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人工知能でモノクロ写真を自動色付け
色のない「空白の時代」と現代をつなぐ

2017.01.21 岩井 光子

「この世界の片隅に」にも登場する呉の海軍工場から撮影されたきのこ雲。ニューラルネットワークで自動色付けを施したもの 撮影:尾木正己

写真は、ロングヒット中のアニメ映画「この世界の片隅に」にも登場する広島県呉の海軍工場から見たきのこ雲です。この時代の写真は一様にモノクロのはずですが、バックの空が鮮やかな青であるところが、映画の後半シーンを一層彷彿(ほうふつ)させます。もともと白黒だった写真を人工知能による自動色付けでカラーにしたのは、首都大学東京准教授の渡邉英徳さん。昨年12月16日にアップしたところ、SNS上で大きな反響を呼びました。

この自動色付けは、早稲田大の石川博教授らの研究グループが昨年5月に成功させた新しい手法です。約230万枚もの画像データをもとに、例えば、その画像が昼なのか夜なのか、屋外なのか屋内なのかといった大まかな色の傾向と、植物や人の肌、砂、水など、質感の判断を要求される細部の特徴とを双方向から人工知能に学習させていくディープラーニングの技術を応用して、人間の目が「自然」だと感じる色付けをすばやく自動で行うことを可能にしたのです。

渡邉さんは、自動色付けの技術に「非常に大きな可能性を感じる」と言います。渡邉さんのタイムラインには、ここのところほぼ毎日、ベトナム戦争や朝鮮戦争、第二次世界大戦直後の日本の生活の一コマを写した写真など、ランダムにピックアップされた白黒写真が次々に自動色付けされ、アップされています。「カラーにすることでTwitterなどSNSでの反響も大きく、コメントがたくさんつく」、渡邉さんはそう感じています。

美術家の奈良美智さんは、渡邉さんが1月10日にアップした朝鮮戦争時の子どもの写真にこんなコメントを寄せています。

カラー写真には、見る人の気持ちを引きつけ、より心に接近する作用があるのかもしれません。渡邉さんは、開発者の石川さんとも「白黒写真は不自然なメディアですよね」といった内容の話をしたことがあると言います。「ぼくたちが見ている世界は基本的には色がついているのに(モノクロ写真は)白黒の階調のみで示されている。そのことによって自分とは関係のない時代という印象を与えやすいと思います。自動色付けによって、そこから自分たちの時代に少しだけ近づいて感じられるのではないでしょうか」

渡邉さんは、2009年から南の島ツバルや原爆が投下された広島や長崎、東日本大震災、真珠湾攻撃などをテーマに、在住者や体験者の思いや証言を顔写真と共に3Dのデジタル地図上にマッピングした「多元的デジタルアーカイブズ」シリーズで注目を集めてきました。渡邉さんがくり返し強調していたのは、「過去と現在を地続きにする」ということ。2011年にリリースされたヒロシマ・アーカイブでは、地元の高校生たちが原爆体験者に取材をして、その証言をアーカイブに学生たちが自らアップしていくという試みも行われました。体験者の話を直に聞いた若い世代に新たな記憶のコミュニティが生まれ、デジタルアーカイブをきっかけに過去と現在がつながっていくという現象が起きたのです。

現在、自動色付けに大きな関心を寄せる渡邉さんは、「白黒写真以前は『カラーの絵』の時代、白黒写真以降は『カラー写真』の時代なので、色の欠落がある期間は限られています。そこを埋めたいと思っています」と話します。

1月10日、南ベトナム解放民族戦線の兵士が射殺される衝撃的な写真を渡邉さんが色付けしてアップしたときには、まさにハノイ在住者から「サイゴンの町並みが戦争中から今もつながっている」とコメントがつきました。

このように意識しなくても、私たちは色のない空白の時代を渡邉さんのタイムライン上で知らずに見つめ直しているのかもしれませんし、そうだとすれば、開発されたばかりのデジタル技術が私たちの歴史認識や平和学習におよぼす影響は、非常に興味深いものです。

自動色付けは低解像度の写真であれば、ウェブで試せるそうですので、興味のある方はカラー化を実際に体験してみてはいかがでしょうか。



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