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考える、それは力になる

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2020.05.01 | SDGs for School スタッフブログ

コロナ後の世界を考えるための切り口

上田 壮一
上田 壮一 理事/プロデューサー

 はじめに、コロナウイルスの感染拡大のため大変な思いをされている医療従事者や生活インフラを支えている現場のみなさまに心より感謝します。また(僕も例外ではありませんが)コロナにおびえるだけでなく、生活が激変したり、経営が厳しくなって将来に不安を抱えている方もたくさんいらっしゃると思います。この日常を乗り越えていかねばなりませんが、同時にいま、コロナ感染が収束した後に、どのような世界を構築していけば良いのか、という問いが突きつけられているとも感じます。

 今回のパンデミックから何かを学び、元の世界に後退するよりも、もっと賢く、より良い世界に向けて前進するためにどんな視点で考えて行けば良いのだろう、と僕自身もつらつらと考え始めています。

 「SDGs」が採択された文書のタイトルは「Transforming our world=私たちの世界を変革する」です。奇しくもコロナ感染が拡大したことで、世界はtransformを余儀なくされています。(現時点でさえ)20万人以上の人が亡くなるという、まるで戦争のような不幸なできごとから、せめて、より良い世界にtransformするための知恵を紡いでいかないといけないとも思います。

 以下にあげたカテゴリーとリンクは、あふれる情報の中から「コロナ後の世界を少しでも前向きに考えていくための、いくつかの切り口」を順不同で紹介するものです。あくまで僕個人が、メディアやSNSなどで日常的に触れた情報から、色んな方たちとの対話からヒントを得たりするなかで直感的に切り取ったものです。レベルもあわせていないし、抜け漏れもたくさんあります。切り口を示すことが目的なので、網羅的に情報を紹介することは考えていません。ひとつの切り口に対して、ヒントとなるようなリンクをいくつか張ってあります。みなさんが、これからの世界について考えるきっかけとして使ってもらえたら嬉しいです。この投稿は時々アップデートしていく予定です。(他にもこんな切り口あるよー、とかあったら教えてください)

P.S. SDGs for Schoolに参加している生徒さんへ。これ、やってみてわかったのですが、頭の整理にとても役立つので、ぜひ皆さんなりにもやってみると良いかも。

P.S. 新型コロナウイルスに関する緊急支援情報をまとめました。寄付などの参考にしてください。

P.S. 2020年8月に朝日新聞主催の座談会国谷裕子さんと考える コロナ禍でSDGsは大丈夫?(リンク先は有料記事)に登壇しました。このなかでILO事務局長のガイ・ライダー氏が「ニューノーマル」ではなく「ベターノーマル」という言葉を使っていてとても共感しました。SDGsはベターノーマルを目指すための道しるべだと考えるとしっくりきます。

温室効果ガス排出量が低下

※経済活動と人々の移動が減ったことで温室効果ガスの排出量が激減しています。以前と全く同じ規模で経済活動を再開するとどうなるかは自明です。気候危機も(コロナ危機以上に)人の命を奪う、世界の大きな問題です。このことをどう考えるかは、これからの私たちに課された大きなテーマです。ウイルスによる経済停滞からの回復を、気候変動対策とともに進める「グリーン・リカバリー」が一つのキーワードになるでしょう。
新型コロナウイルスの影響で、温室効果ガスの排出量が世界的に激減している
コロナウイルスと地球温暖化
コロナ、脱炭素の契機に 経済マヒで温暖化ガス急減
コロナ後に目指す「グリーンリカバリー」

「助け合い」をキーワードとした地域の活動

※「think」に投稿されたドイツの記事がたくさんの方にシェアされました。人との距離は保ちつつも、助け合いの精神をどのように育んでいけるか、そこを忘れない人間の輝きのようなものを感じました。Social Distanceではなく、Physical Distance and Social Solidarity(物理的な距離を保とう、でも社会的には連帯しよう)という言葉にも勇気をもらいました。
コロナ危機の今こそ人との結びつきを ドイツから広まる助け合いの輪
「#stayhome」できないホームレスに支援を ドイツ
Physical Distance and Social Solidarity(英語記事)

#stayhomeを楽しむ

※人はどんな状況に置かれても楽しみを見つけることができる種なんだなぁとあらためて感動する事例が相次いでいます。
世界に広がる自宅隔離に楽しみを イタリア三つ星シェフが料理動画をインスタ配信
新型コロナウイルスに負けないために国内外の素敵な取り組みを知ろう!(枝廣淳子さんのまとめ記事)
「うちで踊ろう」を在宅演奏で 大阪桐蔭の部員140人

医療関係者やインフラを支える人への感謝行動

※命の危険がある現場でがんばっている人への感謝のアクションが拡がっています。一方で、医師や感染者へのいじめや差別もなくなりません。自分の未来と他者への想像力や共感力の欠如としか言いようがありませんが、この想像力と共感力こそ人間が大事にしていかなければならない能力でしょう。
医療従事者らに感謝、拍手やライトアップ 日本でも
「ゴミ収集の皆様へ」袋に感謝の手紙 作業員の心に届く

新しいリーダーシップスタイル

※以下の記事がとても印象的でした。記事では女性リーダーに焦点が当てられていますが、男女の差というよりも、科学に対する態度が健全で、経済をないがしろにすることなく、それでも「経済よりも命」に焦点をあてたリーダーシップが功を奏しているという気がします。日本の若い世代の男性知事たちの采配にも共通することがあるように思います。
コロナ対策に成功した国々、共通点は女性リーダーの存在

科学リテラシーを高める必要性

※感染拡大を適切に想像するには、学校で習った「指数関数」の概念を理解する必要がありました。科学的知識や科学的思考の大切さをこれほど感じたことはありません。次項のメディアリテラシーとも関係しますが、専門的な知識を持つ科学者や医師からの情報発信も重要ですし、正しい知識かどうかを見極める力(誰を信頼するか?の見極め)も必要です。
コロナウイルスの流行で科学リテラシーの必要性が露呈
倍になるのはいつか
指数関数的に拡散する新型コロナウイルスの対策として、「カーヴの平坦化」こそ重要である数学的な根拠
山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信
「対策ゼロなら40万人死亡」 厚労省クラスター対策班
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の見解等(新型コロナウイルス感染症)

メディアリテラシーの大切さ

※インフォデミックという言葉を耳にするようになりました。近所のコンビニにはいまもトイレットペーパーがありません。いったんデマが拡散すると正常に戻るのに大変な時間がかかることを実感します。科学リテラシーもメディアリテラシーも、一斉には向上しません。せめて次世代だけでも、と思うと、教育が担う役割は大きいです。
新型コロナでデマ拡散「インフォデミック」に踊らされない“リテラシー”とは
ファクトチェック・イニシアティブ「新型コロナウイルス特設サイト」

データ活用と可視化

※統計データは空間的にも時間的にも俯瞰的な視点を与えてくれます。コロナ感染に関しては、感染拡大の状況をワールドワイドで、あるいはローカルな単位で、できるかぎりリアルタイムに可視化して伝えてくれるサイトがとても役に立っています。
ジョンズホプキンス大学 コロナウイルスリソースセンター
都内の最新感染動向(東京都)
新型コロナウイルス 国内感染の状況(東洋経済オンライン)

クリエイターたちの取り組み

※情報の適切な編集や可視化、あるいは動画での発信に多くのクリエイターが貢献しています。国連がクリエイティブな産業に従事している人たちへ呼びかけたこともあり、業界の垣根を越えて前向きなつながりが生まれています。太刀川英輔さんが始めたPAND-AIDは、情報収集と発信を、Wiki的に集合知を活用するなどプロセスも創造的です。
PAND-AID
Act Against Corona 医療機関用ツール
国連からクリエイティブ産業の皆さまへのグローバルな呼びかけ
→上記呼びかけの日本語訳PDF
→呼びかけに応えた成果を公開しているページ
コロナの次にやってくるもの(映像)

SDGsとコロナ 〜誰も置き去りにしないないために

※コロナ感染拡大でSDGsの達成にも大きな影響が出ています。一方で、置き去りにされる人たちの存在に気づく機会にもなっています。「人との接触を8割減らす」など、数値目標を定めてルールや行動を変えるのは「バックキャスティング」発想の訓練にもなっているとも思いました。
【特設ページ】SDGsアクションで新型コロナウイルス感染症を乗り越えよう(神奈川県)
世界各地で最大2億5000万人が飢える恐れ 国連が警告
新型コロナ 風俗業界勤務の女性「収入ゼロ」相談相次ぐ
オンライン授業でデジタルデバイド
学費の支援まとめ by team-if(学生チームのインスタ)
厚生労働省の支援関係まとめ(PDF)

非接触テクノロジーへの注目

※感染の原因となる接触をできるだけ避けたいというニーズが高まっています。そのためのテクノロジーや仕組みが注目されるようになりました。原発事故後の再エネもそうでしたが、それまで陰に隠れていた技術がクローズアップされ、マーケットを作ることがあります。ほかにもどんな技術がフォーカスされるか考えてみると面白いと思います。
コロナで広がるタッチレス製品
顔認証からボタン操作まで 新型コロナで「タッチレス」脚光、日本のお家芸に世界注目
コロナ流行でキャッシュレス加速 高まるテック大手の存在感
「ハンコが必要」、やむなく出社? 行政手続き見直しへ/印鑑廃止宣言の会社も
オンライン診療、利用激増 コロナに対応、現場は手探り

オンライン社会のゆるやかな浸透

※在宅勤務でオンライン会議が急増しました。人が集まる場所は厳しい状況になっていますが、科学博物館がVRサービスを開始したり、さまざまな社会実験が急速に各所で行われています。全てがオンラインになることはないでしょうが、今後はオンラインとオフラインが適度なバランスで共存するハイブリッド社会になっていくでしょう。一方で、課題もたくさん発見されています。課題が見つかるのも利用者が増えたからに他なりません。オンライン技術に資金が集まるようになった今、これらの課題を解決する作法やテクノロジーは急速に発展すると思います。
おうちで体験!かはくVR(国立科学博物館)
「Zoom疲労」はなぜ起こるの?ビデオ通話が脳に与える影響とその改善策

Withコロナ社会をどう生きるか

※アフターコロナではなくwithコロナという考えが拡がりました。コロナも人間も自然の一部。いつ別のウイルス感染が発生するかわからない。撲滅を最終目的とするのではなく、ウイルスがある世界を認めながら新しい道を探ろうという考え。この文脈でジェーン・グドールさんからの警告も大事だと思うのでリンクします。
そろそろ全体を見た話が聞きたい2
落合陽一「Withコロナ時代の日本再生ロードマップ」(期間限定ダイジェスト)
新型コロナは「敵」ではない。哲学者が説くウイルスとの「共生」
コロナパンデミックの原因は「動物の軽視」 霊長類学者グドール氏

「新しい日常」のデザイン

※「新しい日常」とか「ニューノーマル」という言葉もあらためて聞かれるようになりました。コロナ前の世界には戻れないなら、新しい世界を日常からどう構築していくか、各界で思考が始まっています。
【コロナ】韓国の「新しい日常」のためのソーシャル・ディスタンス指針【日本語訳】
中小事業者も ”ニューノーマル” への備えを
ニュー・ノーマル:国連、COVID-19後の経済を活性化し、雇用を守るためのロードマップを示す

コロナ後の世界に対するオピニオン

※コロナ危機は刻々と状況が変わりますが、インターネット時代だからこそ、同時代を生きる賢者からの声にすぐに触れることができるのも大きいです。ETV特集はゴールデンウィーク中にも再放送されているので、ぜひご覧ください。ジャック・アタリ氏の「『利他主義』は、まわりまわって自分を利する『利己主義』でもある」という考えに惹かれました。
NHK-ETV特集「緊急対談 パンデミックが変える世界 〜海外の知性が語る展望〜」
コロナ後の世界を語る 〜現代の知性たちの視線

ネガティブ・ケイパビリティについて

※僕が尊敬する聖心女子大学の永田佳之教授からネガティブ・ケイパビリティという考えを教えてもらいました。もともとはイギリスの詩人ジョン・キーツが使った言葉だそうです。精神科医で作家の帚木蓬生(ははきぎほうせい)さんが『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』という本を書いています。この本のなかに、教育のことが書いてあります。今の教育は早く答えを出そうとする「ポジティブ・ケイパビリティ(問題解決能力)」ばかりを伸ばそうとするが、不確実な時代に創造性を伸ばすのためには「性急に証明や理由を求めずに、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいることができる能力」が必要であるというのです。これは、まさに今の状況下で強く共感できる話です。ヨシタケシンスケさんの映像も、それに近いことを語っていらっしゃると思います。創造的に世界と向き合うには、焦らないで、何かが降りてくるのを待つ時間も大事ですよね。
『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』
ずっと家にいて辛くても、心が軽くなる絵本できました。ヨシタケシンスケ【StayHome】

ポジティブなアクションを

国連がCOVID-19に対する前向きなアクションをひろげるためのロゴマークをつくりました。下のリンク先からは日本語のスタンプもダウンロードできます。
新型コロナウイルス COVID-19関連情報(国連広報センター)

(上田壮一)

上田 壮一
上田 壮一(うえだ そういち) 理事/プロデューサー

1965年、兵庫県生まれ。広告代理店で6年間働いたあと、表現の現場を求めて映像ディレクターに。95年に宇宙から地球を見る視点を共有したいとの想いで「アースウォッチ」を企画。98年にプロトタイプを作ったことを機に、多くの方と出会いながらThink the Earthの設立まで突き進むことに。以後、プロデューサー/ディレクターとして『百年の愚行』『1秒の世界』『グリーンパワーブック』などの書籍をはじめ、携帯アプリケーション「live earth」などを手掛けている。