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2020.07.09 | 岩井 光子

大気中のCO2がウオッカに変身? 究極の持続可能なお酒のつくり方

お酒は一般的に、糖化させた原料に酵母を加え、酵母菌が糖を分解してアルコールに変換することでできます。化学の授業でも習ったように、アルコールの副産物としてCO2は必ず発生するものでした。ところが、古来からの常識であったこのプロセスをほぼ逆転させ、大気中の余分な二酸化炭素を回収し、酸素を放出するという、まるで森の木のような工程を経て生まれるウオッカが、ニューヨークで注目を集めています。

キャップに巻いたラベルには、「空気、水、太陽で作られたウオッカ」と書いてある

製造・販売を手がけるのは、意気投合した30代前半の2人が2017年に起業した「Air Co.」。CEOのグレゴリー・コンスタンティンさんは元酒造会社の役員。技術面の責任者であるCTOのスタッフォード・シーハンさんは、イエール大学で化学の博士号を取得した人工光合成(※)の研究者です。CO2と水からエタノールを作るテクノロジー自体は新しいものではなく、銅などの金属触媒を用いる電気化学的な変換方法は何年か前からエネルギー分野などで研究が進んでいましたが、彼らはこの技術を初めてアルコール飲料に応用。通常の発酵を経て蒸留したものより不純物の少ない、純度の高いアルコールを作ることに成功しました。

※人工光合成 植物が行う光合成を人為的に行うこと。気候変動対策の目玉として、アメリカではオバマ大統領時代に「人工光合成ジョイントセンター」がカリフォルニアに設立された。光触媒の高い技術を持つ日本でも、プラスチック原料などの化学製品を作る技術が実用化に向けて進んでいる。

CEOのコンスタンティンさん(左)とCTOのシーハンさん(右)

ブルックリンの工場で使用する動力源は太陽光のみ。空気、水、太陽という究極の自然エネルギーを原料にしたお酒で、製造過程でCO2を排出しないどころか、逆に余剰CO2をボトル1本(750ml)につき1ポンド(約454g)回収できるとうたい、商品発売前からInstagramなどを通じたプロモーションが大きな話題を集めました。パッケージデザインも、瓶からラベル接着用ののりまで、すべてサステナブルであることにこだわっています。商品は輸送負荷を考慮し、昨年から近隣のレストランやバーなどで提供を始めました。値段は1本65ドル(約7000円)と少々高めですが、味の評判は良く、「すっきりした味わいでマティーニに最高!」などと好意的な感想が寄せられています。今年3月に開かれたサンフランシスコのワールド・スピリッツ・コンペティションでは銀賞を受賞しました。

ミニマムでスタイリッシュなデザインは、同じニューヨークを拠点に活躍するデザイン事務所「JOE DOUCET×PARTNERS」によるもの

インパクト十分なウオッカは、全米の主な賞レースを総なめにし、「CO2を価値ある商品に換える」XPRIZEの賞レースでファイナリストに選ばれたほか、NASAのCO2変換チャレンジレースでも優勝。技術部門を統括するシーハンさんがNASAの長期宇宙探査計画に向け、二酸化炭素をアルコールからさらにD-グルコースなどの糖分子に変換させるフェーズ2のプロジェクトにチャンレンジ中です。

Air Co.は“CO2を出さないメーカー”という強みを武器に、今後、酒造メーカーの枠に収まらず、広くライフスタイルを提案していくことを考えています。第一弾商品としてウオッカを販売しましたが、今後は香水や掃除用スプレーなど生活用品を発売する計画もあり、XPRIZEの決戦に向け、カナダのオンタリオに規模を拡大した実証プラントを建設中です。「飲んで消費するだけでなく、考えてもらえる商品を作りたかった」とCEOのコンスタンティンさん。これからのビジネスには必ず環境に配慮する視点を取り入れるべき、と考えるミレニアル世代が、長い伝統を誇るスピリッツ業界に新風を吹かせています。


ブルックリンでコロナ感染者が急増した際には迅速に工場を手指消毒液の製造ラインに切り替えた。ウオッカと同じデザインの消毒液は医療従事者や飲食店関係者に無料配布された

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岩井 光子
岩井 光子(いわい みつこ) ライター

地元の美術館・新聞社を経てフリーランスに。東京都国際交流委員会のニュースレター「れすぱす」、果樹農家が発行する小冊子「里見通信」、ルミネの環境活動chorokoの活動レポート、フリーペーパー「ecoshare」などの企画・執筆に携わる。Think the Earthの地球ニュースには、編集担当として2007年より参加。著書に『未来をはこぶオーケストラ』(汐文社刊)。 地球ニュースは、私にとってベースキャンプのような場所です。食、農業、福祉、教育、デザイン、テクノロジー、地域再生―、さまざまな分野で、地球視野で行動する人たちの好奇心くすぐる話題を、わかりやすく、柔らかい筆致を心がけてお伝えしていきたいと思っています!

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