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AIという「新しい道具」で、地方の暮らしをどう守っていくのか
あらゆる領域にAIが浸透し始めています。とてつもない便利さと、とんでもない混乱を招いていることは、きっと皆さんも感じつつあるでしょう。良くも悪くも、世界のルールを書き換えつつあるこの技術を、もう私たちは「知らない」では済まされない段階に来ています。
5月25日から26日にかけて、渋谷のMAGNET by SHIBUYA109で、AIカンファレンス「AI-BB Tokyo 2026 SPRING」が開催されました。初代デジタル大臣・平井卓也氏のキーノートや、水曜日のカンパネラ・ケンモチヒデフミ氏と音楽家・大沢伸一氏によるトーク「People First. Not AI.」など、さまざまなプログラムが展開される中、とりわけ印象に残ったのは「AI×地方リーダー 連続インタビュー」と題されたセッションでした。
地域課題から製品を生み出すヒント
最初に登壇したのは、岐阜と横須賀に本社を置く、タイムカプセル株式会社の相澤謙一郎氏。「ITで地域から日本を元気に!」をミッションにしたソフトウエア開発会社です。横須賀、気仙沼、四万十、伊万里、都城、那覇など、全国に開発拠点があり、約50人のエンジニアが各地で活動しています。
「AI×地方リーダー 連続インタビュー」に登壇した3人。左から川西健雄氏(ビットコミュニケーションズ)、横地ノブ氏(生成AI最適化対策協会)、相澤謙一郎氏(タイムカプセル) Photo: Yoshiaki Seto相澤氏が紹介したのは、横須賀市でプラスチック製品を手掛けるメーカー、ニフコとの共同開発事例でした。両社は、足の把持力(足指で地面をつかむ力)を測定・トレーニングできるデバイス「HAJICHECK(ハジチェック)」を連携開発したのです。
足の把持力は体幹の安定性と密接に関わっており、近年、高齢者の転倒予防対策として注目を集めています。HAJICHECKは測定器と専用ソフトのセット製品で、ゲーム「風船パニック」を楽しみながら自然とトレーニングできることが特徴です。
アプリを作る作業そのものはAIで高速化しましたが、肝心なことは「何を、どう作るか」という企画です。地域の課題を聞き出し、製品にするという「ラストワンマイル」は、その土地にいる人間にしかできません。
「AIがあることで、小さなチームでも大企業に引けを取らないものが作れるようになりました。地方の製造メーカーと地方のソフトウエア会社でも、グローバルを相手に勝負ができる時代になったのです」と、相澤氏は力強く語りました。同社は、全国に点在する開発拠点を通じて、各地域の企業と同様の連携をしていく計画です。
地方の宿は、AIに見つけてもらえない?
続いて登壇した横地ノブ氏は、三重県を拠点に活動する「AI検索診断士」。2022年のChatGPT登場直後から「地方の情報がAIに見つけてもらえない」問題に取り組んできた人物です。
ChatGPTやGeminiといったAIが回答を生成する際、情報源として参照しているのはインターネット上のホームページです。しかし、地方の旅館や観光施設のホームページは「正しく」書かれていないことが多いため、AIはそこから情報を取得できないと、横地氏は指摘します。
「たとえば、民泊をやっている知り合いのホームページは、パパ・ママで作ったこぢんまりしたページなんですが、きちんとしたHTMLで書かれていないため、AIはそこを見ずに、楽天トラベルやじゃらんを『信頼できる情報源』として参照しています」と横地氏は語ります。
結果として、地方の宿泊施設はオンライン代理店の集客に依存することになっています。
しかし裏を返せば、ホームページを正しく整備するだけで、AIに相談している海外客に「見つけてもらえる」チャンスが高まります。AIは多言語に対応しているため、日本語のページを用意するだけで、中国語やフランス語で回答してくれます。横地氏が支援した旅館業やホテル業は、この手法でインバウンドの直接予約を増やしているそうです。
瀬戸内海の魚を、AIとセンサーで守る
最後に登壇した川西健雄氏は、香川県高松市に本社を構える株式会社ビットコミュニケーションズの代表取締役。川西氏が取り組んでいるのは、養殖業のDX(デジタルトランスフォーメーション)です。
瀬戸内海には多くの養殖用の生け簀(す)が浮かんでいますが、漁業者にとって、最も恐ろしいのが「赤潮」の発生です。海中のプランクトンが異常増殖して海面が真っ赤に染まり、酸欠状態になると、生け簀の魚がごそっと死んでしまいます。その被害額は数千万円に及ぶこともあり、それが原因で廃業する漁師もいます。
川西氏は、この課題にIoTセンサーと衛星インターネット、そしてAIで挑んでいます。生け簀に設置した各種センサーが水温や溶存酸素量、塩分濃度などのデータをリアルタイムで取得し、衛星インターネットでデータ送信。それをAIが解析して「そろそろ赤潮が出そう!」といったアラートを発信します。それをもとに、餌を減らしたり、生け簀を移動したりといった対処を、あらかじめできるようになりました。
さらに、水中カメラの映像をAIが解析して魚の大きさや成長度合いを測り「そろそろ出荷できますよ」と教えてくれます。結果として、生産者の負担は大きく減り、収益を15%向上させることができました。
AIを活用した新たなプロジェクトとして、「香川の絶滅危惧野菜」の保護構想を語る川西氏 Photo: Yoshiaki Setoさらに川西氏は、ドローンとAIで「イノシシの獣害対策」にも取り組んでいます。高齢化の進む瀬戸内海の離島では、イノシシによる農作物被害が深刻な問題になっています。そこで、ドローンでイノシシの動きを把握し、AIで対策を支援することが試みられているのです。
見ているのはAIではなく、地域の未来
3人に共通しているのは、「AIの導入」自体を目的にしていない点です。相澤氏は地方産業の空洞化、横地氏はインバウンド集客の課題、川西氏は赤潮による漁業被害。それぞれが向き合っているのは、地域に根ざした具体的な課題であり、AIはそれを解決するための手段にすぎません。
1983年 神奈川生まれ。"ゴミ"がテーマ。 長崎大学で環境科学を学び、上京。粗大ゴミをリユースするサービス「エコランド」の広報に携わる。2009年グッドデザイン賞受賞を担当。2010年末に退職し、東南アジア諸国のリユース・リサイクル・ゴミ事情を取材してまわる【ゴミタビ】を実施した。 帰国した矢先に東日本大震災が発生。仙台で復興支援事務局に携わりながら、災害廃棄物の処理について発信していく。












