氷にならない不安定な状態の水滴が何らかの刺激で凍った氷に光を当てることで再現されます。
タケノコが育つように上に向かって伸びる氷の柱である氷筍。短時間で再現してくれますが、どうしてこうなるのでしょうか。科学的な観点からわかりやすく解説員の方が説明してくれます。
そして、氷でできた透明のペンダントも実験で作ることができます。持ち帰ることはできないのが残念なくらい美しいです。
紹介した実験以外にも、これでもかというほどに雪と氷の世界にあらゆる角度から触れることができます。
そして、科学館の展示スペースの奥から見える中庭では、人工の霧が噴き出るアート作品があり、霧に包まれる体験ができます。
さらに中庭の奥に歩を進めると、柴山潟の広々とした景観を望むことができます。喫茶店「雪の華」やミュージアムショップでは雪にこだわったメニューや物品・書籍がならんでいます。雪、氷、霧、湖、水の変化した姿を五感でコンパクトに楽しむことができます。
雪という天から降ってくる白い物体を初めて見たとき、子どもたちは、そして大人も小さい頃は、なんだろうと思い、触って喜び、遊びまわったはずです。雪の科学館は自然の中にある不思議に改めて目を向けるきっかけをくれます。五感を揺り動かす空間に足を運んで、不思議を感じるSense of Wonderを回復させてみてはいかがでしょうか。
また、4月1日から5月31日まで、オンライン企画で「おしえて館長!『雪と氷のQ&A』」が開催されています。雪や氷の素朴な疑問から最新の自然科学の話題まで、館長に質問を投げかけてみるのはどうでしょうか。
大学時代に掌で花開く雪を見て「どうしたら祖先に雪を残すことができるだろうか」という問いを持って、いまだに考え続けている。北海道大学農学部卒、2010年「世界を変えるデザイン展」を企画開催。2015年より予備校にて探究型プログラムを開発。「進路選択ツールキット(高校生向け)」で2022年グッドデザイン賞、『もし「未来」という教科があったなら』(学事出版、編著)を出版。2023年より(株)日本総合研究所創発戦略センターに所属。2024年北陸先端科学技術大学院大学博士前期課程修了。「総合的な探究の時間」に取り組む教員を対象としたエスノグラフィを行なった。