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京都議定書誕生の駆け引きが舞台に イギリスで話題の『KYOTO』が日本で上演へ

気候変動対策の大きな一歩になった京都会議(COP3)をテーマにした演劇がイギリスで開催されました。6月には日本でも上映されます。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーとグッド・チャンスが共同制作した作品でその名も『KYOTO』。イギリスの舞台芸術賞「オリヴィエ賞」で最優秀新作演劇賞や最優秀助演男優賞にノミネートされるほど高い評価を得ています。
ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーは、1875年設立のシェイクスピア記念劇場を前身とする由緒ある劇団。劇作家ウィリアム・シェイクスピアが生まれた町、イングランド中部にあるストラトフォード=アポン=エイボンを拠点に活動しています。グッド・チャンスは、フランス北部カレーに設置された難民キャンプの物語を描いたチャリティー舞台『ジャングル』で名を挙げた劇団です。この2つの劇団がタッグを組んで、国際合意形成をめぐる政治スリラー『KYOTO』が制作されました。

イギリスでは、初演が2024年6~7月にストラトフォードで、再演が2025年1~5月にロンドンで開催されました。主役はセブンシスターズ(大手石油会社7社)に雇われた石油ロビイストのドン・パールマン。シェイクスピアの悲劇『オセロ』に登場するイヤゴーを彷彿とさせる悪役ぶりで、気候変動対策の妨害を図ろうとします。会議では議定書に入れる用語の表現をめぐり、先進国のドイツ・イギリス・アメリカ、途上国の中国、石油生産国のサウジアラビア、温暖化の被害国キリバス、科学者など、参加者それぞれの思惑が絡み合い、丁々発止のやり取りが繰り広げられ、ラウル・エストラーダ議長の采配で条約合意に至るまでをスリリングかつコミカルな演技で観客を魅了します。円卓会議を模した舞台では、観客の一部が円卓を囲む客席に座り、まるで会議に参加しているような気分が味わえるというユニークな設定も注目されました。

(c) Manuel Harlan
1997年12月に京都で開催された京都会議(COP3)には世界158カ国が参加し「京都議定書」が採択されました。そこでは初めて先進国それぞれに温室効果ガスの削減目標が定められ、途上国に排出義務を課さないことが合意されました。これまでに大量の温室効果ガスを排出してきた責任を負う先進国が率先して削減対策を行うべきである、と考えられたからです。京都会議は、先進国に法的拘束力のある数値目標を設定するという、気候変動対策の大きな一歩となったのです。
トランプ米大統領がパリ協定からの離脱を宣言するなど、世界で2番目に多く温室効果ガスを排出している米国が温暖化対策をことごとく阻止し、国際協調の機運が弱まっていることが懸念されています。そのパリ協定の基盤となる「京都議定書」がどのような議論を経て合意・採択されたのか。『KYOTO』の上演は、気候変動をめぐる歴史の一幕を振り返る良い機会になると期待されます。
日本では世界に先駆けて、6月27日から社会性の高い舞台を展開する劇団「燐光群」が下北沢で上演します。
神奈川県在住。翻訳者、ライター。 2010年からThink the Earthのリポーターとして世界の持続可能な取り組みのニュースを発信。気候変動、エネルギー、生態系など幅広い分野で世界の動きを追っていきます。翻訳書『ポストキャピタリズム:資本主義以後の世界』(東洋経済新報社)など。