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Art & Design

福祉の現場に参加型アートを アーツアライブの試み

2014.12.08 平澤 直子

高齢者施設の池に350ものキャンドルを浮かべた「光の河」プロジェクト photo:Arts Alive

11月29日、東京・世田谷区でアートに関する交流会2014が行われ、その基調講演に一般社団法人アーツアライブ代表理事の林容子氏が登壇しました。アーツアライブは、アートで人と社会を元気づけ、「ALIVE(活き活きさせる)」ことを目的に活動する団体で、特に病院や高齢者施設でたくさんのプログラムを実施しています。

林氏が医療・福祉現場でのアートに出会ったのは1999年、イギリスでのこと。アートマネージャーをしていた氏が国際会議に参加した際、現地の病院や施設を視察し、まるで美術館のような様子、数々のワークショップやパフォーマンスが行われている様子に、そして日本の医療福祉の現状、現場とはあまりに異なることに衝撃を受けたといいます。

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ロンドンの病院で障害を持つ青年が透析中の子どもを楽しませている様子。障害者だから助けてあげよう、という日本の考えとはまったく異なる photo:Arts Alive


帰国後早速、静岡県富士市の特別養護老人ホームでアートプロジェクトを開始、それからの十数年でプロジェクトの実施地は日本全国に広がり、参加者は3000人を超えました。

アートになじみの薄い日本の施設でそれだけの展開をしてきたアーツアライブのプロジェクトの秘訣は、「場に応じたもの」「ソリューション提案型」であること。ただ絵を飾るのではなく、まずはその施設の問題点をヒアリングし、アートを使った解決案を示すのです。たとえば2006年に行った光のカーテンプロジェクトは、大きな窓の外の景色が良くないとの問題から始まりました。そこでアーツアライブでは、その施設の利用者(高齢者)にプラバン(プラスチックに絵を描き加熱すると縮んで硬くなるもの)に絵を描いてもらい、それをつなげてすだれを作りました。これで外の景色は気にならず、光がプラバンに反射するとても美しい光景が生まれました。

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光のカーテンプロジェクト photo:Arts Alive


ここに見られるようにアーツアライブのプロジェクトのもうひとつの特徴は「参加型」であることです。どんなプロジェクトでも、参加者の意思を聞いたり手を動かしてたりしてもらう。こうすることで、参加者には自己肯定感、自己効力感が生まれますが、これが脳を活性化し健康に保つために必要な要素の一つであるといわれています。氏の国立長寿医療研究センターとの共同研究では、アートプログラムに参加した高齢者の健康機能が向上したという結果が出ていますし、アメリカでの研究結果ではさらに、通院回数が減少したという結果もあります。

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国立長寿医療研究センターでの壁画プロジェクト photo:Arts Alive


また、アーツアライブでは認知症の人とその家族、介護士を対象としたACP(※、Art Communication Project)も導入。アートエデュケーターの助けを借りて、認知症の人がアートを前に自分の意見をはっきりと言葉にしたり笑顔になったり、ときにはずっと話さなかった故郷の話をしたりと、認知症患者にとってもケアをする側にとってもポジティブな変化をもたらしています。

MoMA(ニューヨーク近代美術館)が開発した対話型鑑賞プログラム。

認知症は、脳の細胞が死んだり働きが悪くなったりするために様々な障害が起きるものですが、脳細胞は刺激により死ぬまで成長し、また、ある部分の機能がなくなっても脳の他の部分がそれを補ったりするため、言葉や体が不自由になっていく分、アートに使う機能は発達することもあります。「医師はできないことに目を向けるが、アートはその人たちのできるところに目を向けるべきなのではないか、それがQOL(Quality of Life, 生活の質の向上)につながるのではないか」と氏はいいます。

活動を広める目下の課題はやはり資金の調達。海外では大半が寄付で賄われ、カナダにはアトリエ付き施設もありますが、寄付文化の乏しい日本ではなかなか難しいといいます。前述のように、アートにより通院回数が減るという研究結果もあるのだから、介護保険にアートを組み込んでほしいと氏は語っています。



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