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2021.05.15 | 岩井 光子

新品の服を載せないファッション誌「Display Copy」がNYで誕生

ここ数年、ファッション誌で次々とSDGsやエシカル消費、サステナブルファッションなどがメイン特集として組まれるようになりました。これまで端っこにひっそりあったテーマがメインストリームとして脚光を浴びるようになった時代の変化はとても感慨深いのですが、広告収入を支えとする雑誌は、トレンドを煽って読者を触発し、消費を促すという流れそのものを変えることはなかなか難しいのだろうと思っていました。

ところが昨年10月、アメリカのNYでついに新作アイテムを一つも扱わないコンセプトのファッション誌「Display Copy」が誕生したのです。編集長は長年さまざまなグローバルブランドのアートディレクションを手掛けてきたブリン・ヘミンウェイ。誌面で紹介するファッションアイテムはすべてアップサイクルやヴィンテージなどのリユース商品です。

ヴィンテージアイテムを着こなすプラスサイズモデルのパロマ・エルセッサー。こうした服は体のラインが華奢な人しか着られないという思い込みを覆してくれるパワフルなショット ©︎Daniel Jackson

表紙は4パターンあります。パロマ・エルセッサーを筆頭に、ノンバイナリージェンダー(男女の性別にとらわれない)を公言するモデルのノア・カルロス、ファッションフォトの枠に収まりきらない世界観を表現するマーク・ボースウィックなど、時代を象徴するモデルやアーティストが新メディアの話題づくりに一役買っています。

Depopのショップ「Loser Thrift」で人気のインフルエンサー、ノアが古着をまとって表紙を飾った(右)。Z世代にはDepopのようなフリマアプリで服を売り買いし、自分らしい着こなしを楽しむ層が増えている。左はパロマが表紙のバージョン

同誌はオンライン版も並行してスタート(雑誌は年2回発行)。記事では、古いマットレスを使ったコートなどを製作し、作品を“アップサイクル・クチュール”と呼ぶセバスチャンA.デラフレイ、ショッピングカートからレインウェアを作ったマシュー・ニーダムなど、最前線で創作活動を続けるクリエーターを紹介。彼らが業界の旧態依然としたサプライチェーンに疑問を持ち、今の制作スタイルにたどりついたことがわかり、とても刺激を受けます。

オランダ出身の人気モデル、サスキア・デ・ブロウは80年代のバイカーショーツに19世紀のヴィンテージコルセットを合わせたコーディネート ©︎Amy Troost

「私たちは流行よりその人らしいスタイルを、新品よりヴィンテージを称賛したい」。Display Copyの創刊号の声明文を読んで思い起こす一冊があります。今からもう40年近く前に発刊された『チープ・シック』というスタイルブックです。「メーカーに命令されて服を着る時代は、もう終わっています」と挑発的な序文に始まり、流行に左右されないシンプルな服を自分らしく着こなす術を説き、ロングセラーとなっています。「ファッションはあなた自身の生き方を投影したものであるべき」とこの本が主張するファッション哲学とDisplay Copyの世界観は非常に近いと思いました。

ルイ・ヴィトン展カタログのフォトグラファーを務めたカテリーナ・ジェブが撮り下ろしたヴィンテージシリーズより ©︎Katerina Jebb

ファッション業界は年間およそ1500億着の服を生産しています。これを世界の人口に割り振ると一人当たり21着になります。作られた服の20%は売れずにそのままゴミとなりますが、販売された80%の服も購入者は平均7回ほど着て捨てている換算になるそうです。そうして焼却されたり、埋め立て地に送られる服は、年間約1200億着に上ります。

グローバル・ファッション・アジェンダ(GFA)と持続可能なアパレル連合(SAC)がボストン・コンサルティング・グループの協力を得てまとめた2019年の年次評価(パルスインデックス)によれば、持続可能性の達成度を計るパルススコアは6から4ポイントに落ちました。スコアと拡大し続ける生産量のギャップは今後ますます広がるとみられており、業界はサプライチェーン全体を大胆に変革する必要性に迫られています。しかし、消費者側の意識の高まりは十分とは言えず、報告書は「消費者待ちでは間に合わない。大きな影響力を持つファッションリーダーが今、大胆な行動をとれるかどうかにかかっている」と指摘しています。

臨界点に達したファッション業界の舵を切るため、行動を起こすアパレルメーカーも近年増えてきました。3Rでいえば、今後は新製品の生産を抑えるレデュースが、リサイクル以上に求められるようになるのかもしれません。パタゴニアは“新品よりもずっといい”をコンセプトに自社製品を買い戻し、修繕して再販するプラットフォーム「worn wear」を2016年から始めています。手持ちの服や家族から譲り受けた服に愛着を持ち、長く着続けることの良さをPRし、消費者に価値転換を促しています。

実際、アメリカの中古服EC市場は急成長中で、フリマアプリ「スレッドアップ」の市場規模は2019年からの2年間で69%の伸びを見せています。コロナ禍の巣ごもり需要も後押ししているようですが、それだけではなく、特にZ世代(1996〜2015年生まれの世代)はオンライン上での服の売り買いにも慣れており、中古服への抵抗感は少ないといわれています。Display CopyもeBayなどと提携し、オンラインショッピングサイトを併設しています。

構想を温めてきたブリン・ヘミンウェイが「ようやく時が熟した」と話すのは、もちろんこうした中古服EC市場の動向も見ているからなのでしょう。しかし、Gapやルイ・ヴィトン、ジル・サンダーなど名だたるグローバルブランドの第一線で働いてきたアートディレクターが、新作を一切扱わない雑誌を作ると宣言するまでには、相当な勇気が要ったと思います。「私は本心と仕事内容のかい離に長年苦しんできました。その折り合いをつける必要がありました」という彼女の告白に共鳴する人は、少なくない気がします。

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岩井 光子
岩井 光子(いわい みつこ) ライター

地元の美術館・新聞社を経てフリーランスに。東京都国際交流委員会のニュースレター「れすぱす」、果樹農家が発行する小冊子「里見通信」、ルミネの環境活動chorokoの活動レポート、フリーペーパー「ecoshare」などの企画・執筆に携わる。Think the Earthの地球ニュースには、編集担当として2007年より参加。著書に『未来をはこぶオーケストラ』(汐文社刊)。 地球ニュースは、私にとってベースキャンプのような場所です。食、農業、福祉、教育、デザイン、テクノロジー、地域再生―、さまざまな分野で、地球視野で行動する人たちの好奇心くすぐる話題を、わかりやすく、柔らかい筆致を心がけてお伝えしていきたいと思っています!

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