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2025.09.10 | アーヤ 藍

9月21日はピースデー 「ザ・デイ・アフター・ピース」で学ぶ平和の“つくり方”

映画『ザ・デイ・アフター・ピース』の1場面より(以下同じ)

「365日の中の1日でいいから、戦争や紛争、あらゆる暴力がない日をつくろう」

この言葉を聞いて、あなたはどんなことを思うでしょうか?

たった1日では何の意味もないと思うでしょうか。1日だけでも戦争や紛争が止まったら、爆撃や銃弾の恐怖に常時苛(さいな)まれている紛争地の人は、安らぎの時間を過ごすことができます。戦闘の最前線にいる人は、何のために戦っているのだろうと立ち止まって考える時間になるかもしれません。普段は危険すぎて入れない地域に、予防接種や必要な物資を安全に届けることもできます。たった1日でもたくさんの「意味」があるのです。

あるいは、冒頭の言葉に対して、そんなことは不可能だと思う方も多いかもしれません。でも、どんなに無理だと言われようと、周りから冷笑されようと、実現に人生を懸けてきた人物がいるのです。イギリス人俳優・映画監督のジェレミー・ギリです。

世界の様々な暴力や戦争、憎しみに対して、何もできずに歯がゆさを感じていたジェレミーは、平和に関する映画を撮ろうと思い立ちます。その時「平和の日」がないことに気づいたのです。いえ、正確には1981年に国連は、9月の第3火曜日を「平和の日」として定めていました。しかし決まった日付でないために人々の記憶に残らず、特段何かアクションが起こされたりするわけでもない、形骸化したものになってしまっていたのです。

「停戦と非暴力を呼びかける日は、決まった日付にするべきだ」

そう考えたジェレミーは、国連関係者はもちろんのこと、各国の大臣やノーベル平和賞受賞者などと、何百もの面会を重ね、何千通もの手紙を送り、働きかけました。

「人類の歴史が始まって以来、この世界では、殺し合いがやんだ日はありません」
「1人でも救えれば価値があるはずだ」

ピースデーへの賛同者を得るためにスピーチするジェレミー

彼の熱い働きかけにより、2002年、毎年9月21日を「ピースデー」とすることが国連議会で決議されたのです。この国際デーは今ももちろん続いています。

ピースデー制定の実現というだけでも「ハッピーエンド」に思えますが、ジェレミーは止まりませんでした。ピースデーの目的は停戦を実現すること。しかし1年目、2年目とピースデーを迎えても、実際の「停戦」が実現しなかったのです。国連で決定されたら、各国政府が尊重し、NGOが現場で動き、変化が起きるものだろうとジェレミーは思っていました。でも蓋を開けてみたらそうではない現実が待っていたのです。

そこから今度は「ピースデーに停戦すること」の実現のため、ジェレミーは奮闘していきます。そんな彼の活動を記録したドキュメンタリー映画が『ザ・デイ・アフター・ピース』です。

「ピースデーの停戦」を実現するためにアフガニスタンを訪れるジェレミー

小さな“ネタバレ”になってしまいますが、結果的に彼はとても大きな意味をもつ「停戦」の実現に貢献します。「平和は一日にして成らず」と言われますが、この映画を観ていると、平和の一歩は地道な努力の先にあるものだということを痛感します。思いも大切。でも思いだけでは動かない。お金もコネクションも大切。時に戦略的に立ち回ることも……。この映画は「平和をつくる」とは具体的にどうしていく必要があるのかを学び考えさせられる作品でもあります。

最後にもう一つ、映画のジェレミーの言葉をお伝えしたいと思います。

「(「停戦を実現しよう」と呼びかけると)『なぜ私に言うんだ』とよく言われる。『紛争地の人間に言え』と。でも紛争地の人々は、すでに平和を求めてる。家も食べ物もある人こそ世界を変えなきゃ」

映画の中には、戦争や紛争下にいる子どもたちにインタビューした声も多く交えられています。戦争や紛争の痛みを知り、だからこそ彼らは平和を求めています。でも渦中にいる人たちだけでは止めることができない。だから声をあげ、行動する必要があるのは、平和な日常を送れている私たちなのです。

ピースデーに賛同してくれ、協力してくれた俳優ジュード・ロウと

映画は2008年制作のものですが、ジェレミーは今もピースデーを世界に広げ、平和の1日を実現するための活動を続けています。「Peace One Day」のホームページやSNSをチェックしてみてください。

また、ジェレミーは2018年に来日し、広島や長崎などを巡って平和のメッセージを届けました。そのダイジェスト動画が以下にあります。実はジェレミーの祖父が長崎の近くで戦争捕虜になっていたことから、ジェレミーにとっても日本、特に長崎は思い入れの強い場所です。

そして、今年のピースデー、日本でも9月15日〜21日の1週間にかけて様々なイベントが開催されます! 詳しくはこちらをご覧ください。

映画『ザ・デイ・アフター・ピース』はYouTubeで日本語字幕付きで全編公開されています。ぜひ映画を観たりイベントに参加するなど、今年の9月21日はピースデーのためのアクションをとってみてはいかがでしょうか?

The Day After Peace – Japanese Subtitles

(イギリス/81分/2008年)

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アーヤ 藍
アーヤ 藍(あーやあい) 映画探検家

在学中にアラビア語の研修で訪れたシリアが帰国直後に内戦状態になり、シリアのために何かしたいという思いから、社会問題をテーマにした映画の配給宣伝を行うユナイテッドピープル株式会社に入社。同社取締役副社長を務める。2018年に独立。映画の配給・宣伝サポート、映画イベントの企画運営、雑誌・ウェブでのコラム執筆などを行う。アーヤはシリアでもらった名前。大丸有SDGs映画祭アンバサダー。著書に『世界を配給する人びと』(春眠舎)。

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