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使い捨て容器は不要 未来の消費活動を占う「LOOP」という仕組み
軽量で耐久性があり、便利だからこそ、世界的に深刻さが増している使い捨てプラスチックごみの問題。環境意識の高い人たちの行う活動はもちろん大切なのですが、問題解決のためには、むしろ使い捨て容器やパッケージへの関心が薄い、一般の人たちの意識をどう高めていくか、どんなアイデアで巻き込んでいくかが、今後のカギとなるのではないでしょうか?
世界23カ国を拠点にリサイクル事業を推進する「テラサイクル」は2002年、米プリンストン大生だったトム・ザッキーが、ミミズコンポストから作った液体肥料を使用済みペットボトルに詰めて販売し、成功を収めたことをきっかけに起業したユニークな会社です。
ごみがヒット商品に生まれ変わることを、身を持って知ったトム・ザッキーは、「捨てるという概念を捨てよう(Eliminate the Idea of Waste)」を合言葉に、ジュースパックにたばこの吸い殻、紙おむつ、ペン、カプセルコーヒー、菓子袋など、汚れがついていたり、色付きであったり、プラスチックの複合素材であったり、リサイクルが難しいと思われていたごみを資源として回収し、再資源として活用することに次々とチャレンジしていきます。メディアからは、「ごみの王様(Gabae Mogul)」の異名もとるようになります。
テラサイクルの手法は、まず消費材メーカーにスポンサーについてもらってリサイクル回収プログラムを立ち上げます。そして、消費者にリサイクルの価値と効果を伝えるインパクトのあるプロモーションを仕掛けた上で、回収物を新しいモノに生まれ変わらせるというもの。社内には科学者とエンジニアからなるチーム「R&D」(研究開発技術者)も常駐していて、回収した素材を何に再生できるか、再生した製品の強度は十分かなどといった点についても、専門的な見地から検証を行う体制を整えています。
例えば、飲料メーカーのCapri Sunと組んだドリンクパックのリサイクルプログラムでは、容器の回収と引き換えにポイントが貯まるようにし、そのポイントで貧しい子どもたちが通う学校にプラごみをリサイクルして作った遊具をプレゼント。アメリカのスーパーマーケットTargetとのプロモーションでは、Newsweek誌の表紙を折り畳むと封筒になる広告を仕掛け、同店のレジ袋を読者に返送してもらい、トートバックにアップサイクルして再販したこともありました。
日本法人の発足は2014年。アジア初となった吸い殻の回収を皮切りに、ビニール雨傘など回収例の少ないプラスチック製品のリサイクルに挑戦してきました。現在進行中のプロジェクトには、ライオンと進める歯ブラシの回収プログラムや、3Mと組んだキッチンスポンジなどの回収プログラムがあります。
歯ブラシ回収スポットは、学校、歯科医院、ドラッグストアなど全国各地にあり、200本を目安にテラサイクルに発送できる
リサイクル回収が難しいと思われてきた廃棄物に着目し、その気になれば何でもリサイクルできることを積極的に示してきたテラサイクルですが、今年に入ってからは、新たなビジネスモデルの構築に乗り出しています。
1月、スイス・ダボスで行われた世界経済フォーラム年次総会で、循環型ショッピングシステムとして発表されたのが「LOOP」。「使い捨て容器自体をなくすにはどうしたら良いか?」といった抜本的な意識改革への挑戦です。P&G、ユニリーバ、ネスレ、コカ・コーラ、ペプシコ、ダノンなど数十ものグローバル企業が参加表明したその仕組みとは、かつての牛乳配達をほうふつさせる宅配サービス。消費者がLOOPのオンラインから注文した製品が、繰り返し使える耐久性のある容器に入れられ、専用のトートバックで自宅に届けられます。使用後の容器洗浄はLOOPスタッフが回収後に行うので、そのまま返却し、希望すれば再び中身が充填された商品が届きます。
テラサイクルは、5月からニューヨークとパリで先行して約5000世帯を対象に試験サービスをスタート。消費者はLOOPで商品を購入することで、容器を捨てたり、洗浄する手間がはぶけるという便利さも手にできますし、各社がLOOPのためにデザインや使い勝手に凝り、高級感を演出したガラスやステンレス、アルミの容器を新しく作ったので、見た目や使い心地をこれまでより楽しめるというメリットもあります。これらの“お得感”も相まって、容器を捨てないという未来のショッピングスタイルが定着するのか、企業側も消費者の動向を注視しているところです。
2020年には東京でもLOOPのサービスが始まります。日本支社のマーケティング&コミュニケーションズマネージャーの片山亜沙美さんは、「LOOPはサステナブルな未来の消費の形を模索する取り組みです。従来のエコグッズは環境問題に関心のある人たちが主に買っていましたが、便利さや高級感という面で新たな顧客を取り込める可能性がある。サーキュラー・エコノミーを確立させるためには、より多くの消費者に選んでもらえる商品やサービスである必要があります。失敗する可能性もありますが、失敗から学び、改善を繰り返しながら成功するまで、テラサイクルは挑戦を続けていきます」と話します。
テラサイクル日本支社のスタッフ。左が代表のエリック・カワバタさん、右が片山さん。2020年には日本でもLOOPが始まる
より大規模に、人間の消費行動を動かす仕掛けを作るためには環境に良いというアピールだけでなく、便利、使いやすい、優越感など、別方向からのフックの用意が、新しい習慣を定着させるカギとなるのかもしれません。買い物にかける手間や時間をはぶきたいと考える消費者心理に接近しようとするテラサイクルの実験は、LOOPの名が示すようにサーキュラー・エコノミーの実現を目指すためには、有効なアプローチなのかもしれない、と思いました。
地元の美術館・新聞社を経てフリーランスに。東京都国際交流委員会のニュースレター「れすぱす」、果樹農家が発行する小冊子「里見通信」、ルミネの環境活動chorokoの活動レポート、フリーペーパー「ecoshare」などの企画・執筆に携わる。Think the Earthの地球ニュースには、編集担当として2007年より参加。著書に『未来をはこぶオーケストラ』(汐文社刊)。 地球ニュースは、私にとってベースキャンプのような場所です。食、農業、福祉、教育、デザイン、テクノロジー、地域再生―、さまざまな分野で、地球視野で行動する人たちの好奇心くすぐる話題を、わかりやすく、柔らかい筆致を心がけてお伝えしていきたいと思っています!