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限界集落の解決手法で国内外の水問題が解決できる

2012.10.04 橋本 淳司

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黒土地区に設置された住民管理の小規模給水施設

日本の水道普及率は97.5%(2010年)。都道府県別に水道普及率を見ると、100%普及している東京都、沖縄県などがある一方で、熊本県の86.1%、福島県の89.6%と低い地域もあります。単純に考えると約300万人が水道の通っていない地域に住んでいる計算になります。

だからといって水が飲めないというわけではありません。こうした地域の多くは山村にあり、清浄な湧き水、地下水など水に恵まれた地域でもあります。

ところが近年、事情が変わってきました。高齢化が進み、施設の維持管理がむずかしくなってきたり、水質が悪化したり、水量が不安定になったりする地域が出てきました。

大分県豊後高田市の黒土地区は人口223人の小集落で良好な水源がありません。表流水、浅層地下水は乏しく、比較的水量を確保できる深層地下水には、生活用水として不適切な鉄、マンガンが多く含まれます。住民は毎日10キロ離れた湧水を汲み生活用水としますが、それも「自動車が運転できるうち。やがて水を確保するのはむずかしくなる」。洗濯のために豊後高田市内のコインランドリーまで毎日通う人もいます。

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鉄、マンガンを多く含むコーヒー色の水(左)を生活につかえる水にろ過(右)


水道事業の財政は厳しく、小規模集落に新たな水道を敷設する計画はありません。住民の間には「見捨てられた感」が広がっていました。これは発展途上国の話ではありません。日本の話であり、こういう地域は各地に人知れず存在するのです。

代替案は市民が自主管理する小規模飲料水供給施設。それにはいくつかの要件を満たす必要がありました。

まず建設費、維持管理費ともに安価であることです。豊後高田市の黒土地区は高齢世帯が多く(高齢化率55.2%)、収入はほぼ年金のみ。施設整備の高額な負担には耐えられません。

次に維持管理が簡単であること。高齢者が多いので、重労働や複雑な作業(たとえば薬品を扱うなど)をともなう維持管理は厳しいのが現実です。

そこで「NPOおおいたの水と生活を考える会」は、現有施設に生物浄化法(緩速<かんそく>ろ過)の浄水施設の付加を行うことをこの地区に提案しました。

その理由は、
1)生物浄化法(緩速ろ過)は、ろ過層の表面に棲む目に見えない生物群集の働きで水を浄化する。薬の力は使わず、森の土壌が水をきれいにする自然界のしくみをコンパクトに再現したもの。単純ではあるが、信頼性の高い浄水方法である
2)ろ過閉塞にともなう砂のかきとりなどを必要とするが、軽作業で高齢者でも対応可能
3)浄水に薬品を用いないため維持管理が簡単である
4)建設コスト、維持管理コストとも他の方法に比べ安く、住民の負担が小さい
の4点。

大分県、豊後高田市からの助成も受け、浄水能力8トン/日の小規模飲料水供給施設が整備され、2011年4月より稼働。総工費は700万円、地元負担は1世帯当たり約5万円。現在も、地元の住民によって管理が行われています。具体的には、毎日のろ過流量管理、2週間ごとの粗ろ過地の洗浄、2カ月ごとのろ過地の閉塞除去を住民が交代で行っています。

また、NPOおおいたの水と生活を考える会は、約1カ月に1回の訪問による状況モニタリング、水質検査、維持管理・施設の改善案の提案などを行います。

公共サービスのほつれをNPOと市民で補うという新しい形が誕生したといえるでしょう。

一方、岡山県津山市(人口11万人)の水道普及率は99.4%で、未普及地域が推計254戸(約730人)でした。ここでも豊後高田市と同じような問題が発生しました。

そこで、津山市は「小規模飲料水供給施設設置事業補助」という制度をつくりました。これは、「上水道の未整備地域における生活環境の整備および保健衛生の向上を図る」ために、「小規模飲料水供給施設の新設」などの経費の一部を「予算の範囲内で補助する」というものです。

補助の大前提は、地元の水道管理組合が、施設の設置、運営の責任を負うこと。つまり大分の事例同様、市民が自ら水道管理をすることが前提になっています。そのうえで以下の条件に合う事業に補助金が出ました。

・水道法第4条の水質基準に適合する安全を供給すること
・戸数10戸以上、給水人口20人以上100人未満の規模(水道法の適用外)の地区
・補助申請に対し、対象戸数の90%以上の同意があること

補助率は、取水・ろ過施設の設置に60%、給配水管施設に30%、自己負担額の上限を超えた部分、今後の水質検査費用に50%(上限10%)。これまで3地区で住民による小規模水道事業者が動き出しています。

生物浄化法(緩速ろ過)だけでは、大雨のときなど水がひどく濁った場合に対応がむずかしくなるので、小石や砂利などで粗ろ過する施設で前処理しています。

こうした事例は同様の問題に悩む小規模集落や自治体に大いに参考になるでしょう。さらにいえば、海外でも応用可能です。海外の水問題を解決するときにも最新技術の導入が好まれる傾向にありました。ですが先進国並みの立派な水関連施設を建設したものの、維持管理はなかなかむずかしい、壊れた場合に部品が調達できない、高度な技術を扱える技術者が不足している、維持管理費用が高くてまかなえない、といった問題があります。そのため停止と同時に放置されるケースも多かったのです。これはまさに日本の小規模集落と同じ課題であり、日本での解決方法がそのまま活かされる可能性が高いのです。ローテクと呼ばれようとも、簡易に安全・安価な水を供給できるものが求められ、日本の限界集落に設置されたしくみは海外でも十分に活躍が可能でしょう。



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