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2022.06.18 | 岩井 光子

アメリカ初! カーボン・ポジティブなホテルはデザインも秀逸

ロッキー山脈を望む米コロラド州・デンバーで先月着工したホテルが話題を集めています。Y字路の三角地に建設中の宿泊施設は、カッパドキアの奇岩を思わせるような不思議なビジュアル。来年末に完成したら、デンバーの新しいランドマークとなることは間違いなさそうです。

ホテルの名はPoplus。デンバー郊外の森でよく見かけるカロリナポプラのラテン語名(Populus tremuloides)からとったそうで、地元の人は“アスペン”と呼ぶ落葉樹です。下枝を落としつつ、大きく成長するアスペンの幹には枝の痕跡が黒ずんで残るのですが、Poplusにランダムに配置された大小の窓は、その痕にインスピレーションを受けたデザインだそうです。


Poplusの完成イメージ。アスペンのたたずまいに寄せてデザインしたと聞けば、確かにビル全体が白いポプラの幹のようにも見えてくる  source: Studio Gang
デンバーでよく見られるアスペンの森(Sue Reynolds/CC BY-SA 2.0)

デザインを手掛けたのは、Studio Gang。タイム誌の「世界で最も影響力がある100人」に選ばれた女性建築家ジーン・ギャング率いる建築事務所で、サンフランシスコのねじれた外観の集合住宅「MIRA」など、奇抜な作品群で知られています。Studio Gangが高い評価を受けているのは、大胆不敵なデザインの中にも気候変動対策や都市の新しいハブとしての機能をきちんと落とし込んでいるからで、専門家の知見から地元コミュニティの要望まで幅広く耳を傾けて集約する彼女の優れた調整能力には定評があります。

窓枠がソファに。室内はミニマムな家具でまとめる計画だ  source: Studio Gang

見た目のインパクトもさることながら、Poplusは全米初の“ネット・ポジティブ”な宿泊施設となることがアメリカではニュースになっています。ネット・ポジティブとは環境や地域への影響がゼロを通り越してプラスに転じるということ。近年、欧米の企業や自治体からよく出てくるキーワードです。CO2の排出量を削減策で相殺しても余る状態を指すこともありますし、やや抽象的にビジネスで環境や社会にプラスの影響を与える方針を指したりすることもあります。デンバーの開発業者アーバン・ビレッジは、Poplusの建設や営業と引き換えに2000万㎡以上の木を植林する計画を明らかにし、これにより計約1890kℓのCO2を相殺し、排出を上回る量のCO2を大気から吸収できると説明しています。

もちろんPoplusの建設についても資材の選択、建築方法の工夫などでCO2の排出は極力抑える予定で、混合セメントを使用した低炭素型のコンクリートや再生材の採用で仕上げ材の使用を控え、ごみの発生を減らします。ユニークなのはアスペンの枝の痕を模したという大小の窓で、ひさしが日差しを感知して伸び、室内の日陰を確保して断熱効果を上げるほか、雨天時は雨水の通り道になる機能も備えているのだそうです。アーバン・ビレッジ担当者は、NPO 法人・米グリーンビルディング協会が運用する環境性能評価システム「LEED」のゴールド基準を目指すと話しています。

目のような窓の“まぶた”には太陽の位置を感知して自ら日差しを遮る性質の資材が使われているという。雨水を誘導して洪水を防ぐ機能もあるそう  source: Studio Gang

2030年までに全地域の再生可能エネルギー使用100%を目指すデンバーは、気候変動と市民の所得格差の双方の課題解決を図る野心的なプロジェクトに着手しています。市がイニシアチブをとって建物の屋上や駐車場、空き物件などに設置を進める太陽光発電の電力を低所得層に重点的に割り当て、所得格差がエネルギーシフトの足かせとならないよう支援しているのはその一例です。また、2023年までに自転車道約200キロを整備し、自転車移動の利便性を強化する交通政策も進めています。完成イメージ図を見ると、Poplus内にもサイクリスト向けの店や交流場所などを設けるプランがあるようです。

一昨年、北欧ノルウェーの北極圏に太陽光の自家発電設備を備えた世界初のネット・ポジティブ・ホテルがオープンしましたが、観光の世界でも、ここのところ旅を通じて地域に貢献することを広く“リジェネラティブ”(再生)と呼ぶようになり、リジェネラティブを冠したツアーもあちこちで目につくようになりました。サステナブルやカーボン・ニュートラルの一歩先を行くネット・ポジティブな取り組みは、今後さらに増えていくのではないでしょうか。

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岩井 光子
岩井 光子(いわい みつこ) ライター

地元の美術館・新聞社を経てフリーランスに。東京都国際交流委員会のニュースレター「れすぱす」、果樹農家が発行する小冊子「里見通信」、ルミネの環境活動chorokoの活動レポート、フリーペーパー「ecoshare」などの企画・執筆に携わる。Think the Earthの地球ニュースには、編集担当として2007年より参加。著書に『未来をはこぶオーケストラ』(汐文社刊)。 地球ニュースは、私にとってベースキャンプのような場所です。食、農業、福祉、教育、デザイン、テクノロジー、地域再生―、さまざまな分野で、地球視野で行動する人たちの好奇心くすぐる話題を、わかりやすく、柔らかい筆致を心がけてお伝えしていきたいと思っています!

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