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オランダの発光するインタラクティブ・アート 環境問題にメッセージ
今オランダのフローニンゲン美術館で開催されているのが、訪れた人が動いたり触れたりすることで燐光(りんこう)を放ち、その場所の色や形が変わるインタラクティブなアート展「PRESENCE(プレゼンス)」(2019年6月22日~2020年1月12日)。「存在」と題したこの展覧会は、まさに人の存在を光の中で形として表現しています。
ある部屋では、インスタレーションの上に寝そべったり座ったりする人がスキャンされ、ある部屋ではフラッシュがたかれると、作品や壁、床の上に人のシルエットやパターンが残ってから消えていきます。また、光る砂の上を歩くと足跡が浮かび上がる作品や、光るボールを動かすと光の線が描かれる作品もあります。これらはすべて、鑑賞客が触れたり、参加したりすることで完成するインタラクティブなアートです。
この展覧会は、環境・アート・テクノロジーを融合したデザインで世界的に注目されている、オランダ人デザイナーのローズガールデ氏によるもの。同氏は、これまでも「美しい、クリーン」を意味するオランダの言葉「schoonheid」をコンセプトに、クリーンな水や空気、エネルギーといった新たな社会の価値を、景観アートで表現してきました。例えば、太陽光で充電して夜に発光する道路「スマート・ハイウェイ」や、北京市の公園でスモッグを吸い寄せて空気を清浄する「スモッグ・フリー・プロジェクト」、グリーンエネルギーを題材にした「風の光プロジェクト」など、ユニークでありながら、一貫して環境問題に関するメッセージが込められています。
今回の展覧会では、鑑賞客が作品に触れたり、動いたりすると、作品や空間が光によって変化します。つまり、人が存在することで景観が変わる=私たち人間が地球に与えるインパクトを表現しているのです。ローズガールデ氏は、こう語ります。
「今世界には、CO2排出やスモッグ、気候変動による海面上昇など、さまざまな環境問題があります。政治家を責めて、数値のことばかり話し、怒りをぶつけても、うまくいきません。新しいアイデアに取り組まなければ、私たち人間は沈没してしまう。そんな想いから、この展覧会を企画しました。
展覧会は、単に答えを示すわけではなく、提案や方向性を示すようなものにしています。私たちの世界や未来がどうなってほしいのかを、想像する力や興味を引き出したいのです。私たちは、単に問題の一部になるのではなく、解決策を創り出すことができる。少しずつ世界を良くしていくことができるのです」
ローズガールデ氏の言葉を象徴するように、展覧会の最後は、こんな言葉で終わります。
「宇宙船地球号に、乗客はいません。私たちは皆クルーなのです(There are no passengers on spaceship earth. We are all crew. / Marshall McLuhan)」
私たち人間が、宇宙船地球号にお客さま気分で乗っていても、誰かがマジシャンのように世界を良くしてくれるわけではありません。一人ひとりがクルーなのだと意識して、小さくても行動を積み重ねることで、未来が変わっていくのです。
鑑賞客が単に眺めるだけでなく、作品や空間に自ら関わって変化をもたらす展覧会「PRESENCE」。地球の未来を守っていくために、私たち一人ひとりの存在や力が大切であることを、改めて意識する機会になりそうです。
日本貿易振興機構(JETRO)に勤務後、フェアトレードファッション・ブランド「People Tree」にて、バングラデシュ・インド・ネパールにおける生産管理に従事。現在は、企業のサステナビリティ推進を支援する「 エコネットワークス」に、コンテンツプロジェクトマネージャーとして参画。ライフワークとして、フェアトレード絵本「ムクリのにじいろTシャツ」を制作したほか、親子向けにフェアトレードを学ぶワークショップを企画する「フェアトレードガーデン世田谷」(本部・東京)の運営に携わる。社会や世界で起きていることを「自分ごと」として感じ、考え、行動する。そんなきっかけになるような記事をお届けしたいと思います。