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Biodiversity

イギリス初の国立公園の美しさを取り戻す「50年計画」

2013.09.29 山田 由美

Peat Preservation:Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by Serigrapher

イギリスのナショナルトラストがPeak Districtという国立公園の一部を50年かけて再生しようという大がかりなプロジェクトを発表しました。Peak Districtはその名の通り丘が連なる地帯でロンドン北部にあります。広大な大自然の中に美しい村々が点在し、イギリスらしいのどかな田園風景が見られる場所。標高はほとんど海抜数百メートルと起伏が激しくないので散策や憩いの場として人気で年間およそ1000万人が訪れます。

ここは1951年イギリスで初の国立公園として制定されました。話は「キンダースカウト大侵入事件」が起きた1932年にさかのぼります。この年、数百人もの人がキンダースカウトというPeak Districtの中でも最高地点(標高636m)の場所を目指しました。当時この地は私有地でしたが人々が敢えて踏み込んで「田園地域を自由に歩く権利を保証せよ」と訴えたのです。いわゆる「自然享受権」ですが、北欧では国民が森などの自然環境を楽しむ権利が法令化もされています。イギリス全土ではこれをきっかけに田園地域へ立ち入る権利を見直す動きが広まり、結果としてこの地は国立公園に制定され、キンダースカウトは国立公園形成を導いた象徴としての位置付けがされました。

そんな歴史的な地も長年の浸食や森林伐採でかつての輝きを失っています。それを懸念する社会全体の要望にも後押しされ、ナショナルトラストは50年という長い年月を明示した回復計画を打ち出したのです。

対象となるのは泥炭湿原が広がるPeak Districtの北部。泥炭は植物に覆われていればいいのですが、そのままさらされてしまうと湿原として健全さを保つことができません。そのため水はけを改善させ、その上に植栽するという作業をするのです。そうすることでこの地特有の豊かな動植物にとっても生態環境を改善することができます。

ちなみに泥炭湿原はナショナルトラストが管理する部分だけでも1300万トンもの炭素を蓄積していると試算されています。これは近郊の工業都市シェフィールドが排出する温室効果ガス の3年分の量に匹敵し、二酸化炭素の吸収に大いに役立ちます。

50年という長さは、以前の健全な姿に戻すのに捧げる必要があると検討した結果でした。ロングランのビジョンを遂行するには、変化への対応力、自由度、協力関係などが必要。50年ともなれば人も組織も変わっていますが、それでも決めたのは勇気ある計画だと思います。



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山田 由美