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ドイツの毛糸がつむぐ気仙沼支援の編物プロジェクト

2012.12.07 岩井 光子

緑は「森」、青は「海」。マルティナさんが気仙沼に通うようになって発見したのは「気仙沼は美しい森と海の街」ということだそう。元気な気仙沼をイメージした腹巻帽子

フンデルトヴァッサーにヴァン・ゴッホなどの名がついたドイツTUTTO社の毛糸「OPAL」。独自の技術で1本の糸をまだらに染め上げているのですが、編んでいくと編み込みのようなグラデーション模様が自然と現れ、絵画を思わせるような、何とも魅惑的な糸なのです。

この毛糸にすっかり魅せられてしまったのがドイツ出身の梅村マルティナさん。京都の大学でドイツ語の講師をしていたマルティナさんは2005年、母国の母親に送ってもらったOPALの糸に出合ってから趣味の編み物熱が復活。編みためた帽子や靴下などを京都・知恩寺の手づくり市に出品するようになります。ポップでカラフルな作品はすぐに大評判になりました。

編み物を通して平和をー。そうした思いはOPALで編んだ靴下を「平和の靴下」と名付け、売り上げの一部を宝塚・アフガニスタン友好協会へ寄付し始めたころから強く抱いていました。東日本大震災後は「毛糸と編み針を被災地に届けたい。編み物好きな人が辛いことを忘れられるのではないか」とずっと考えていたと言います。震災1カ月後に京都の支援グループを通して実際に送ってみると、気仙沼市立小原木(こはらぎ)中学校の避難所から「もっと送ってほしい」と連絡が。マルティナさんは一家で小原木を訪れ、避難所の人たちと交流するようになります。編み物好きな女性だけでなく、子どもやお父さんもボタン付けなどで制作に参加できるようにとのアイデアから生まれたミニ人形が小原木タコちゃん。2011年7月、購入希望者から「養子縁組仲介料」として千円をいただく支援プロジェクトが立ち上がりました。

@Tutto1.JPG

梅村マルティナさん。南ドイツのTUTTO社で小原木タコちゃんと。購入者には作り手の「タコママ」からのメッセージカードが添えられます


小原木タコちゃんをたまたま目にしたのが気仙沼で酒店・洋品店を営む斎新商店の斎藤隆一さん・龍彦さん親子。ひと目で毛糸の珍しさに気づき、販売協力を申し出ました。斎新商店は地元の老舗で、航海に出る人たちの長靴や雨合羽、船に積む酒などを扱い、海で働く人たちと深いかかわりを持った商売を代々続けてきました。大震災では海に近い酒屋の店舗が大きく被災。自宅は全壊しました。自分たちも再起に向けて努力を続けるなか、「子育てをしている若い女性たちの働く場を作れないか」というマルティナさんの熱意に共感。今年3月に梅村マルティナ気仙沼FSアトリエという会社を共同設立しました。ショップでは腹巻帽子など手作り品のほか、マルティナさんがTUTTO社に依頼して作った気仙沼をイメージした毛糸「海」「森」なども販売しています。

「まちの機能はほぼ回復したように見えますが、実は震災後ほとんど手つかずのことも多い」と話すのは龍彦さん。防潮堤建設や住宅ローン二重債務の問題、土地のかさ上げ工事が進まず仮設住宅後の住居が思い描けない住民たちー。「これからがしんどいと思う」と語るマルティナさんの目線はそんな地元の人たちの気持ちにいつも寄り添っています。「きっとほかの誰かに販売委託してしまえばずっと楽だったと思うけれど、わざわざ気仙沼で会社を立ち上げ、今年4月には自らの住民票も気仙沼市に移してしまった。なかなかできることではないと思います」と龍彦さん。

「共に生きる」と私たちは口にすることはできても、未だに苦しい被災地の現状をどれほど実感できているのか、マルティナさんの行動力に接するとそう思わずにはいられません。



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