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2026.05.25 | ささ とも

海からコンブが消えている――海の森に迫る危機と再生への道を描くドキュメンタリー映画

日本の沿岸には海草や海藻が豊かに生い茂る海の森「藻場(もば)」が広がっていました。しかし近年、その藻場が様変わりしています。各地の沿岸で藻場が枯れる磯焼けが増えているのです。藻場は、私たちの食卓に並ぶコンブやワカメ、アオノリ、ヒジキなどが繁殖し、魚類や貝、エビなどの水生動物のすみかになるだけでなく、大量のCO2を吸収・貯留してくれるブルーカーボン生態系(*1)としても重要な場所です。

(*1) ブルーカーボンとは、海底に生える海草や海藻、沿岸に広がるマングローブ林、塩性湿地・干潟などの沿岸や海洋の生態系が、光合成によって取り込むCO2を指す。ブルーカーボンは2009年の国連環境計画(UNEP)の報告書で命名され、ブルーカーボンを吸収するマングローブや藻場の重要性が提示された。

日本全国の海で生じている磯焼け。その根本な原因は地球温暖化と考えられています。大気中で急増したCO2が温暖化を引き起こして海水温度が上昇し、熱帯の魚やウニの活動が冬でも活発になって海草・海藻を食べ尽くすことが原因のひとつとして懸念されているのです。さらに2017年夏から2025年春にかけて黒潮の大蛇行が発生し、高水温をもたらしたことも磯焼けをさらに悪化させたと言われています。

この磯焼けをテーマにしたドキュメンタリー映画が話題になっています。映画『ここにいる、生きている。~消えゆく海藻の海に導かれて~』は、日本の海岸の深刻な現状を追い求め、解決策を探る作品です。全国各地の漁師や科学者、海産物問屋、料理人など、さまざまな形で藻場の問題に関わる人々を丹念に取材し、日本の海が今抱えている現実を静謐な語り口で伝えています。

海で何が起きている?

神奈川県逗子の海岸は人々に人気の憩いのスポット。しかし映画の中で海岸に集った人たちの目的はレジャーではなくウニの駆除です。岩礁に海草・海藻を食べるウニが大発生したため、藻場がなくなり、磯焼けが起きているのです。そこで事態の深刻さに気づいた地元の人々が協力して駆除活動を行っています。岩礁一面に黒いウニしかいない海。このような状態では、草木が一本も生えていない砂漠のように、多種多様な生物がすめない海になってしまいます。

逗子の海岸で起きている磯焼け。地元の人が大量発生したウニを駆除している

この現象は日本各地の海で起きていて、映画では、日本の北から南まで、被害を受けている漁業関係者の悲痛な声を伝えます。磯焼けが進行すると、ワカメやコンブなどの海藻が採れなくなり、ひいては魚類や貝、エビなどの水産物が大幅に減少し、漁業が成り立たなくなってしまうのです。

磯焼けは地球温暖化と関連している?

磯焼けは日本の水産業に危機をもたらすだけでなく、地球規模の問題にも関わっています。海草・海藻が豊かな藻場にはCO2を吸収し、海底に貯留する働きがあることが最近の研究で明らかにされてきました。藻場が減少するということは、これまでCO2を取り除いてくれていた重要な働きも弱まってしまうことになります。

しかし逆に藻場を再生させれば、水生生物の保全と温暖化対策につながります。藻場の再生の重要性とともにブルーカーボンが注目されるようになった背景には、2020年10月に菅首相(当時)が「2050年カーボンニュートラル」を宣言したことがありました。カーボンクレジット制度が脱炭素政策の重要な手段と位置付けられ、その中で「Jブルークレジット®︎」制度(*2)が創設されました。その仕組みは、自治体や漁業者、NPOによる藻場の保全活動を通じて吸収・貯留されたCO2の量を認証し、クレジットを付与します。クレジットを企業が購入し、そのお金が藻場の保全活動に回されるというものです。映画では、藻場再生に取り組む漁業関係者や研究者の試行錯誤の姿を映し出しています。

(*2) ジャパンブルーエコノミー技術研究組合のウェブサイト

悲観ではなく希望を描く映画

近年、海にまつわるさまざまな問題(プラスチックゴミや富栄養化など)をあらゆるメディアで目にする機会が増え、将来を悲観する人が多いことに危機感を覚えていました。この映画も「磯焼け」という海の問題を訴えています。ですが、それで終わるのではなく、その問題を改善するための「ブルーカーボン」という希望の切り札を提示している。それがこの映画の注目点のひとつです。

長谷川友美監督は住まいを構えた逗子で、地元のサーファーから海の異変の話を聞いたことがこの映画を作るきっかけだったといいます。そして約2年にわたり全国各地の沿岸を回って現地の人々と交流し、スキューバダイビングのライセンスを取得して海に潜り、撮影に挑んできました。「自然は人間が破壊しつくせるほど弱くない。本当に強い。自然に対してしっかり向き合って協力する姿勢を見せれば(自然は)答えてくれると思う」と映画の上映後、監督は希望について語っています。

『ここにいる、生きている』というタイトルは、この映画が描いている「私たち人間だけでなく海藻も魚も皆、今ここにいて生きているからこそ、さまざまな歓び、苦しみがあり、それを乗り越えて次にここに住む人たち、生物たちに命を繋いでいく」というメッセージそのものを表している、と後で教えてくれました。


豊かな藻場を再生するために私たちにできることがある

春は旬のワカメやヒジキがおいしい季節。コンブはうまみ豊かなだしに欠かせない食材。この映画を通して、海藻・海草の森が私たちの食文化と地球環境を支えていることを改めて感じました。

海の森、藻場を守る活動については、Think the Earthのビジュアルブック『あおいほしのあおいうみ』でも詳しく取り上げています。そろそろ海が恋しくなる季節。この映画をご覧になって海に想いを馳せてみてはいかがでしょうか。

参考:
環境省サイト
・『ブルーカーボンとは何か 温暖化を防ぐ「海の森」』枝廣淳子著、岩波書店、2022年9月刊

●この夏、『ここにいる、生きている。~消えゆく海藻の海に導かれて~』はこちらで上映される予定です。


・川崎
イベント名:エコシティかわさきフェス2026

主催:かわさき生活クラブ生協
日時:2026年7月12日(日)13:30~、16:00~
場所:生活クラブ高津センター(神奈川県川崎市)

・瀬戸内
イベント名:海を知る日in牛窓テレモーク

主催:株式会社テレモーク
日時:2026年7月20日(月祝)17時~
場所:牛窓テレモーク(岡山県瀬戸内市)


●また、学校で映画のハイライト版を無料上映する「「海の森をつなぐバトンプロジェクト(通称:うみもりバトン)」も展開されています。
詳しくは公式ウェブサイトをご覧ください。

監督・撮影・編集・ナレーション:長谷川 友美
2024年/103分 

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ささ とも
ささ とも(ささ とも) 地球リポーター

神奈川県在住。翻訳者、ライター。 2010年からThink the Earthの地球リポーターとして世界のサステナブルなニュースを発信。気候変動・生物多様性・ウェルビーイングなど、さまざまな分野での世界の動きを追っていきます。

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