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2023.09.08 | 河内 秀子

ドイツ初のゼロウェイスト・カフェが目指す「ゴミ問題のクールな解決法」

ドイツ初のゼロウェイストカフェ「In guter Gesellschaft」。内装や家具も全てリサイクル

2020年には、日本を抜いてプラスチックごみ輸出量世界一となったドイツ(※1)。これまで輸入国だった中国や東南アジア諸国が規制を強めたこともあり、廃プラスチックは行き場を失い、増え続けるゴミは、特に先進国で大きな課題となっています。ドイツ全体のゴミの総量は、リサイクル量が増えたこともあって近年減少傾向にありますが、家庭ゴミは右肩上がり(※2)。ゴミをリサイクルすることも大切ですが、そもそもゴミをできるだけ出さないようにすることがより必要だ、という意識が高まっています。

近年はゴミ排出をできるだけゼロに近づける “ゼロウェイスト”に取り組む飲食店が増えています。2017年に誕生したドイツ初のゼロウェイスト・カフェ、「イン・グーター・ゲゼルシャフト」を訪ねました。

ショップや飲食店が多く集まる人気地区“シャンツェ”の一角にある店。テラス席は朝からにぎわっている

北ドイツの港町、ハンブルク。首都ベルリンに次ぐ大都市には190万近い人が住み、毎年150万トンものゴミが出ています。「イン・グーター・ゲゼルシャフト」は、カフェやショップが集まるにぎやかな地区にオープンしました。店名には、「良い仲間たちと一緒に」という意味のほか、「いい社会の中で」という政治的・社会学的なニュアンスもあり、このプロジェクトを通して新しい世界を作っていきたいというオーナーの気持ちが込められています。

アラナさん(右)とイナさん(左)は大の仲良し。カフェを開く前から、よくイベントなどを一緒にオーガナイズしていたという

オーナーは、イギリスの大学でサステイナブル・デザインを学んだアラナ・ツブリッツさんと、ビジネスを学び、現在はルフトハンザの戦略的購買部門でもマネージャーとして働くイナ・チョイ=ナタンさん。2人はゴミ問題のクールな解決法を考えていて、この店のコンセプトにたどり着いたと言います。「最初は不要になった洋服を交換するイベントをカフェで開いたら、と考えていたんです。その後イギリス南部、ブライトンにできた世界初のゼロウェイストレストランSilo(サイロ)を訪ねて刺激を受けて、サステイナブルな場所としてのカフェのイメージが広がっていきました」とアラナさん。

カフェの店頭には、プラスチックはほとんど見当たらない。水はセルフサービスでジャムの空き瓶に入れる

店に置かれている家具はすべて不用品のリサイクル。食材は包装不要で運搬でき、保存もしやすいことから野菜中心になりました。ミルクやジュースなどはプラスチック包装やリサイクルしにくい複合素材のパックではなく、リユースのガラス瓶に入っているものを選びます。一番問題だったのはスパイス。プラスチックの小袋やプラケース入りのものが大半だったため、かなり悩んで大袋のものを買うことにしたそうです。また、ヴィーガンのミルクは近頃までガラス瓶に入ったものが市場になかったため、アーモンドやオーツ麦をミキサーにかけて自作していました。

デポジット制のガラス瓶は返却、そうでない保存瓶はテイクアウト用の容器に。不揃いなところも可愛い。紙袋も何度も使う

「2021年に、やっとドイツのメーカーからガラス瓶に入った、厳しいオーガニック認証デメターを取得しているオーツミルクが出たので、これを使っています。」とアラナさん。食材はできる限り丸ごと使い、ケーキやジャム、朝食用のパンに塗るスプレッド、保存食なども全て自分たちで作っているので、包装ゴミや食品ゴミも大幅に減らすことができたと言います。

自家製のクランペット(手前)7ユーロ。熱々にメープルシロップをたっぷりと。奥はひよこ豆の代わりにドイツで栽培しているレンズ豆を使ったフムスなどのスプレッド数種類とパンのセット、11,80ユーロ

また、ドイツでカフェを経営する際には欠かせないコーヒーのテイクアウトですが、できるだけ店内で飲むように促し、それが無理ならリユースできるカップで提供。いまはジャムの瓶などをテイクアウトに利用しています。プラ容器のものが多い掃除用洗剤は使わずに、全ての掃除にデポジットのガラス瓶入りのビネガーとエタノールを使用するなど、ゴミを減らす努力は徹底しています。

不用品として捨てられそうになっていたものを引き取ったカップ。デザインがバラバラなのが楽しい。
ドイツのデメター認証を持つフェルケル社のオーツミルク。「味はナッツのような少し独特の香りがあり好みもありますが、私は美味しいと思う!」とアラナさん

2017年にこのお店がオープンしてから、ドイツ各地でもゼロウェイストに取り組む店が増えてきました。しかしゼロウェイストを掲げる店はそれほど増えていないと言います。

「多くの店が、ゴミを減らそうと工夫しています。食材を残さないように保存食を仕込んだり、使い捨ての容器を使わないお店は増えてきました。しかし“ゼロウェイスト“と掲げると、選択の幅が狭まる、お金や時間もかかると、尻込みしてしまうようです」とイナさん。

「“ゼロウェイスト“は、絶対に守らなければいけないドグマ(教義)ではありません。ウェイスト、つまり廃棄物・ゴミの何が問題なのかを見極め、なぜそういったゴミが生まれるのか、それは本当に必要なのかを取捨選択していくこと。循環しない廃棄物となるだけのプラスチック包装や、リサイクルが難しい素材を極力減らしていく、その過程が重要なのかなと思います。このカフェを通じて、色々なアイデアを提案していけたら」とアラナさん。

2人の次の目標はコンポストマシンを買うこと。店を開いてからずっとこのために貯金をしているそう。アラナさんは自宅ではミミズコンポストを使っています。「市の生ゴミ回収システムが自宅のアパートにないので始めてみたのですが、置いておくだけなので楽ですよ!」

ハンブルクにほど近い北ドイツの小都市キールは、2020年から循環型経済を取り入れた「ゼロウェイストの街」を目指して、廃棄物の削減に乗り出しています(※3)。野菜くずのコンポストを街中に設置、堆肥を作って街路樹や公園に使ったり、特別なゴミ料金制度の導入や学校への啓蒙、プラスチックフリーな買い物を奨励したことで、廃棄物はかなり減少傾向にあるそう。

ゴミをただの廃棄物にしない一人ひとりの小さな行動が、世界を変える大きな動きにつながっていきます。今年開店から6年目を迎える「イン・グーター・ゲゼルシャフト」の人気ぶりを見れば、明るい未来が信じられる気がしました。

写真:ジャンニ・プレッシャ
協力:ドイツ政府観光局 

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河内 秀子
河内 秀子(かわち ひでこ) 地球リポーター

ドイツ ベルリン在住 東京出身。2000年からベルリン在住。ベルリン美術大学在学中から、ライター活動を始める。 現在雑誌『 Pen』や『 料理通信』『 Young Germany』『#casa』などでもベルリンやドイツの情報を発信。テレビのコーディネートも多数。http://www.berlinbau.net/

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