NTT DATAThink Daily

  • 地球リポート
  • 地球ニュース
  • 緊急支援
  • 告知板
  • Think Dailyとは

地球ニュース

RSSrss

Water

世界にはトイレが未整備の地域がいっぱい
その経済的損失は22兆円!

2016.09.27 橋本 淳司

写真提供:株式会社LIXIL

毎日お世話になっているのに、当たり前すぎて、あまりトイレにありがたみを感じない人は多いのでは? では、もしトイレがなかったらどうなるでしょうか。災害などでトイレが使えなくなり、衛生環境が悪化した経験のある人がいるかもしれませんが、今回明らかになったのは、トイレがないことの経済的な損失です。

株式会社LIXILグループ(以下LIXILグループ)が興味深いリポートを発表しました。LIXIL グループは、英国に本拠を置く研究機関・オックスフォード・エコノミクスに依頼し、劣悪な衛生環境に起因するコストについて、最新データの収集と総合的な評価を行いました。劣悪な衛生環境とは、わかりやすく言えばトイレがないということです。

その結果、2015年に衛生環境の未整備が世界経済に与えた経済損失は2,229億ドル(約22兆円)!

想像もつかないほどの巨額損失ですが、2,229億ドルとは、どのくらいの金額でしょうか? たとえば、先日行われたリオデジャネイロ五輪の開催費用の50倍以上、中国の国防予算、米国の教育予算をしのぎます。


画像提供:株式会社LIXIL

では、その内訳はどのようなものでしょうか?

●人的損失 1,228億ドル
下痢性疾患は、人間の排泄物が飲料水や食品の汚染の原因となることから、トイレが不足しているコミュニティーに多い病気です。世界保健機関(WHO)によると、下痢は世界で7番目に多い死因であり、2012年には150万人の命を奪いました。子どもが亡くなるということは、将来社会で活躍するはずだった人が、活躍できないということ。潜在的所得が失われ、家族や国に経済的ダメージを与えます。また、数字で算出することは難しいものの、家族の心理的な負担も大きいのです。

●医療費 566億ドル
衛生環境の不備に伴う病気の治療費です。医療費がかかることで資金を他の支出や投資にまわすことができなくなります。

●トイレそのものの不足 270億ドル
多くの国では、人口に対して家にトイレがない人の占める割合が高く、そうした人々は公衆トイレに並んだり、野外で排泄(はいせつ)場所を探さなくてはなりません。トイレに並ぶ、あるいはプライバシーを保てる場所を探すにしても、勉強や仕事に使えたはずの時間が奪われることになります。

●生産性の低下 165億ドル
排泄物に含まれる病原体によって、何百万人もの人々が病気になり、回復するまで仕事や学校を休まなくてはなりません。毎年、何十億時間もの労働時間が失われています。

こうした問題を抱えているのは発展途上国の貧困層に多く、自ら問題を解決するのが難しいのです。トイレなどの基礎的な衛生施設を継続して利用できない人は、世界で約26 億人にのぼります。途上国では人口の4 分の1 が屋外で排泄行為を行います。野外で排泄をすることは、飲み水の水源を汚すという悪循環を引き起こす場合もあり、新たな損失を生みます。

女性にとっては別の問題もあります。トイレがないと、プライバシーを保つ場所がなく、用が足せません。トイレがいたるところにある都市生活では考えにくいのですが、発展途上国の地方部ではトイレはなくて当たり前。出かけた女性の後ろを男性が付けることもあり、女性は恥ずかしさと同時に恐怖を感じています。自然と外出に消極的になり学校に行かない少女も多い。トイレがないことが性差別や教育の問題にもつながります。

こうしたことは重要な問題であるのに議論されることが少ないのです。

慎み深さを大切にする文化圏では特にその傾向が強い。資金や政治力によって状況の改善を図れる人のほとんどが男性であることもその理由になっています。

しかしながら衛生関連インフラの未整備による経済損失が2,229億ドルとは驚きの数字です。

この数字は放っておくとさらに増えていくのではないでしょうか。世界的に進む気候変動は、干ばつや洪水、熱波、その他の過酷な気象状態だけの問題ではありません。死や危機をもたらす可能性があるとともに、子どもたちが命を落とす主因となる栄養不良やマラリア、下痢などの蔓延(まんえん)につながる恐れがあります。そして、危機が起こる以前から適切な水と衛生環境を奪われていた人々は、洪水や干ばつ、暴風雨などの危機により影響を受けやすく、また早急に回復することも難しく、さらには後続の危機に直面した際により高いリスクに晒(さら)される、という負のサイクルを生み出す恐れがあるのです。

昨年定められた国連の持続可能な開発目標(SDGs)では、ゴール6において、すべての人の安全な水と衛生の確保を定めています。一つひとつのトイレを設置する金額はわずかなので、ぜひ少しずつ改善していきたいものです。



関連するURL/媒体

Bookmark and Share

Thinkテーマ別に読む

Water

このニュースの地域

イギリス (ヨーロッパ/ロシア

橋本 淳司