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2026.07.08 | 山本 尚毅

雪は「厄介者」か「資源」か? インフラ企業が描いた“雪の地図”から地元を見つめ直す

私たちは日頃、あらゆる事象を「人間の都合」で考えてしまいがちです。しかし、地球上を巡る水や空気、移り変わる季節の本質は、人間の生まれるはるか前から淡々と続いてきた自然の営みそのもの。人間中心のモノサシを一度おろして、私たちもその大きな循環の一部にすぎないという視点に立ったとき、見慣れたはずの風景や気候は、まったく違う優しい表情を見せ始めます。

冬になれば真っ白な世界が訪れる日本有数の豪雪地帯である新潟県十日町市。そこに暮らす人々にとって、またそこで育つ高校生たちにとって、雪は「生活を阻むもの(除雪の大変さ、通学の足止め、寒さ)」=「厄介者」として立ち現れます。

見慣れたはずの、そして少し距離を置きたくなる「雪」という存在。しかし、雪には美しさや遊びを生み出すおもしろさなどの違った側面もたくさんあります。そうした雪の多面的な価値に改めて向き合うことを目的に2025年8月から2026年3月にかけて町のさまざまな場所で100人近くにお話を伺いました。その結果をまとめたアウトプットとしてデザインされたものが「Snow Impact Map(以下、SIM)」です。プロジェクトを企画したのはNTT東日本地域循環型ミライ研究所(以下、ミライ研)、日本総合研究所、そして人類学ベンチャーのメッシュワークでした。

なぜ、地域の通信インフラを支えるNTT東日本が、わざわざ雪に特化したマップを作成したのでしょうか?そして、それはどんなものなのでしょうか?

NTT東日本地域循環型ミライ研究所前所長の猪狩典子さんは雪の研究に取り組む理由を次のように語っています。

NTT東日本は通信を通じて人と人、人と地域をつなぐ役割をになってきましたが、その先にコミュニティが生まれ、地域ごとのローカルウェルビーイングが高まることに繋がるのではないかと考えています。そういった中で、十日町の雪に根差した暮らしは、都市部の人たちが不確実な時代にどう生きるかの参照点になり得るのではないかと考えています

SIMは単なる積雪量や気象のデータ集ではありません。十日町の住民100人近くにインタビューし、雪が人や大地に与える影響を「自然(水、生態系)」「人(精神性、知恵)」「社会(経済、インフラ)」「文化(食、芸術)」の4つのレイヤーで整理し、それらがどう互いに影響し合っているのかを可視化したもので、見る人それぞれが、自身の経験や記憶と重ねながら、雪の価値を多面的に捉えるきっかけとなることを目指しています。

また、これから調査に協力していただいた住民の意見も参考にしながら、地域でどのように活用できるかを考えていきます。また、学会などのアカデミックな場での発表も計画しています。

地図を用いて、高校生と雪をリフレーミングする

SIM作成時のインタビューでは、若年世代の声を取り入れられませんでした。そのため、高校生に完成したSIMに触れてもらう機会として、まだまだ雪が残る2026年2月と3月に、十日町市内の2つの高校で授業を行いました。授業では、雪の歴史についてのクイズにはじまり、連想ゲームでふだん雪について考えていることを自由に書き出してもらいました。場と思考をほぐしたあとに、SIMの登場です。

最初は、目の前の巨大で複雑なマップと情報量の多さに、戸惑う生徒が多くいました。しかし、マップを見ながら、家族や地域の大人たちとの会話を思い出し、自分たちの日常生活とどう結びつくのか、そもそも雪についてどんなふうに思っているのか、雪との関係を新たに考える機会となったようです。

そして、最後には、雪の造語を書き、それぞれの意見を交換し、授業は終了しました。

写真:新潟県立十日町総合高校

生徒の感想には、「雪はあたり前のものでしたが、雪の歴史を聞くと思っていたよりおもしろくて、楽しかったので、他の人にも聞いてもらいたい」とあたり前を見直す機会になったという声や、「今までは雪のマイナス面を多く考えてきたけど、今回の授業を機にポジティブで、良い点を多く学ぶことができました」「時代や立場によって雪との関わりは変わり、その関わり方次第で雪の印象は良くも悪くもなる」など、雪を多面的に考えたという声がたくさんありました。

「雪」をめぐる探究の旅は、まだ始まったばかり。日本の雪国をくまなくまわり、文化を比較し、研究を深めた先に、日本的な雪との暮らしから「日本的ウェルビーイング」を見いだせるかもしれません。

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山本 尚毅
山本 尚毅

大学時代に掌で花開く雪を見て「どうしたら祖先に雪を残すことができるだろうか」という問いを持って、いまだに考え続けている。北海道大学農学部卒、2010年「世界を変えるデザイン展」を企画開催。2015年より予備校にて探究型プログラムを開発。「進路選択ツールキット(高校生向け)」で2022年グッドデザイン賞、『もし「未来」という教科があったなら』(学事出版、編著)を出版。2023年より(株)日本総合研究所創発戦略センターに所属。2024年北陸先端科学技術大学院大学博士前期課程修了。「総合的な探究の時間」に取り組む教員を対象としたエスノグラフィを行なった。

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